著者の所属・活動拠点の国は、ニュージーランドです。
掲載誌:Foods
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
すり身は、魚の筋肉のたんぱく質がつくる網目状の構造によって形を保つ、ゲル状の食品です。水分の保ち方や食感は、たんぱく質がどのようにほどけ、互いにつながるかによって大きく変わります。また、この網目の詰まり具合や消化酵素の入り込みやすさは、食べたあとの分解のされ方にも関わると考えられています。
すり身の栄養面を高めるため、不飽和脂肪酸を含む植物油を練り込むことがあります。一方、加熱とは別の方法としてたんぱく質の構造を変える「高圧処理(HPP)」も注目されています。HPPは食品に非常に高い圧力をかける技術で、適切な条件では、ゲルを強くしたり水分を保ちやすくしたりすることが知られています。ただし、圧力が高すぎると、たんぱく質が過度に固まって性質が損なわれることもあります。
研究チームによると、圧力の強さと油の添加が同じすり身の中で、加工特性、酸化のしやすさ、微細構造、消化中のアミノ酸の放出にそろってどう影響するかは、まだ十分に分かっていませんでした。そこで著者らは、ニュージーランドで商業的に重要な白身魚ホキのすり身を使い、二つの要因を組み合わせて調べました。
何をどのように調べたか
研究チームは、ホキの切り身に砂糖と食塩を加えてすり身をつくりました。そこに、キャノーラ油またはアマニ油を加えたもの、油の代わりに水を加えた対照の、3種類を用意しました。さらにそれぞれに、0(無処理)、200、300、400、500、600メガパスカルの6段階の圧力をかけ、すべての組み合わせを比較しました。各条件では、別々に調製した3回分の試料を分析しています。
評価したのは、成分組成、加熱したときに失われる水分の量(加熱損失)、水分を保つ力(保水力)、切断に必要な力で表した食感、色、脂質の酸化の程度です。脂質の酸化は、酸化で生じる物質の一部を測るTBARS法で調べました。電子顕微鏡によるゲル構造の観察や、たんぱく質の熱的な性質と分子の大きさの分布の分析も行っています。
消化については、口、胃、小腸の各段階を試験管内で模した消化モデルを用いました。消化の過程で、たんぱく質から遊離アミノ酸(ばらばらになったアミノ酸)がどれだけ生じるかを測定しています。
主な結果
成分組成は、主に油の添加によって変わりました。油を加えたすり身は脂肪分が約8.5〜9.3%で、対照の約1.2〜1.7%より高く、その分だけ水分の割合が下がっていました。圧力は脂肪量に有意な影響を与えませんでした。このことから著者らは、圧力による品質の違いは脂質の量の変化ではなく、ゲル内部の構造の変化と関係していると考えています。
圧力をかけると加工特性が向上しました。加熱損失は、無処理の6.58〜7.39%から、400〜600メガパスカルでは3.46〜4.93%に減りました。保水力はおおむね500メガパスカルまで上がり、600メガパスカルではわずかに下がりました。たとえばキャノーラ油の試料では、76.99%から83.47%に上昇しています。油を加えた試料は、対照より保水力が高い傾向にありました。切断に必要な力も、無処理の約64〜66ニュートンから、400〜600メガパスカルでは約68〜71ニュートンに増えています。著者らは、圧力によってたんぱく質の網目がより強く固まったことを示す結果だとしています。
ただし、圧力の効果は高いほど良いという単純なものではありませんでした。電子顕微鏡の観察では、中程度の圧力でまとまりのある網目ができた一方、高い圧力では局所的に詰まりすぎた構造も見られました。色は主に油の影響を受け、油を加えると明るさと白さ、黄色みが増しました。圧力は多くの色の指標に大きな影響を与えませんでした。
脂質の酸化は、油の種類によってはっきり異なりました。アマニ油を加えたすり身で最も高く、キャノーラ油では比較的低くなりました。圧力をかけるとTBARSの値は下がりました。ただし著者らは、この結果を「高圧処理が酸化を防ぐ」と単純に解釈すべきではないと述べています。測定は一部の圧力条件に限られており、この方法では酸化生成物の一部しか捉えられないためです。
試験管内の消化では、遊離アミノ酸の量を最も大きく左右したのは消化の段階でした。多くのアミノ酸は、小腸の段階に進むと大きく増えました。油の添加と圧力の影響は二次的なものでした。一部の中間的な圧力では遊離アミノ酸が少なくなり、著者らはたんぱく質の凝集によって酵素が入り込みにくくなった可能性を挙げています。また、圧力処理ではたんぱく質の分子の大きさの分布に大きな変化は見られませんでした。このことから、消化中のアミノ酸の増加は、圧力でたんぱく質が事前に切断されたためではなく、消化酵素による分解によるものと解釈されています。
この研究が示すこと
著者らは、高圧処理と油の添加が、主にゲル内部の構造を変えることを通じて、ホキのすり身の保水性、食感、色、酸化、消化中のアミノ酸の放出に影響したとまとめています。高圧処理はすり身ゲルの加工特性を高めうる一方で、圧力の範囲と油の種類は、構造のまとまり、酸化のしにくさ、消化の挙動のバランスを考えて選ぶ必要があるとしています。
特に、油の添加は機能や見た目を変えられる反面、どの油を選ぶかが酸化のしやすさを大きく左右するという、製品開発上のトレードオフが示されました。なお、今回の消化の結果は試験管内のものであり、体内での吸収や健康への効果を示すものではないと、著者ら自身が注意を促しています。
原著論文の著者・所属:Mahmud Kobid(School of Science, Auckland University of Technology, Auckland 1010, New Zealand)、Rae Recy B. Bagonoc(School of Science, Auckland University of Technology, Auckland 1010, New Zealand)、Lovedeep Kaur(School of Food Technology and Natural Sciences, Massey University, Palmerston North 4410, New Zealand)、Michelle Ji Yeon Yoo(School of Science, Auckland University of Technology, Auckland 1010, New Zealand)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Mahmud Kobid, Rae Recy B. Bagonoc, Lovedeep Kaur, et al. Effects of High-Pressure Processing and Lipid Fortification on Hoki (Macruronus novaezelandiae) Surimi Structure, Oxidative Stability, and In Vitro Digestion. Foods 2026-10-15. DOI: 10.3390/foods15203658. 原著ライセンス:CC BY.