日本関連:この研究は海外機関を中心とする国際共同研究で、日本の研究機関に所属する共著者が参加しています。参加国はインド、日本です。
掲載誌:Frontiers in Food Science and Technology
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
ケフィアは、乳酸菌や酵母など複数の微生物で乳を発酵させた飲み物です。発酵中に微生物の酵素が乳のタンパク質を分解すると、ペプチドと呼ばれるアミノ酸の短い鎖が生じます。その一部には、さまざまな生理的な働きを持つものがあると考えられています。
研究チームは、ヤギ乳をケフィア用の市販スターター(発酵の種となる微生物群)で発酵させました。そして、発酵の進み具合とともに、でんぷんや脂肪の消化に関わる酵素を抑える働きがどう変わるかを試験管内で調べました。あわせて、生じたペプチドを含む成分の特徴を分析し、培養細胞を使って炎症に関わる反応も調べています。論文は、糖尿病が多くの仕組みが関わる病気であることにも触れています。そのうえで本研究の対象は、ペプチドの生成、試験管内での消化酵素阻害、炎症反応に限られると明記しています。
何を調べたか
ヤギ乳にケフィア用スターターを加えて37℃で最長48時間発酵させ、0時間から12時間ごとに試料を取りました。各試料について、3種類の消化酵素の働きをどれだけ抑えるかを測りました。でんぷんを分解するα-アミラーゼ、糖を分解するα-グルコシダーゼ、脂肪を分解する膵リパーゼです。同時に、タンパク質分解の程度も測定しました。スターターの添加量を3段階に変えて比較し、条件の最適化も行っています。
最適とした条件で得た発酵乳は、ろ過膜で分子の大きさ別に分けました。そのうえで、電気泳動や液体クロマトグラフィー、質量分析によってペプチドの特徴を調べ、配列を同定しました。同定した配列は、既知の生理活性ペプチドのデータベースと照合しています。さらに、ペプチドの一つであるSCQDQPTTLARについて、ヒトの消化に関わる酵素タンパク質とどう結合しうるかを、コンピューター上の分子ドッキング(結合のしかたの予測計算)で探索的に調べました。
炎症への作用は、マウス由来のマクロファージ(免疫細胞の一種)の培養細胞で調べました。LPSという物質で炎症反応を起こさせた細胞を使っています。
主な結果
発酵時間が長くなるほど、消化酵素を抑える働きは強まりました。発酵開始時の阻害率は、α-アミラーゼ7.01%、α-グルコシダーゼ5.17%、膵リパーゼ2.95%でした。48時間後にはそれぞれ68.87%、約70%、61.40%に上がったと報告されています。タンパク質分解の程度は、スターターの量と発酵時間のどちらにも左右されました。最も高い値(5.93 mg/mL)が得られたのは、乳100 mLあたり6.8 mgのスターターで48時間発酵させた条件でした。
分子の大きさで分けた成分のうち、膜を通過した3 kDa未満の小さな分子の画分は、3種類の酵素すべてで最も強い阻害を示しました。阻害率はα-アミラーゼ74.07%、α-グルコシダーゼ75.20%、膵リパーゼ68.69%です。電気泳動の分析では、発酵後に元の乳タンパク質のバンドが薄くなっていました。著者らはこれを、タンパク質が小さなペプチドへ分解されたことを示すものと解釈しています。
質量分析では乳由来のペプチドが同定されました。その配列の一部は、データベースに登録された、糖尿病に関連する活性が報告されている断片と一致していました。分子ドッキングでは、SCQDQPTTLARが標的とした3種類の酵素タンパク質と相互作用しうるという予測が得られています。
細胞実験では、0.25〜5 mg/mLの範囲で発酵乳を加えても、細胞の生存率の低下は見られませんでした。また、1 mg/mLの発酵乳は、炎症を促すたんぱく質であるTNF-α、IL-6、IL-1βと、活性酸素(ROS)を減らしたと報告されています。
この研究が示すこと
この研究は、ケフィア発酵によってヤギ乳のタンパク質が分解されることを報告しています。発酵乳、なかでも分子の小さな画分は、試験管内で消化酵素を抑える働きを示し、培養細胞では炎症に関わる物質を減らしました。
一方で、著者ら自身がいくつかの限界を挙げています。阻害作用がペプチドだけによるものかどうかは確かめられていません。スターターだけを対照とした比較も行われていないため、微生物自体、発酵で生じた成分、乳そのもののどれがどの程度寄与したかは区別できません。また、試験管内での阻害の強まりが、体内での効果や治療効果を意味するわけではないとしています。細胞で生存率の低下が見られなかったことも、一般的な安全性を示すものではないと述べています。この研究は、発酵ヤギ乳由来のペプチドについて、試験管内と細胞、計算による手がかりを示した段階の報告といえます。
原著論文の著者・所属:Salvi Sunilkumar Tulsibhai(Department of Dairy Microbiology, SMC College of Dairy Science, Kamdhenu University)、Kurmi Karankumar Prabhatsinh(Department of Dairy Microbiology, SMC College of Dairy Science, Kamdhenu University)、Pooja M. Mankad(Department of Veterinary Biotechnology, College of Veterinary Science and Animal Husbandry, Kamdhenu University)、Amar A. Sakure(Department of Agriculture Biotechnology, Anand Agricultural University)、Arka Bhattacharya(Healthy Gut Research Group, Food & Nutritional Biotechnology Division, National Agri-Food Biotechnology Institute)、Kanthi Kiran Kondepudi(Healthy Gut Research Group, Food & Nutritional Biotechnology Division, National Agri-Food Biotechnology Institute)、Bipransh Kumar Tiwary(Department of Microbiology, North Bengal St. Xavier’s College, North Bengal University)、Preetam Sarkar(Department of Food Process Engineering, National Institute of Technology)、Subhash J. Jakhesara(Department of Veterinary Biotechnology, College of Veterinary Science and Animal Husbandry, Kamdhenu University)、Subrota Hati(Department of Dairy Microbiology, SMC College of Dairy Science, Kamdhenu University)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Salvi Sunilkumar Tulsibhai, Kurmi Karankumar Prabhatsinh, Pooja M. Mankad, et al. Production and characterization of antidiabetic peptides from kefir-fermented goat milk with anti-inflammatory activity: an in silico, in vitro and molecular docking interactions. Frontiers in Food Science and Technology 2026-10-30. DOI: 10.3389/frfst.2026.1974601. 原著ライセンス:CC BY.