著者の所属・活動拠点の国は、台湾です。

掲載誌:Archiv für Lebensmittelhygiene

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

高静水圧処理(HHP)は、食品に数百メガパスカル(MPa)という非常に高い水圧をかけて微生物を死滅させる技術です。加熱せずに処理できるため、食品の色や風味、栄養の損失を抑えられます。一方で、菌が完全には死なずに「亜致死的な損傷」にとどまると、傷ついた細胞成分が修復された後に再び増殖する可能性があります。これがこの技術を使ううえでの大きなリスクとされています。

研究チームはこれまでの研究で、リン酸緩衝液や冷凍の水産加工品に300 MPaの高圧処理をした場合には菌の増殖が見られ、500 MPaでは見られなかったことを報告していました。そこで著者らは、300 MPaと500 MPaの違いを生む要因として、DNAに結合するタンパク質に注目しました。DNAの複製や遺伝子の働き、傷ついたDNAの認識と修復には、DNAに結合するタンパク質が欠かせません。また、高圧はDNAのらせん構造そのものをゆがめることも知られています。著者らは、正常なDNAとゆがんだDNAのそれぞれに結合するタンパク質を高圧が壊せるかどうかが、菌を死滅させるか、損傷にとどめるかを左右するのではないかという仮説を立て、両者の対応関係を調べました。

何を調べたか

対象は、研究チームの淡水二枚貝の試料から見つかっていた3種類の菌です。グラム陽性菌のリステリア・モノサイトゲネスと、グラム陰性菌のサルモネラ・ティフィムリウムと腸炎ビブリオを使いました。培養した菌を生理食塩水に懸濁して真空包装し、300 MPaまたは500 MPaの圧力を室温で3分間かけました。対照には、通常の大気圧(0.1 MPa)のまま置いた菌を用いています。

処理後の菌から抽出したタンパク質を、短い二本鎖DNAと混ぜました。DNAは2種類用意しました。一つは正常ならせん構造のDNAです。もう一つは紫外線を当てて「(6-4)光産物」という損傷を作り、らせんを大きく折れ曲がらせたDNAです。タンパク質がDNAに結合すると、電気泳動したときに移動が遅れて帯(バンド)の位置がずれます。この「ゲルシフト法(EMSA)」を使い、バンドの濃さを画像解析で数値化して、DNA結合活性を比べました。比較のため、細胞の生存に重要な2つの酵素の活性も測定しました。膜を通したイオンの輸送を担うNa+/K+-ATPaseと、過酸化水素を分解するカタラーゼです。

主な結果

高圧をかけていない3種類の菌の抽出物には、いずれも正常なDNAとゆがんだDNAの両方に結合する活性が見られました。ゆがんだDNAのほうがやや強く結合する傾向も観察されています。

300 MPaの処理では、ゆがんだDNAへの結合活性は3種類とも弱く抑えられるにとどまりました。正常なDNAへの結合活性は、リステリアで対照の約70%に下がりましたが、サルモネラと腸炎ビブリオでは変化がありませんでした。ところが500 MPaでは、3種類すべてで正常なDNAへの結合活性が対照の0〜16%まで低下しました。ゆがんだDNAへの結合活性も消失するか、ほとんど検出できない水準まで落ちました。この傾向は、グラム陽性菌とグラム陰性菌のどちらにも共通していました。

一方、2つの酵素の反応は菌によってまちまちでした。たとえば腸炎ビブリオのNa+/K+-ATPaseは、圧力を300 MPaから500 MPaに上げてもそれ以上は低下しませんでした。サルモネラのカタラーゼも、500 MPaでさらに抑えられることはありませんでした。DNA結合活性のように、どの菌でもそろって大きく下がるという変化は見られませんでした。

研究が示すこと

著者らは、圧力を300 MPaから500 MPaに上げたときにDNA結合活性が急激に失われたことから、細菌のDNA結合タンパク質は高圧に非常に敏感だと述べています。300 MPaでは遺伝子の働きに関わるタンパク質の多くが残り、それが損傷の修復と菌の再増殖を支えた可能性があるとも考察しています。

この活性の喪失は、500 MPaで菌が再増殖しなかったという研究チームの以前の観察とよく対応していました。そのため論文は、正常なDNAとゆがんだDNAに結合するタンパク質の不活性化が、高圧処理で食中毒菌が致死的な損傷を受けたかどうかを見分ける指標になりうると結論づけています。菌の種類によって反応がばらつく酵素とは違い、菌の種類を問わずそろって反応する目印の候補を示した点に、この研究の意味があります。

原著論文の著者・所属:Yi-Chen Lee(Department of Seafood Science, National Kaohsiung University of Science and Technology, 811213 Kaohsiung, Taiwan)、Pi-Chen Wei(Department of Bioscience and Biotechnology and Center of Excellence for the Oceans, National Taiwan Ocean University, 202301 Keelung, Taiwan)、Chih-Min Wang(Department of Bioscience and Biotechnology and Center of Excellence for the Oceans, National Taiwan Ocean University, 202301 Keelung, Taiwan)、Todd Hsu(Department of Bioscience and Biotechnology and Center of Excellence for the Oceans, National Taiwan Ocean University, 202301 Keelung, Taiwan)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Yi-Chen Lee, Pi-Chen Wei, Chih-Min Wang, et al. Inactivation of Normal and Distorted DNA-Binding Proteins as a Potential Indicator of High Hydrostatic Pressure-Induced Lethal Injury in Foodborne Pathogens. Archiv für Lebensmittelhygiene 2026-07-30. DOI: 10.31083/jfsfq48851. 原著ライセンス:CC BY.