著者の所属・活動拠点の国は、マレーシアです。

掲載誌:Frontiers in Food Science and Technology

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的:硬い組織に閉じ込められた成分をどう引き出すか

ナマコの体壁には、コラーゲンや、糖が長くつながったグリコサミノグリカン(GAG)と呼ばれる成分などが豊富に含まれており、機能性食品素材の原料として関心を集めています。研究チームが対象としたStichopus fusiformiossaは東南アジアの海域に広く分布する熱帯性のナマコで、コラーゲン含量の高さが知られています。

ただし、ナマコの体壁は「可変性コラーゲン組織」という棘皮動物特有の緻密な組織でできており、有用な成分がその網目に組み込まれているため、取り出すのが容易ではありません。従来の加熱や酸・アルカリ処理、酵素処理は収量を高められる一方、長時間・強い処理ではタンパク質の変性や酸化、熱に弱い成分の分解などを招くことがあると著者らは指摘しています。

一方、ナマコの組織には自前のタンパク質分解酵素(内在性プロテアーゼ)が備わっています。管理されない状態では身が溶けるような品質劣化の原因になりますが、うまく制御すれば成分を取り出す「道具」として使える可能性があります。そこで研究チームは、加熱を伴わない高圧処理(HPP)によって組織の構造を緩め、この内在性酵素の働きを引き出すことで、水や外部の酵素を加えずに成分を可溶化できるかを調べました。HPPは食品に非常に高い水圧をかける技術で、タンパク質の立体構造を支える弱い結合には作用しやすい一方、アミノ酸同士をつなぐ強い結合は通常切らないとされています。

何を調べたか

研究チームは、マレーシアのパンコール島で採取したナマコ20匹を、別々の月に収穫した2つのバッチに分けて用いました。体壁をすりつぶしたペースト状の試料を袋に真空密封し、25℃で100〜600メガパスカル(MPa)の圧力を10分間かけ、圧力をかけていない試料と比較しました。

処理後の試料について、タンパク質分解酵素の活性、溶け出したタンパク質の量、より小さなペプチド状の成分(TCA可溶性画分)の量、溶け出したGAGの量を測定しました。また、遠心分離後に溶け残ったコラーゲンに富む部分については、赤外分光法(FTIR)や二次元電気泳動を使って、タンパク質の構造や組成の変化を調べました。さらに、試験管内での機能性の指標として、フリーラジカルを消去する能力(抗酸化能)、フェノール性化合物の量、でんぷんを分解する消化酵素である膵臓α-アミラーゼの働きを抑える程度を測定しました。

主な結果:圧力によって酵素活性と成分の溶出が増加

論文によると、高圧処理によってタンパク質分解酵素の活性は大きく変化しました。未処理では1グラムあたり約6.3単位だった活性が、200MPaで約16.5単位に上がり、300MPaでいったん下がった後、400MPa以上で急増し、600MPaでは約36.9単位と、未処理の約5.9倍に達しました。溶け出したタンパク質の量も、1グラムあたり約46ミリグラムから最大で58〜59ミリグラムへと増えました。

ペプチド状の成分と、溶け出したGAGは、いずれも400MPaで最も多くなりました。GAGは1グラムあたり約12ミリグラムから約33ミリグラムに増えています。研究チームは、圧力が高いほど単純に効果が大きくなるのではなく、400MPa付近で組織の開き具合、酵素の働きやすさ、分解産物の保持のバランスが最もよくなった可能性があると考察しています。

溶け残った部分の分析では、タンパク質の立体構造や含まれる成分の構成が圧力に応じて変化していることが示されました。ただし著者らは、これは成分が溶ける側と溶け残る側への振り分けられ方が変わったことと整合する結果であり、タンパク質全体が作り替えられたと断定できるものではないとしています。

機能性の指標も高圧処理で上昇しました。抗酸化能は未処理の約2.0から約10マイクロモル・トロロックス当量/グラムへ、α-アミラーゼの阻害率は約20%から約55%へ高まり、これら二つはいずれも500〜600MPaで最も高い値を示しました。また、フェノール性化合物の量も約1.5から約7ミリグラム・没食子酸当量/グラムへ増えたと報告されています。抗酸化能とα-アミラーゼ阻害が最大となった圧力が、ペプチドやGAGの量が最大となった400MPaとは一致しないことから、研究チームは、機能性は溶け出した成分の総量だけでは決まらず、高い圧力によって成分の組成や大きさ、形が変わったことが関係している可能性があると述べています。

この研究が示すこと

著者らは、高圧処理が組織の構造を組み替え、もともと備わっている酵素が働きやすくなり、その結果として機能性に関わる成分が溶け出しやすくなる、という一連の仕組みを結果が支持していると結論づけています。加熱も外部の酵素も使わず、10分という短い処理で成分の取り出しやすさが変わったことから、論文はHPPをコラーゲンに富むナマコ原料を有効活用する有望な非加熱の手法と位置づけています。なお、抗酸化能やα-アミラーゼ阻害は試験管内での測定結果であり、高まった機能性は特定の一つの成分ではなく、複数の成分が溶け出し変化したことによるものと著者らは考えています。

著者:Aimi Zafirah Kamaruddin(Department of Food Technology, School of Industrial Technology, Universiti Sains Malaysia)、Annette Jaya-Ram(Centre for Marine and Coastal Studies, Universiti Sains Malaysia)、Sau Pinn Woo(Centre for Marine and Coastal Studies, Universiti Sains Malaysia)、Chin Ping Tan(Department of Food Technology, Faculty of Food Science and Technology, Universiti Putra Malaysia)、Lay‐Harn Gam(School of Pharmaceutical Sciences, Universiti Sains Malaysia)、Musfirah Zulkurnain(Department of Food Technology, School of Industrial Technology, Universiti Sains Malaysia)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Aimi Zafirah Kamaruddin, Annette Jaya-Ram, Sau Pinn Woo, et al. Valorisation of Stichopus fusiformiossa body wall with high-pressure-induced endogenous proteolysis. Frontiers in Food Science and Technology 2026-10-14. DOI: 10.3389/frfst.2026.1955019. 原著ライセンス:CC BY.