この研究は、イランの研究機関の研究論文です。
掲載誌:Food Chemistry X
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的:収穫前の処理と冷蔵期間を同時に見る
モモは味がよく、ポリフェノールなどの抗酸化成分も含む、経済的に重要な果物です。一方で、果肉がやわらかく収穫後も代謝が活発なため傷みやすく、流通の間に品質を保つことが大きな課題になっています。低温での貯蔵は最も一般的な対策ですが、長く冷蔵すると低温障害や変色、風味や栄養の低下が起こることがあります。
イランの主要な商業品種「ザファラニ」も、冷蔵中に果実がやわらかくなりやすく、貯蔵性に限りがあるとされています。そこで注目されてきたのが、収穫前に葉や果実へ塩化カルシウム(CaCl₂)を散布する方法です。カルシウムは細胞壁や細胞膜を安定させる働きを持つ元素として知られています。ただし、これまでの研究では品種や環境、散布の時期によって効果がばらつき、濃度が高すぎると果皮を傷め、低すぎると効果が出にくいといった問題も指摘されていました。
著者らは、これまでの研究の多くが一つの要因だけを調べたり、収穫前の処理と収穫後の貯蔵を別々に扱ったりしてきた点に着目しました。この研究では、塩化カルシウムの濃度と冷蔵期間という二つの要因を同時に扱い、それらの組み合わせがザファラニ種モモの色、酸味、エチレンの発生、ビタミンCにどう影響するかを調べています。
調べ方:果樹園での散布と冷蔵庫での貯蔵
実験はイラン・ホッラマーバードの商業用モモ園で行われました。樹齢10年で生育のそろった29本の木を選び、1本の木を一つの実験単位としています。散布は、果実の発育の節目にあたる満開後30日、60日、90日の3回行い、塩化カルシウムの濃度は0%(散布なし)、1.5%、3%の3段階としました。
収穫した果実は1℃前後、湿度約90%の冷蔵室で最長40日間貯蔵し、0日、20日、40日の時点で測定しました。測定したのは、果皮の明るさを示す値(L*)、赤みと黄色みの比(a*/b*)、酸味の目安となる滴定酸度、熟成を進める植物ホルモンであるエチレンの発生量、そしてビタミンC(アスコルビン酸)の含有量です。
解析には「応答曲面法」が使われました。これは、複数の条件を組み合わせて実験し、その結果から条件と測定値の関係を曲面のような数式で表す統計手法です。条件どうしの相互作用や、効果が直線的でない場合も捉えられるのが特徴です。論文によると、作成されたモデルは各測定値の変動の約93〜99%を説明できたと報告されています。
主な結果:冷蔵による変化が散布で和らいだ
果皮の明るさについて、散布しなかった果実では40日貯蔵後のL*値が52.01だったのに対し、3%散布の果実では同じ40日後に69.03でした。著者らは、これは冷蔵によって果実が明るくなったという意味ではなく、散布しない果実で見られた貯蔵中の明るさの低下が、高い濃度の散布によって大きく抑えられたことを示すものだと説明しています。
酸味の指標である滴定酸度は、どの条件でも貯蔵とともに下がりました。最も高かったのは貯蔵前の1.25%で、最も低かったのは散布なし・40日貯蔵後の0.65%です。同じ40日後でも3%散布の果実は0.78%を保っており、散布なしより約20%高い値でした。著者らは、散布の効果は貯蔵の初期に最も大きく、長期の貯蔵では差が小さくなるものの、散布した果実の酸度は一貫して対照を上回っていたと報告しています。
熟して赤みが増す程度を示すa*/b*比は、貯蔵期間が長くなるほど上がりました。散布なしでは貯蔵前の0.27から40日後には0.65まで上がったのに対し、3%散布の果実では40日後も0.45で、散布なしより約30.8%低い値でした。短い貯蔵期間では濃度による差はほとんどなく、長く貯蔵したときに高い濃度ほど赤みの進行が遅くなる傾向が見られました。
エチレンの発生量は貯蔵期間とともに増え、ビタミンCは貯蔵によって減少しました。モデルの分析では、塩化カルシウムの散布がエチレンの増加を抑える方向に、またビタミンCを高く保つ方向に働いたと報告されています。さらに測定値どうしの関係を見ると、赤みが強い果実ほどビタミンCと酸度が低く、エチレンの発生量が多いという関連が見られました。
この研究が示すこと
この研究は、収穫前の塩化カルシウム散布と冷蔵期間の組み合わせを一つのモデルで扱い、ザファラニ種のモモでは散布によって冷蔵中の明るさや酸味、ビタミンCの低下、赤みの進行がいずれも和らぐ傾向があったことを示しました。効果の大きさは貯蔵期間によって異なり、多くの項目で長期の貯蔵ほど濃度による差がはっきり表れています。
なお、カルシウムが細胞壁を強めたり、褐変を起こす酵素の働きを抑えたりするといった仕組みは先行研究で提案されているものであり、この研究で直接確かめたものではないと著者らは断っています。今回の結果は、収穫前の処理と収穫後の貯蔵を切り離さずに考えることが、モモの品質を保つ方法を検討するうえで役立つことを示しています。
著者:Isa Hazbawi(Department of Biosystems Engineering, Faculty of Agriculture, Lorestan University, Khorramabad, Iran)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Isa Hazbawi. Pre-harvest CaCl₂ foliar application enhances peach quality during cold storage: Insights from response surface modeling. Food Chemistry X 2026-09-26. DOI: 10.1016/j.fochx.2026.104425. 原著ライセンス:CC BY.