著者の所属・活動拠点の国は、ギリシャです。
掲載誌:Microorganisms
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
傷みやすいイチゴを食べられる膜で守る
イチゴは世界中で好まれる果物ですが、皮が薄く柔らかいうえに呼吸が盛んで水分も多いため、冷蔵しても傷みやすい果物です。著者らは、収穫後の園芸作物の多くが消費者に届く前に失われていることを背景に、品質を保つ新しい方法を探りました。従来の冷却、包装内の気体の調整、殺菌剤の使用といった方法には、コストや薬剤の残留、においや色の変化などの課題があるためです。
研究チームが注目したのは、果物の表面を覆う「可食性コーティング」です。食べられる素材の薄い膜で、水分や気体の出入りを抑えるほか、有用な成分を運ぶ役割も期待されています。本研究では、海藻由来の多糖類であるアルギン酸ナトリウムを使い、性質の異なる薄い層を何度も重ねて付着させる「層を重ねる塗布法」で膜を作りました。1回浸すだけの方法よりも、表面に均一にしっかり付きやすいとされる方法です。さらに膜にはプロバイオティクスを加えました。プロバイオティクスとは、適量を摂ると体に良い働きをもたらす生きた微生物のことで、今回はカゼイ菌シロタ株とラムノサス菌GG株の2種類の乳酸菌が使われました。
4種類のイチゴを4℃で14日間比べる
研究チームは、ギリシャの店で購入した、大きさや色、熟し具合のそろったイチゴを使いました。比較したのは、何も塗らないイチゴ、乳酸菌を含まない多層膜を塗ったイチゴ、シロタ株入りの膜を塗ったイチゴ、GG株入りの膜を塗ったイチゴの4種類です。これらを4℃で14日間保存しました。
保存中は、重さの減り方、傷みの見た目、酸味と糖度、果肉の硬さ、表面の色、微生物の数、有機酸と糖の量を調べました。研究所の職員10人による官能評価も行い、色、におい、食感、新鮮さを点数で評価しました。
重さと硬さの変化を抑え、カビの増殖も抑制
膜を塗ったイチゴは、乳酸菌の有無にかかわらず、塗らないものより重さの減少が有意に小さくなりました。14日目の重量減少率は、膜なしが約11.5%だったのに対し、乳酸菌なしの膜では約8.0%でした。乳酸菌入りの膜ではさらに減少が小さく、保存7日目以降、膜なしや乳酸菌なしの膜との差がはっきり表れたと報告されています。
硬さについては、膜なしのイチゴが保存中ずっと最も柔らかい値でした。一方、膜を塗ったイチゴはいずれも硬さを保っていました。なかでもシロタ株入りの膜は、5日目の時点でほかの処理より2〜3倍ほど高い硬さを示しました。色の面では、膜を塗ったイチゴはいずれも赤みの低下が小さく、シロタ株入りでは明るさが最も高くなりました。著者らは、これをつやのある見た目を示すものと解釈しています。
膜に加えた2種類の乳酸菌は、14日間を通して果実1グラムあたりおよそ100万個前後の水準で生き続けました。乳酸菌入りの膜ではカビの増殖が抑えられました。これに対し、膜なしと乳酸菌なしの膜では、一般的な細菌の数が保存中に有意に増えました。また、乳酸菌入りのイチゴでも乳酸は検出されず、著者らは乳酸菌による発酵は起きていなかったと結論づけています。ブドウ糖と果糖は保存中にほとんどの処理で増えましたが、シロタ株入りでは増えませんでした。
官能評価では、膜を塗ったイチゴはいずれも9日目まで各項目で高い点数を保ちました。一方、膜なしのイチゴは色、食感、新鮮さの点数が下がり、果肉の縮みや表面の黒ずみが見られました。14日目にはほぼすべてのイチゴが受け入れられない評価になりましたが、シロタ株入りのものだけは、においと色についてかろうじて受け入れられる水準にとどまりました。
保存性の向上と乳酸菌の運び手としての可能性
著者らは、乳酸菌を組み込んだアルギン酸の多層膜が、4℃で保存したイチゴの品質と日持ちを高める可能性をはっきり示したとまとめています。2種類の乳酸菌のうち、食感や見た目の維持ではシロタ株がより良い結果を示しました。
さらに著者らは、生き残った菌の量から試算し、このイチゴを1日100グラム以上食べれば、一般的に報告されているプロバイオティクスの摂取量の範囲に入る量の菌を摂れると見積もっています。ただし、これは菌数からの推定であり、本研究で人の健康への効果を調べたわけではありません。今回の研究は、果物の表面を覆う食べられる膜が、鮮度を保つ役割と生きた乳酸菌を運ぶ役割を同時に果たしうることを示した報告といえます。
原著論文の著者・所属:Rozi Perndoj(Institute of Technology of Agricultural Products, Hellenic Agricultural Organization-DIMITRA, S. Venizelou 1, 14123 Athens, Greece; Laboratory of Microbiology and Biotechnology of Foods, Department of Food Science and Human Nutrition, School of Food and Nutritional Sciences, Agricultural University of Athens, Iera Odos 75, 11855 Athens, Greece)、Polyxeni Chryssanthou(Institute of Technology of Agricultural Products, Hellenic Agricultural Organization-DIMITRA, S. Venizelou 1, 14123 Athens, Greece)、Miltiadis Christopoulos(Institute of Technology of Agricultural Products, Hellenic Agricultural Organization-DIMITRA, S. Venizelou 1, 14123 Athens, Greece)、Anthoula Argyri(Institute of Technology of Agricultural Products, Hellenic Agricultural Organization-DIMITRA, S. Venizelou 1, 14123 Athens, Greece)、Chrysoula Tassou(Institute of Technology of Agricultural Products, Hellenic Agricultural Organization-DIMITRA, S. Venizelou 1, 14123 Athens, Greece)、Nikolaos Chorianopoulos(Laboratory of Microbiology and Biotechnology of Foods, Department of Food Science and Human Nutrition, School of Food and Nutritional Sciences, Agricultural University of Athens, Iera Odos 75, 11855 Athens, Greece)、Anastasia E. Kapetanakou(Institute of Technology of Agricultural Products, Hellenic Agricultural Organization-DIMITRA, S. Venizelou 1, 14123 Athens, Greece)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Rozi Perndoj, Polyxeni Chryssanthou, Miltiadis Christopoulos, et al. Investigation of Multilayer Edible Probiotic Coatings During Refrigerated Storage of Strawberries: A Focus on Lacticaseibacillus casei Shirota and Lacticaseibacillus rhamnosus GG. Microorganisms 2026-10-07. DOI: 10.3390/microorganisms14102279. 原著ライセンス:CC BY.