著者の所属・活動拠点の国は、インドネシアです。
掲載誌:Chemistry & biodiversity
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: Europe PMC
産地の環境とイチゴの成分の関係を探る
インドネシアでは、イチゴは主に涼しい高地で栽培されています。ただ、標高や気温、雨量、土壌の違いが果実にどのような成分の差を生むのかを体系的に調べた研究は少ないと、著者らは指摘しています。
そこで研究チームは、ジャワ島の4つの産地(タワンマング、プルバリンガ、バンドン近郊のチウィデイ、東ジャワのバトゥ)のイチゴを取り上げました。果実の栄養成分や機能性が期待される成分(生体に何らかの働きを持つ可能性があるとされる成分)を調べ、産地の気候や土壌の違いとの関係を探ることが目的です。著者らによると、インドネシアの複数の高地産地のイチゴをLC-HRMSという手法でまとめて比較したのは、この研究が初めてです。
気候・土壌と果実の性質を幅広く測定
研究チームはまず、各産地の気温と雨量を気象機関のデータや農業普及機関の報告から集め、栽培経験5年以上の農家への聞き取りで栽培条件を確かめました。あわせて、畑の根が張る深さ0〜20センチの土を採り、水分、有機炭素、窒素、リン、カリウム、pHなどを分析しました。産地の条件には大きな差がありました。最も標高の高いタワンマング(1800メートル)は平均気温15〜18℃と最も涼しく、年間雨量も約3500ミリと最も多い産地でした。一方、バトゥは標高1200メートル、気温20〜22℃、雨量約2500ミリで、土の水分は最も少ないものの、リンとカリウムは最も多く含まれていました。
果実については、水分、灰分(ミネラル分の目安)、糖、糖度(Brix)、酸度、pH、脂質、たんぱく質、繊維、果皮の色を測りました。さらに、ポリフェノールの総量、赤い色素であるアントシアニンの量、抗酸化活性も調べました。抗酸化活性の測定には、色のついたラジカル(反応しやすい分子)をどれだけ打ち消せるかを見るDPPH法と、鉄イオンを還元する力を見るFRAP法を使っています。
加えて、LC-HRMS(液体クロマトグラフィー高分解能質量分析)による成分の網羅的な分析も行いました。果実に含まれる多数の成分をまず分離し、それぞれの質量を精密に測ることで、どんな化合物が含まれているかを推定する手法です。ただし論文は、この分析で示した値は全体に占める信号の相対的な割合であり、実際の濃度そのものではないと断っています。
甘さ・色・抗酸化成分に産地ごとの特徴
産地間の差が小さかった項目もあります。灰分は0.17〜0.21%で、気候の違いにかかわらずミネラル分の構成は比較的安定していました。脂質とたんぱく質にも、統計的に意味のある差は見られませんでした。これに対して果実の水分は、バトゥの90.96%からタワンマングの92.92%まで、灰分より目立った違いがありました。著者らは、この差には標高や気温、雨量の違いが反映されていると考えています。
甘さに関わる項目でも、はっきりした違いが出ました。糖の含有量が最も高かったのはバトゥ(2.17%)とチウィデイ(2.15%)で、最も低かったのはプルバリンガ(1.26%)でした。糖度もバトゥが8.90 °Brixで最も高く、プルバリンガは5.10 °Brixで最も低い値でした。果実のpHはバトゥが4.82で最も高く、プルバリンガが3.58で最も低くなっていました。
赤い色素のアントシアニンは、100グラムあたり5.52〜18.15ミリグラム(シアニジン-3-O-グルコシド換算)の範囲でした。最も多かったのはバトゥ、最も少なかったのはプルバリンガです。色の測定でもバトゥの赤みが最も強く、両者の結果は一致していました。
DPPH法による抗酸化活性は、バトゥ(96.66%)とチウィデイ(95.94%)で特に高い値でした。タワンマングは87.78%とやや低かったものの、ポリフェノールの総量は100グラムあたり7.41ミリグラム(没食子酸換算)で、4産地の中で最も多くなりました。著者らはこの食い違いについて、抗酸化の力はポリフェノールの総量だけでは決まらず、個々の成分の種類によっても変わるためだと考察しています。FRAP法の値(12.19〜12.99)は、産地間で大きな差がありませんでした。
LC-HRMSの分析では、タワンマングのイチゴが最も多様な成分を示しました。エラグ酸、ケンフェロール、GABA、アコニット酸、ミケリアニンなどが検出されています。チウィデイではGABAとミケリアニンの信号が目立ちましたが、エラグ酸は検出されませんでした。プルバリンガではエラグ酸とゲニステインの信号が強く、バトゥでは桂皮酸などの比較的単純な有機酸が中心でした。
産地の違いが果実の個性に結びつく可能性
研究チームは、産地の気候や土壌の違いが、イチゴの甘さ、色、抗酸化に関わる成分の構成と関連している可能性を示しました。バトゥやチウィデイは甘く色の濃い果実、タワンマングはポリフェノールが多く成分の多様な果実という傾向が見られています。
ただし、著者ら自身はこの結果を慎重に位置づけています。アントシアニン量と気温・土壌成分との相関は、4地点という少ないデータに基づくもので、統計的に有意ではありませんでした。また、品種、収穫時の熟度、季節、栽培方法の違いも十分にはそろえられていません。そのため論文は、今回の結果を一般化できる結論ではなく、予備的な傾向として示しています。
それでも、熱帯の高地で育つイチゴについて、産地の環境と果実の成分を同じ枠組みで比べたこの研究は、産地ごとの果実の個性がどこから生まれるのかを考える手がかりとなる報告です。
原著論文の著者・所属:Habibi S(Department of Biology, Faculty of Science and Technology, Universitas Terbuka, Tangerang Selatan, Indonesia.)、Nuryandani E(Department of Biology, Faculty of Science and Technology, Universitas Terbuka, Tangerang Selatan, Indonesia.)、Suhartatik N(Department of Food Technology, Faculty of Science and Technology, Universitas Slamet Riyadi, Surakarta, Jawa Tengah, Indonesia.)、Husnun F(Department of Food Technology, Faculty of Science and Technology, Universitas Slamet Riyadi, Surakarta, Jawa Tengah, Indonesia.)、Mustofa A(Department of Food Technology, Faculty of Science and Technology, Universitas Slamet Riyadi, Surakarta, Jawa Tengah, Indonesia.)、Prasetyaningtyas NY(Department of Food Technology, Faculty of Science and Technology, Universitas Slamet Riyadi, Surakarta, Jawa Tengah, Indonesia.)、Djaafar TF(Research Center for Technology and Food Processing, National Research and Innovation Agency (BRIN), Gunungkidul, Yogyakarta, Indonesia.)、Marwati T(Research Center for Technology and Food Processing, National Research and Innovation Agency (BRIN), Gunungkidul, Yogyakarta, Indonesia.)、Fajariyah A(Research Center for Technology and Food Processing, National Research and Innovation Agency (BRIN), Gunungkidul, Yogyakarta, Indonesia.)、Fitrotin U(Research Center for Technology and Food Processing, National Research and Innovation Agency (BRIN), Gunungkidul, Yogyakarta, Indonesia.)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Habibi S, Nuryandani E, Suhartatik N, et al. LC-HRMS Profiling and Physicochemical Characterization of Strawberries From Agroclimatic Region in Java, Indonesia. Chemistry & biodiversity 2026-10-01. DOI: 10.1002/cbdv.71832. 原著ライセンス:CC BY.