掲載誌:Food science & nutrition

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: Europe PMC

研究の目的

プラスチック包装は製品を守るうえで欠かせませんが、合成樹脂は微生物に分解されず、廃棄物や環境汚染の一因になっています。そこで、植物などの再生可能な資源から得られる天然高分子を使い、微生物によって分解される「生分解性フィルム」をつくる試みが各国で進められています。

研究チームが着目したのは、ローゼル(学名 Hibiscus sabdariffa、いわゆるハイビスカスティーの原料となる植物)のガク(花を支える部分)に含まれる「ムシラージ」です。ムシラージとは、植物がつくる水に溶けるねばり成分で、分子量の大きい多糖類にあたります。ローゼルのガクにはフェノール酸やアントシアニン、フラボノイドといった成分も含まれ、抗酸化性が期待できます。

著者らによれば、ローゼル由来の抽出物やアントシアニンを「添加物」として包装材に加えた研究はあるものの、ガクのムシラージそのものをフィルムの主材料(土台となる膜を形づくる成分)として使った報告はこれまでなかったといいます。ただしムシラージは水と結びつきやすく湿気に弱いため、この研究では構造を支える多糖類であるカルボキシメチルセルロース(CMC、セルロースを化学的に加工した水溶性の素材)を組み合わせ、できたフィルムの性質を調べることを目的としました。

調べた方法

まず、乾燥させたローゼルの葉を粉にして水に浸し、撹拌・ろ過したうえでアセトンを加えてムシラージを沈殿させ、回収・乾燥しました。得られたムシラージについては、たんぱく質・水分・灰分・脂質・炭水化物の割合と、抽出量の割合(収率)を測定しています。

フィルムづくりでは、0.5〜1.5%の範囲で試したなかから1.25%(重量/容量)のムシラージ濃度を選びました。これより薄いと膜が薄く壊れやすく、濃いとゲル状になってしまったためです。ここに柔軟性を与える可塑剤としてグリセロールを10%、15%、20%(重量比)の3水準で加え、さらに1%のCMC溶液と混ぜ合わせて、テフロン板の上に流して室温で乾燥させました。

できたフィルムについて、厚さと密度、水分量、水への溶けやすさ、水蒸気の透しやすさ(水蒸気透過性)、示差走査熱量測定による熱的性質、引張強さと伸び、色の測定、走査型電子顕微鏡による表面と断面の観察を行いました。機能面では、DPPH法による抗酸化(ラジカル消去)活性と、6種類の食品関連細菌に対する抗菌性を、寒天ディスク拡散法で評価しています。各測定は3回ずつ行い、統計解析で差を確認しました。

報告された主な結果

ムシラージの組成は、炭水化物75.90%、灰分13.2%、水分7.2%、たんぱく質3.4%、脂質0.3%で、抽出収率は9.06%と報告されています。

グリセロールを増やすと、フィルムは厚くなり(0.019〜0.029 mm)、密度は下がりました(1.61〜1.2 g/cm³)。水分量は11.42%から30.01%へ、水への溶解度も上昇し、水蒸気透過性も1.21から2.32(gs⁻¹m⁻¹Pa⁻¹×10⁻¹⁰)へと高くなりました。著者らは、グリセロールが高分子の鎖の間に入り込んで隙間(自由体積)を広げ、水分子が動きやすくなるためだと説明しています。この点から、グリセロールの多いフィルムは水分の多い食品より乾いた食品向きだと述べられています。

機械的な性質では、引張強さが20.40 MPaから10.51 MPaへ下がる一方、破断時の伸びは17.67%から27.91%へ増えました。つまりグリセロールを増やすと、強さは落ちるかわりに伸びやすく柔らかくなります。著者らは、この引張強さが低密度ポリエチレン(8〜10 MPa)の範囲や高密度ポリエチレンの下限付近に相当すると比較しています。熱測定ではガラス転移温度(硬い状態から柔らかい状態へ移る温度)が一つだけ観測され、グリセロールが相性のよい可塑剤であることを示すとされました。その値は42.24〜56.84℃で、通常の常温や冷蔵の保存温度より高いと報告されています。

機能面では、可塑剤を加えないムシラージフィルムのDPPHラジカル消去活性は8.22%でした。抗菌試験では、試した6菌株のうちネズミチフス菌(Salmonella typhimurium)を除くすべてに阻止効果がみられ、とくに黄色ブドウ球菌とセレウス菌(いずれもグラム陽性菌)で感受性が高い一方、ネズミチフス菌では低いという結果でした。著者らは細胞壁の構造の違いが関係すると考えています。なお、比較のために置いた抗生物質は菌の感受性を確かめるための対照であり、フィルムの効き目を測る基準ではないと注意が添えられています。電子顕微鏡では、グリセロールを含むフィルムは割れ目のない滑らかで均一な断面を示しました。

この研究が示すこと

著者らは、これまで膜の主材料としては使われてこなかったローゼルのガク由来ムシラージが、CMCと組み合わせることで、実際にフィルムとして成り立ち、抗酸化性と一定の抗菌性も兼ね備えることを示しました。同時に、グリセロールの量を変えることで、強さと柔らかさ、水分への弱さがどう入れ替わるかという関係も明らかになっています。

つまりこの研究は、飲用などに使われる植物のガクという身近な資源から、用途に応じて性質を調整しうる生分解性の包装材料をつくる道筋を、実験データとともに示したものだといえます。

著者:Beigomi M(Department of Food Industry, School of Medicine Zahedan University of Medical Sciences Zahedan Iran.; Health Promotion Research Center Zahedan University of Medical Sciences Zahedan Iran.)、Mashhadi MA(Food and Drug Deputy Zahedan University of Medical Sciences Zahedan Iran.)、Valizadeh M(Department of Physical Geography University of Sistan and Baluchestan Zahedan Iran.)、Mashhadi FF(Department of Pharmacology, School of Medicine Zahedan University of Medical Sciences Zahedan Iran.; Pharmacology Research Center Zahedan University of Medical Sciences Zahedan Iran.)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Beigomi M, Mashhadi MA, Valizadeh M, et al. Development of a Biodegradable Polysaccharide-Based Polymer Film From <i>Hibiscus sabdariffa</i> Sepal Mucilage and Carboxymethyl Cellulose. Food science & nutrition 2026-09-09. DOI: 10.1002/fsn3.72335. 原著ライセンス:CC BY.