この研究は、中国の研究機関の研究論文です。

掲載誌:International journal of molecular sciences

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: Europe PMC

何を明らかにしようとした研究か

中国・江西省の修水県などで作られる「寧紅茶(寧州工夫紅茶)」は、中国で最も古い工夫紅茶とされる紅茶です。この産地には、緑色の葉をもつ「寧州2号」と、若い芽や葉が黄色くなる「黄金菊」という2つの品種があります。黄金菊は光に反応して葉が黄色くなる性質をもつ資源で、菊のような見た目からその名がついたと論文は説明しています。両品種はいずれも修水県で育成された栄養繁殖系の品種で、産地の茶の生産・加工において重要な位置を占めています。

茶の樹では、葉の色が変わった変異体は葉緑素(クロロフィル)が少なく、アミノ酸が多いなど、通常の品種とは成分構成が異なることがこれまでにも報告されてきました。そこで研究チームは、黄色葉の「黄金菊」と、その元となった緑葉品種「寧州2号」を材料に、生葉と、同じ製法で紅茶に仕上げた茶葉の成分を比べました。目的は、両品種で成分の蓄積がどう違うのかを明らかにし、黄色葉品種を加工に用いる際の理論的な手がかりを得ることです。

どのように調べたか

研究チームは2023年春、南昌市にある江西省経済作物研究所の茶園から、樹齢23年の「黄金菊」と「寧州2号」について、一芯二葉(芽と葉2枚)の生葉を摘み取りました。摘んだ葉は、工夫紅茶の加工に関する地方規格に沿って紅茶に加工されています。室内で18時間しおれさせる萎凋、揉捻機で60〜120分かける揉み込み、25〜28℃・高湿度で3〜4時間の発酵、そして段階的な乾燥という工程を経て、水分が6%を下回るまで仕上げられました。工程全体は10年以上の経験をもつ製茶技術者が立ち会い、葉の状態や香りの立ち方を見ながら条件を調整したと報告されています。

分析の対象は、「黄金菊」の生葉、「寧州2号」の生葉、そしてそれぞれを加工した紅茶の計4種類です。研究チームは色素(クロロフィル、カロテノイド)の量、茶ポリフェノールやカフェイン、アミノ酸といった主要成分の量を測るとともに、「広域ターゲット代謝物解析」と呼ばれる手法で、含まれる成分を網羅的に調べました。これは、あらかじめ多数の成分を測定対象として設定しておき、液体クロマトグラフィーや質量分析を組み合わせて一度に多くの成分の量を比較する方法です。香りに関わる揮発性成分については、香りの強さの指標である「OAV(においの活性値)」も算出しました。OAVとは、ある成分の濃度を、その成分が人の鼻で感じ取れる最低濃度(閾値)で割った値で、1以上であればその香りに実際に効いている成分とみなされます。あわせて、訓練を受けた5名の評価者による官能審査(外観・水色・香り・味・茶殻の100点満点評価)も行われました。

報告された主な結果

色素については、「黄金菊」のクロロフィル量が生葉・紅茶ともに「寧州2号」より有意に低いことが示されました。カロテノイドも生葉では「黄金菊」のほうが有意に低かった一方、紅茶に加工した後は両品種の差はごくわずかだったと報告されています。一方で成分量を見ると、生葉の段階では「黄金菊」のほうがカテキン類と遊離アミノ酸が「寧州2号」より多く、茶ポリフェノールも高いという結果でした。ただし紅茶に加工した後は、アミノ酸量に両品種の有意差は見られなくなっています。紅茶の色や味に関わるテアフラビン類では、TF、TF-3,3'-DG、TF-3'-Gが「黄金菊」の紅茶で有意に高く、TF-3-Gは「寧州2号」の紅茶で有意に高いという、品種による偏りが見られました。

代謝物解析では、4種類の試料から合計2208種の成分が同定され、そのうち872種が揮発性、1336種が非揮発性でした。これらは酸類、アルコール類、フラボノイド類、フェノール酸類、テルペノイド類など25の分類に整理されています。主成分分析では4群がはっきりと分かれ、第1主成分(全体のばらつきの46.87%を説明)が主に加工段階の違いを、第2主成分(29.00%)が品種の違いを分けていました。なお研究チームは、差のある成分の絞り込みにあたって変化倍率と重要度の指標を用いており、p値や偽発見率の補正を加えていないため、得られた成分は統計的に有意な差というより「推定される代謝の違い」にとどまる、と自ら断っています。

加工後の紅茶では、「黄金菊」でテルペノイド類が多く蓄積し、「寧州2号」ではフラボノイド類とフェノール酸類が差の中心を占めました。論文は、テルペノイドが茶の香りに、フラボノイドやフェノール酸が水色や味のまろやかさに関わる成分であることから、これらの蓄積の違いが両品種の紅茶の香味の違いを支える代謝的な基盤だと推定しています。香りの成分を個別に見ると、β-イオノンやtrans-β-オシメン、1-オクテン-3-オールなど複数の成分は「寧州2号」で多く、閾値を超えるものも含まれていました。逆に「黄金菊」の紅茶では、trans,cis-2,6-ノナジエン-1-オールなどが多く検出されています。さらに両品種の紅茶を比べた際に、キュベノールをはじめOAVが1以上の揮発性成分が特徴的な香り成分として絞り込まれました。キュベノールは芳香植物に広く見られるセスキテルペンアルコールで、花やバラのような香りをもたらす成分だと説明されています。代謝経路の解析では、生葉の差はフラボノイド生合成やフラボン・フラボノール生合成に、紅茶の差はガラクトース代謝やテルペノイド生合成などに集中していました。

官能審査では、「黄金菊」の紅茶が「寧州2号」の紅茶に対して、水色、甘く濃厚な味わい、茶殻の点で上回ると評価されました。ただし水色はオレンジ黄色を呈し、その項目や茶殻の得点では低い評価も受けています。総合点は「黄金菊」が87.15点で、「寧州2号」を1.25点上回りました。

この研究が示すこと

研究チームは、「黄金菊」の黄色い葉が単なる見た目の特徴にとどまらず、クロロフィルやカロテノイドの合成が抑えられる一方で遊離アミノ酸や茶ポリフェノールが選択的に蓄積するといった、成分レベルでの組み替えと結びついている可能性を示したと述べています。しかも、その品種間の違いは同じ寧紅茶の製法を通した後にいっそう際立ちました。加工は、品種がもともと持つ違いの一部を増幅し、別の一部を弱めるという形で働いていたことになります。

なお論文は、今回測定したのは成分の量そのものであり、酵素の働きや遺伝子の発現量を確かめたわけではないと明記しています。その上で研究チームは、この成果が特定の茶樹品種を活かすための代謝面の参照となり、江西の工夫紅茶の製品開発や生産に理論的な手がかりを与えうる、と結論づけています。葉の色という目に見える違いの背後で、味と香りを形づくる成分がどう分かれていくのか——その見取り図を描いた研究だと言えます。

著者:Jiang X(Jiangxi Institute of Economic Crops, Nanchang 330202, China.)、Li C(Jiangxi Institute of Economic Crops, Nanchang 330202, China.)、Yu Y(Jiangxi Institute of Economic Crops, Nanchang 330202, China.)、Wang L(Jiangxi Institute of Economic Crops, Nanchang 330202, China.)、Yang X(Jiangxi Institute of Economic Crops, Nanchang 330202, China.)、Wang X(Institute of Biological Resources, Jiangxi Academy of Sciences, Nanchang 333104, China.)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Jiang X, Li C, Yu Y, et al. How Do Green-Leaf and Yellow Tea Cultivars Influence Black Tea Flavor? Insights from Metabolomic Analysis with Ninghong Tea-Processing Technologies. International journal of molecular sciences 2026-09-18. DOI: 10.3390/ijms27188313. 原著ライセンス:CC BY.