著者の所属・活動拠点の国は、ブラジルです。
掲載誌:Foods
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
農地で使われた農薬は、雨水による流出や地下への浸透、散布時の飛散によって川や湖に入り、魚などの水生生物にまで届くことがあります。魚に含まれる農薬を調べるには、多数の成分をごく微量でも同時に測れる液体クロマトグラフィー・タンデム質量分析(UHPLC-MS/MS)が使われています。ただし魚の身には脂質が多く、試料から農薬を取り出す際に脂質も一緒に抽出されてしまいます。この脂質が測定を妨げ、信号を強めたり弱めたりする「マトリックス効果」の原因になります。
そのため分析の前に、抽出液から邪魔な成分を取り除く「クリーンアップ」が欠かせません。この工程では市販の吸着材が広く使われていますが、より選択性の高い新素材の中には、合成の手間、コスト、入手のしやすさ、環境負荷に課題があるものもあります。研究チームは、身近で安価な再生可能資源であるへちま(Luffa cylindrica)のスポンジに注目しました。へちまは繊維が立体的な網目状につながった多孔質の構造を持ち、油分をよく吸着します。著者らは、カニなど甲殻類の殻に含まれるキチンから得られるキトサンでこのスポンジを加工し、魚の抽出液をきれいにする吸着材として使えるかを調べました。
どのように調べたか
研究チームは、細かく砕いたへちまスポンジをキトサンを溶かした酢酸溶液に12時間浸し、洗浄・乾燥させて吸着材を作りました。電子顕微鏡で観察すると、加工後は繊維表面がキトサンの層で覆われて滑らかになっていましたが、立体的な多孔質構造は保たれていました。赤外分光分析では、キトサンに特徴的な化学構造の存在を示す変化が確認され、キトサンがスポンジに取り込まれたことが裏付けられました。
続いて、魚の切り身から抽出液を作り、クリーンアップの方法を5通り比較しました。比較対象は、脂質除去用やリン脂質除去用の市販カートリッジ2種、従来よく使われる市販吸着材の組み合わせ(PSAとC18)、吸着材を使わない乳化・解乳化法、そして今回作ったキトサン加工へちまスポンジです。農薬を一定量加えた試料を使い、加えた量の70〜120%を回収でき、かつばらつきが20%以下だった化合物の数で性能を評価しました。
さらに、農薬を含まないサケの切り身を使って、欧州の分析指針に沿って分析法の妥当性を確認しました。その後、ブラジル南部のスーパーマーケットで購入した市販の魚の切り身20試料にこの方法を適用しました。
主な結果
基準を満たした化合物数が最も多かったのは、市販のリン脂質除去カートリッジ(Phree)で134化合物でした。キトサン加工へちまスポンジは130化合物でこれに続き、回収率は71〜118%でした。PSAとC18の組み合わせは124化合物、乳化・解乳化法は116化合物、市販の脂質除去カートリッジ(EMR-Lipid)は115化合物でした。へちま吸着材は最上位の市販品には及ばなかったものの、広く使われている市販吸着材と同等以上の結果を示しました。リン脂質の除去も乳化・解乳化法より効率的でした。著者らは、キトサンのアミノ基や水酸基が脂質やリン脂質と相互作用し、取り除く働きをしている可能性を挙げています。
妥当性確認では、マトリックス効果の大きさが農薬によって異なりました。たとえばカルベンダジムでは5.3%と小さく、アトラジンでは46.8%、ダイアジノンでは72.9%でした。このため研究チームは、魚の抽出液で作った検量線を使って影響を補正しています。130農薬について、日内の回収率は71〜115%でした。確実に定量できる最低濃度(定量下限)は、109化合物で0.001 mg/kg、21化合物で0.005 mg/kgでした。環境への配慮と実用性を評価する指標では、それぞれ0.62と75.0の得点が報告されています。
市販の魚の切り身を分析すると、一部の試料から複数の農薬が見つかりました。最も高濃度だったのは除草剤アトラジンで、1つの試料から0.1308 mg/kgが検出されました。ほかにトリフロキシストロビン、フェンプロピモルフ、エポキシコナゾール、プロピコナゾール、ピラクロストロビン、クロマゾンが0.0010〜0.0897 mg/kgの範囲で検出されています。
研究が示すこと
この研究は、へちまという安価で再生可能な天然素材をキトサンで加工すると、脂質の多い魚の抽出液を浄化する吸着材として、市販品に近い性能を発揮しうることを示しました。開発された方法により、魚の切り身に含まれる多数の農薬をごく低い濃度まで測定できることも報告されています。実際の市販試料から農薬が検出されたことを受けて、著者らは水生生物に残る農薬を継続的に監視することの重要性を指摘しています。
原著論文の著者・所属:Franciele Fátima Machado(Chemistry Department, Federal University of Santa Maria (UFSM), Santa Maria 97105-900, RS, Brazil)、José Dilson Francisco da Silva(Federal Institute of Education, Science, and Technology of Tocantins, Araguaina 77824-838, TO, Brazil)、Luana Floriano(Chemistry Department, Federal University of Santa Maria (UFSM), Santa Maria 97105-900, RS, Brazil)、Juliana Diniz de Barros Kuntz(Chemistry Department, Federal University of Santa Maria (UFSM), Santa Maria 97105-900, RS, Brazil)、Alcides Ferreira Coradini(Chemistry Department, Federal University of Santa Maria (UFSM), Santa Maria 97105-900, RS, Brazil)、Osmar Damian Prestes(Chemistry Department, Federal University of Santa Maria (UFSM), Santa Maria 97105-900, RS, Brazil)、Renato Zanella(Chemistry Department, Federal University of Santa Maria (UFSM), Santa Maria 97105-900, RS, Brazil)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Franciele Fátima Machado, José Dilson Francisco da Silva, Luana Floriano, et al. Evaluation of a Luffa Cylindrica-Based Biosorbent as an Alternative for Sample Preparation in the Multiresidue Determination of Pesticides in Fish Fillets by UHPLC-MS/MS. Foods 2026-10-17. DOI: 10.3390/foods15203696. 原著ライセンス:CC BY.