著者の所属・活動拠点の国は、タイです。
掲載誌:Poultry
ライセンス: CC BY 4.0 対象: 公開論文 確認元: 論文PDF
研究の目的
タイは鶏肉の主要な生産・輸出国です。なかでもタイ在来鶏は熱帯の気候に適応した重要な遺伝資源で、しまった食感と独特の風味で知られています。冷蔵は肉の品質を保つ基本的な方法ですが、冷蔵中でも食肉の内部では化学的な変化が続き、鮮度や日持ち、消費者の受け入れやすさに影響します。
研究チームは、在来鶏の胸肉を4℃で10日間冷蔵したときの変化を調べました。pHや色などの従来の肉質指標と、肉に含まれる小さな分子(代謝物)を網羅的に測る手法を組み合わせています。これにより、品質低下の背景にある化学的な仕組みを詳しく捉え、保存期間や品質の悪化と関連する代謝物を見つけることを目指しました。
どのように調べたか
研究では、地元の市場で購入した16週齢の雄のタイ在来鶏(品種名リョンハンカオ)20羽分の枝肉から胸肉を取り出しました。胸肉は冷蔵1日目、3日目、5日目、7日目、10日目の5群に4検体ずつ割り振られ、4℃で保存されました。同じ肉を繰り返し測るのではなく、各検体を一つの保存日数だけで分析する設計です。
各時点で、pH、肉の色、保存中に肉から出る水分の割合(ドリップロス)、加熱による重量の減少(加熱損失)、硬さなどの食感、水分・たんぱく質・脂肪の量、細菌数を測定しました。においは、電子ノーズと呼ばれる複数のガスセンサーを備えた装置で評価しました。
代謝物は、核磁気共鳴(NMR)を用いた分析で測定しました。NMRは、強い磁場の中で分子が示す信号の違いから、試料に含まれる多数の成分を一度に見分けて量を比べる方法です。得られたデータは多変量解析で整理し、保存日数による違いを統計的に検討しました。
主な結果
従来の肉質指標の多くは、10日間を通じて比較的安定していました。肉の色、硬さなどの食感、水分やたんぱく質などの成分には、保存期間による有意な差は見られませんでした。論文によると、脂質の酸化を示す指標にも有意な変化はありませんでした。一方、pHは保存が進むにつれて上がる傾向を示しました。ドリップロスは1日目の1.20%から10日目には2.91%へ増え、加熱損失にも保存期間による差がありました。
細菌の検査では、大腸菌群の数が7日目までは低い水準で推移し、10日目に大きく増えました(中央値で1グラムあたり45.5個)。一般生菌数と大腸菌そのものの数には、保存期間による有意な差は認められませんでした。
NMR分析では、遊離アミノ酸、うま味成分のイノシン酸(IMP)、抗酸化作用をもつジペプチドのアンセリンとカルノシン、乳酸やグルコースなど、26種類の代謝物が特定されました。代謝物全体のパターンは、保存の初期から中期まではよく似ていました。しかし10日目の試料は、それ以前のどの時点とも明確に異なるまとまりを示しました。
10日目との比較では、グルタミンとグルコースが減少し、N-メチルヒダントインという化合物が増加していました。1日目と10日目の比較では、イノシン酸も減っていました。なかでもグルタミンとN-メチルヒダントインは、10日目を含むすべての比較で一貫して差が見られ、10日目とそれ以前の試料を判別する性能も高いと報告されています。
肉質や細菌数との関連も調べられました。イノシン酸が少ないほど脂質酸化の指標とドリップロスが高い、という逆向きの関連がありました。大腸菌群の数とN-メチルヒダントインの間には強い正の関連が見られました。ただし著者らは、これは両者が並行して増えたことを示すもので、この化合物が細菌に由来する、あるいは細菌が原因であることを意味しないと述べています。
研究が示すこと
この研究は、見た目や食感などの従来の指標がほとんど変わらないうちにも、冷蔵中の在来鶏肉の内部では代謝物の変化が進んでいることを示しました。とくに10日目には、化学的にも細菌学的にもはっきりした変化が起きていました。著者らは、グルタミンとN-メチルヒダントインを保存後期の品質低下を示す有力な指標の候補として位置づけています。N-メチルヒダントインは、著者らの知る限り、これまで鶏肉の鮮度指標として報告されていない物質で、さらに検証が必要だとしています。
一方で、この研究は1品種の在来鶏を、一つの保存条件で調べたものです。著者らも、この結果を他の鶏の系統や包装方法にそのまま広げることには限界があると述べています。研究チームはこの成果を予備的なものとしながら、NMRによる代謝物解析が在来鶏肉の鮮度や日持ちの変化を見守る手段として役立つ可能性を示したとまとめています。
原著論文の著者・所属:Chirasak Phoemchalard(Department of Agriculture, Mahidol University, Amnatcharoen Campus, Amnatcharoen 37000, Thailand)、Suthipong Uriyapongson(Independent Scholar, Khon Kaen 40000, Thailand)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Chirasak Phoemchalard, Suthipong Uriyapongson. Metabolic Signatures of Refrigerated Storage Linked to Quality Deterioration in Thai Native Chicken Meat: An Integrated 1H NMR-Based Metabolomics and Meat Quality Assessment. Poultry 2026-10-09. DOI: 10.3390/poultry5050070. 原著ライセンス:CC BY.