この研究は、ブラジルの研究機関の研究論文です。
掲載誌:PubMed
ライセンス: CC BY 確認元: OpenAlex
なぜ柑橘類の農薬分析は難しいのか
果物や野菜に残った農薬を調べる検査は、食品の安全性を確かめるうえで欠かせません。しかし著者らによれば、柑橘類の果実は酸味が強く、含まれる成分の組み合わせも複雑なため、分析の対象としては扱いにくい相手だといいます。
論文では、こうした性質が二つの問題を生むと説明されています。一つは、果実から農薬成分を取り出す作業(抽出)の効率が落ちること。もう一つは「マトリックス効果」と呼ばれる現象で、測りたい農薬以外の果実由来の成分が測定を邪魔し、値が実際より高くなったり低くなったりすることです。研究チームは、とくに酸性の性質をもつ農薬でこの影響が大きいと指摘しています。
そこで著者らが取り組んだのが、タヒチライム(Citrus latifolia)を対象に、136種類の農薬をまとめて調べられる分析法をつくり、その性能を確かめることでした。
どのような方法を試したか
研究チームが土台にしたのは、農薬の残留検査で広く使われている「QuEChERS法(キャッチャーズ法)」という前処理の手順です。この手順は、すりつぶした試料から溶媒を使って農薬を取り出し、測定にかけられる状態に整えるものです。
著者らはここに二つの工夫を加えました。まず、抽出に使うアセトニトリルという溶媒に1%のギ酸を加えて酸性にしたこと。そしてもう一つは、通常なら行う「クリーンアップ」(余計な成分を取り除く精製の工程)をあえて省いたことです。論文では、この省略によって農薬の回収率を高めるとともに、一度に処理できる試料数を増やすことをねらったと述べられています。
こうして準備した試料の測定には、超高速液体クロマトグラフィー‐タンデム質量分析(UHPLC–MS/MS)を用いています。これは、混ざり合った成分を順番に分離したうえで、一つひとつの物質の重さの情報から種類と量を特定する装置です。分析法の評価は、欧州で用いられているSANTEガイドラインという基準に沿って行われました。
報告された結果
論文によると、検証の結果、136種すべての農薬で検量線の直線性は決定係数R²が0.99以上となりました。定量下限(信頼できる数値として量を出せる下限)は0.01 mg/kgでした。回収率(試料に加えた農薬のうち実際に測り取れた割合)は70〜120%の範囲に収まり、大半の物質で相対標準偏差(測定を繰り返したときのばらつきの指標)は20%以下だったと報告されています。
著者らがとくに注目しているのは、従来のQuEChERS法では扱いが難しいとされてきた12種類の酸性農薬について、安定した性能が得られた点です。
さらに研究チームは、この方法を実際に流通する22点の試料に適用しました。その結果、14種類の農薬残留が検出され、なかには欧州連合(EU)が定める残留基準値を超える成分もあったと述べられています。
この研究が示すもの
著者らは、今回の方法を、複雑な成分をもつ柑橘類の農薬検査に対して、手順が簡素で効率がよく安定した選択肢になると位置づけています。とりわけ、これまで測りにくかった酸性農薬を扱ううえでの利点があるとしています。
分析が難しい対象で多数の農薬を一度に把握できる手法が整えられたこと、そして実際の試料からも残留が確認されたことは、検査を担う現場にとって実務的な意味をもつ報告といえます。
著者:Karolaine da Silva Albarnaz(Laboratory of Pesticide Residue Analysis (LARP), Department of Chemistry, Federal University of Santa Maria, Av. Roraima, 1000, Santa Maria 97105-900, RS, Brazil)、Juliana Diniz de Barros Kuntz(Laboratory of Pesticide Residue Analysis (LARP), Department of Chemistry, Federal University of Santa Maria, Av. Roraima, 1000, Santa Maria 97105-900, RS, Brazil)、Luana Floriano(Laboratory of Pesticide Residue Analysis (LARP), Department of Chemistry, Federal University of Santa Maria, Av. Roraima, 1000, Santa Maria 97105-900, RS, Brazil)、Franciele F. Machado(Laboratory of Pesticide Residue Analysis (LARP), Department of Chemistry, Federal University of Santa Maria, Av. Roraima, 1000, Santa Maria 97105-900, RS, Brazil)、Martha Bohrer Adaime(Laboratory of Pesticide Residue Analysis (LARP), Department of Chemistry, Federal University of Santa Maria, Av. Roraima, 1000, Santa Maria 97105-900, RS, Brazil)、Renato Zanella(Laboratory of Pesticide Residue Analysis (LARP), Department of Chemistry, Federal University of Santa Maria, Av. Roraima, 1000, Santa Maria 97105-900, RS, Brazil)、Osmar D. Prestes(Laboratory of Pesticide Residue Analysis (LARP), Department of Chemistry, Federal University of Santa Maria, Av. Roraima, 1000, Santa Maria 97105-900, RS, Brazil)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Karolaine da Silva Albarnaz, Juliana Diniz de Barros Kuntz, Luana Floriano, et al. Acidified Acetonitrile Extraction and Ultra-High Performance Liquid Chromatography-Tandem Mass Spectrometry for Multiresidue Determination of 136 Pesticides in Tahiti Lime (Citrus latifolia).. PubMed 2026-08-24. DOI: 10.3390/foods15172967. 原著ライセンス:CC BY.