この研究は、トルコの研究機関の研究論文です。
掲載誌:Foods
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
なぜスベリヒユの洗浄を調べたのか
スベリヒユ(Portulaca oleracea L.)は古くから食用・薬用に利用されてきた植物で、ビタミンCやミネラル、ビタミンE、α-リノレン酸などのω-3脂肪酸に富み、ポリフェノール類やカロテノイドといった生理活性成分も含むと論文は紹介しています。トルコやギリシャなど地中海地域の食文化では日常的な野菜のひとつです。
著者らが問題としたのは、こうした葉物野菜に残る農薬です。アボカドやバナナのように皮をむける果物では、皮ごと残留農薬の大部分を取り除けますが、スベリヒユやレタス、ホウレンソウ、パセリのような葉物にはむける皮がなく、そのまま丸ごと食べられます。そのため残留農薬が課題になりやすいと論文は指摘します。
家庭でできる対策として一般的なのは水洗いですが、洗浄の効果は農薬の性質や野菜の種類、洗浄方法によって変わります。近年は超音波を利用した洗浄(超音波洗浄)が、洗剤などの薬剤を加えずに残留農薬を減らす手段として検討され、家庭用機器も市販されています。ただし著者らによれば、スベリヒユについて、一般的な洗浄液と超音波洗浄を、残留農薬の低減効果と品質への影響の両面から系統的に比べた研究はこれまで見当たりませんでした。そこで本研究は、両者を並べて比較することを目的としています。
どのように調べたか
研究チームはイスタンブールの店で購入した新鮮なスベリヒユを100gずつに分け、性質の異なる4種類の農薬——アセタミプリド、シペルメトリン、イミダクロプリド、プロパルギット——を人工的に表面に付着させました。アセタミプリドとイミダクロプリドは植物内部を移動する「浸透性」で水に比較的溶けやすく、シペルメトリンとプロパルギットは浸透性がなく水に溶けにくい(脂に馴染みやすい)性質を持ちます。この違いが葉の表面への残りやすさや洗い落ちやすさに影響すると考えられたためです。付着は、混合農薬溶液2.0mLを校正済みマイクロピペットで各試料に均一に適用し、その際に葉を静かに混ぜて付き方のむらを抑える方法で行われました。各試料が受け取った量は農薬ごとに10µg、濃度として0.10mg/kgに相当し、その後室温で4時間置いて乾燥させ、葉の表面となじませています。
洗浄は、試料100gに対して洗浄液400mLという割合で行われました。比較したのは、水道水、5%重曹(炭酸水素ナトリウム)、5%酢酸、5%クエン酸、酢酸とクエン酸を2.5%ずつ混ぜた溶液という従来型の5種類と、水道水を使った超音波洗浄(35kHz)を5分・10分・15分行う3条件です。超音波中は氷で冷やして水温を20〜25℃程度に保っています。
残留農薬の測定には、QuEChERS法という前処理でサンプルから農薬を抽出し、液体クロマトグラフィーおよびガスクロマトグラフィーと質量分析を組み合わせた装置(LC-MS/MSとGC-MS/MS)で分析する手法が使われました。分析法は国際的なガイドラインに沿って妥当性が確認され、検量線の相関係数はすべての農薬で0.999だったと報告されています。
同時に、洗浄後の品質も測定されました。色(明るさ・赤み・黄色み、および対照との総合的な色差ΔE*)、pH、滴定酸度、可溶性固形分、総ポリフェノール量、総フラボノイド量、クロロフィルa・b、DPPH法による抗酸化能、歯ごたえに関わる硬さ、そして冷蔵保存8日間の重量減少です。各洗浄区は3つの独立した試料で繰り返され、統計的な差は有意水準5%で判定されました。
主な報告結果
残留農薬の減少率は農薬によって傾向が分かれました。イミダクロプリドではすべての洗浄処理で70.00〜72.22%、プロパルギットでは27.00〜52.00%の低減が得られましたが、この2つについては処理間に統計的に意味のある差は検出されませんでした。著者らは、これは「すべての処理が同等だった」ことを示すのではなく、今回の繰り返し数とばらつきのもとでは差を区別できなかった、という意味だと明確に述べています。
アセタミプリドでは、酢酸とクエン酸を混ぜた酸性処理で最も大きな低減が得られました。シペルメトリンでは重曹が数値上は最大でしたが、超音波洗浄の5分・10分・15分の各処理との差は統計的に有意ではありませんでした。つまり、4種類すべてに最適な単一の洗い方はなかったというのが報告の要点です。
一方で、農薬をよく落とした処理が品質面でも良いとは限りませんでした。重曹処理では明るさと黄色みの値が他の複数の処理より有意に低く、対照との色差ΔE*は6.51±0.91と最も大きく、色や見た目の変化が最大でした。さらに重曹処理は抗酸化能、総ポリフェノール量、総フラボノイド量がすべての処理の中で最も低い値でした。酸性処理にも影響がみられ、クエン酸処理ではクロロフィルbが、酢酸とクエン酸の混合処理ではクロロフィルaが最も低くなり、この混合処理は酢酸単独やクエン酸単独と比べてフラボノイド・総ポリフェノール・抗酸化能を有意に下げました。
超音波洗浄では、5分と10分の処理でポリフェノール類などが最も高い値を示しました。著者らはこれを、超音波が組織を壊して成分が抽出されやすくなった結果であり、新たな成分が生成されたわけではないと注意を促し、スベリヒユ個体間のばらつきも一因となりうるとしています。硬さについては、5分の超音波処理と酢酸・クエン酸混合処理は水道水と有意差がありませんでしたが、他の処理は水道水より有意に低下しました。保存中の重量減少は10分の超音波処理で最も大きく、8日目に最も水分を保っていたのは水道水(9.95±0.07%)でした。
総合すると著者らは、5分間の超音波洗浄が残留農薬の低減と複数の品質特性の維持との間で比較的良好な折り合いをつけたと述べています。ただし、より長い超音波処理でみられた効果は、長く水に浸けていたこと自体の影響と区別できないとも付記しています。
著者らは研究の限界も明示しています。今回は農薬を市販の製剤ではなくアセトニトリルを含む標準溶液として塗布した人工的な表面汚染モデルであり、この溶媒が葉の表面のワックス層を変化させ、農薬の付き方や浸透の仕方に影響した可能性があります。また付着後4時間しか置いていないため、気象による風化や植物への取り込み、組織への結合が進む実際の圃場の残留とは異なり、洗浄効果を実際より高く見積めている可能性があるとしています。さらに、洗浄液中の農薬や分解物を分析していないため、濃度の減少が洗浄液への移行によるものか、容器への吸着、化学的分解、植物組織内での再分布によるものかは特定できないと述べています。
この研究が伝えること
この研究が示しているのは、「よく落ちる洗い方」と「野菜の質を保つ洗い方」が必ずしも一致しないということです。重曹や高濃度の酸性溶液は特定の農薬に対して有効でしたが、色やポリフェノール、抗酸化能、クロロフィルといった品質指標に不利な変化を伴いました。農薬の低減だけを指標に洗浄法を評価すると、こうした代償が見えなくなります。
また、水に溶けやすさや脂への馴染みやすさといった農薬の性質だけでは洗い落ちやすさを説明しきれず、製剤の種類や葉の表面への付き方、組織との相互作用、処理条件なども関わるという著者らの指摘は、洗浄の効果を単純な法則で予測することの難しさを示しています。
著者らは本研究を人工的な汚染モデルに基づくものとして位置づけ、その数値を実際の栽培現場にそのまま当てはめることはできないと明言しています。この慎重な線引きも含めて、葉物野菜の洗浄を残留農薬と品質の両面から同時に見比べる枠組みを提示したことが、この報告の意味だといえます。
著者:Yağmur Küçükduman(Department of Biotechnology, Graduate School, Yeditepe University, Ataşehir, 34755 İstanbul, Turkey)、Özge Taştan(Department of Food Engineering, Faculty of Engineering and Natural Sciences, Yeditepe University, Ataşehir, 34755 İstanbul, Turkey)、Buket Şahyar(R&D Center, Işık Tarım Ürünleri San.ve Tic. A.S., Kemalpaşa, 35733 İzmir, Turkey)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Yağmur Küçükduman, Özge Taştan, Buket Şahyar. Effects of Conventional and Ultrasound-Assisted Washing on Pesticide Residue Reduction and Quality Characteristics of Purslane (Portulaca oleracea L.): An Artificial Surface Contamination Study. Foods 2026-09-19. DOI: 10.3390/foods15183317. 原著ライセンス:CC BY.