著者の所属・活動拠点の国は、モロッコ、シンガポールです。

掲載誌:Applied Microbiology

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的:伝統的な肉から「天然の保存役」を探す

乳酸菌は、ヨーグルトや発酵食品づくりでおなじみの細菌です。乳酸などの有機酸や、バクテリオシンと呼ばれる抗菌性のたんぱく質・ペプチドを作り、腐敗菌や食中毒菌の増殖を抑えることがあります。こうした性質を利用して食品の安全性を高めたり、日持ちを良くしたりする考え方は「バイオプロテクション(生物的な保護)」と呼ばれ、合成保存料に代わる方法として関心を集めています。

研究チームが注目したのは、モロッコ南西部スース・マッサ地方のヤギ肉です。この地域では、ヤギがアルガンの木(Argania spinosa)が広がる乾燥した森林で放牧され、主に地元の植生を食べて育ちます。著者らは、このあまり調べられていない環境で育ったヤギの肉に、食品の保存に役立つ乳酸菌が潜んでいるのではないかと考えました。研究の目的は、その土地由来の乳酸菌を集め、抗菌力や安全性、加工に関わる性質を調べて、伝統的なヤギ肉製品の保護用・発酵用の菌として今後検討する価値のある株を選び出すことでした。

何を調べたか:2304株から6株へ絞り込む

研究チームは、伝統的な方法で飼育されたヤギから、生肉、香辛料とオリーブオイルで自然発酵させた肉、それをさらに天日干しした発酵乾燥肉の3種類を18点ずつ、計54点採取しました。そこから酸素のない条件で培養し、乳酸菌と推定される菌を合計2304株得ました。

次に、これらの菌が食中毒菌の増殖を抑えるかを調べました。抗菌活性を示したのは108株で、生肉由来が8株、発酵肉由来が21株、発酵乾燥肉由来が79株でした。重複を除き、抗菌の強さや効く範囲を比べて27株に絞り、最終的に、サルモネラ、リステリア、黄色ブドウ球菌という3種類の食中毒菌に対して特に強く幅広い効果を示した6株を詳しく調べました。

詳しい検討では、菌を取り除いた培養液を寒天培地のくぼみに入れ、その周りに菌が育たない透明な円がどれだけ広がるかで抗菌力を測りました。さらに、血液を壊す性質(溶血性)やゼラチンを分解する酵素の有無など安全性に関わる性質、肉のたんぱく質や脂肪を分解する性質も確認しました。菌の種類は、細菌の種類を見分ける目印としてよく使われる16S rRNA遺伝子の配列を読んで特定しました。

主な結果:リステリアに強い効果、安全面の好ましい性質も

選ばれた6株は、腸球菌の仲間であるエンテロコッカス・フェシウム(2株)とエンテロコッカス・タイランディクス(1株)、そして肉や発酵肉によく見られる乳酸菌ラチラクトバチルス・サケイ(3株)でした。

6株はいずれも3種類の食中毒菌すべてに対して抗菌活性を示しましたが、その強さは菌株や相手の菌によって異なりました。最も効きやすかったのはリステリアで、阻止円の直径は24.0〜34.5ミリメートルでした。最大はフェシウムのMG1706株(34.5ミリメートル)で、サケイのMG1714株とMG4013株がそれに続きました。サルモネラに対しては17.5〜24.9ミリメートルと比較的穏やかで、黄色ブドウ球菌に対しては15.3〜27.9ミリメートルとばらつきが大きく、MG4013株が最も強い効果を示しました。

また、培養液を中和して酸性をなくしても抗菌活性が残りました。著者らはこの結果から、効果は酸だけによるものではなく、バクテリオシンのような物質など酸以外の成分が関わっている可能性があると述べています。ただし、その物質の正体を確かめるには、さらに詳しい分析が必要だとしています。

安全性や加工に関わる検査では、6株のいずれも溶血性、ゼラチン分解酵素、たんぱく質や脂肪を分解する性質を示しませんでした。著者らは、これを肉の品質を損ねにくく、安全面でも好ましい特徴と位置づけています。抗生物質に対する反応は腸球菌の3株について報告され、試した13種類の薬剤すべてで「感受性」または「中間」と判定され、「耐性」に達したものはありませんでした。サケイの3株についてはこの結果は報告されていません。

これらを総合して、研究チームはサケイのMG4013株を最も有望な候補としました。幅広い抗菌力をもち、好ましくない酵素活性がなく、ほかの株とも互いに抑え合いにくいためです。ただし、この株の抗生物質への反応はまだ確認されていないことも明記されています。

この研究が示すこと

この研究は、アルガンの森の放牧で育ったヤギの肉が、食中毒菌を抑える力をもつ土地由来の乳酸菌の供給源になりうることを示しました。とくに伝統的な発酵乾燥肉から抗菌性の菌が多く見つかった点は、昔ながらの加工の過程と有用な菌との関係をうかがわせます。

一方で、著者らは限界も示しています。今回の抗菌試験は実験室の培地上で行ったもので、実際の肉の中で同じ効果が出るとは限りません。また、アルガン以外の環境の菌と比較していないため、これらの性質がアルガンの森という環境に特有のものかどうかは分かっていません。腸球菌については、遺伝子レベルでの安全性確認も欠かせないとしています。天然の保存用の菌として使うには、実際の食品での検証が必要だというのが、研究チームの結論です。

原著論文の著者・所属:Hamza Tami(Bioprocess & Environment Team, LASIME Research Laboratory, Agadir Superior School of Technology, Ibnou Zohr University, Agadir 80150, Morocco)、Youssef Ezzaky(Bioprocess & Environment Team, LASIME Research Laboratory, Agadir Superior School of Technology, Ibnou Zohr University, Agadir 80150, Morocco; Future Ready Food Safety Hub (FRESH) (A Joint Alliance by A*STAR, SFA and NTU), Nanyang Technological University, 50 Nanyang Avenue, N1, B3C-41, Singapore 639798, Singapore)、Mariem Zanzan(Bioprocess & Environment Team, LASIME Research Laboratory, Agadir Superior School of Technology, Ibnou Zohr University, Agadir 80150, Morocco)、Mohamed Amellal(Bioprocess & Environment Team, LASIME Research Laboratory, Agadir Superior School of Technology, Ibnou Zohr University, Agadir 80150, Morocco)、Ahmed Elidrissi(Bioprocess & Environment Team, LASIME Research Laboratory, Agadir Superior School of Technology, Ibnou Zohr University, Agadir 80150, Morocco)、Fouad Achemchem(Bioprocess & Environment Team, LASIME Research Laboratory, Agadir Superior School of Technology, Ibnou Zohr University, Agadir 80150, Morocco; National Higher School of Food Industry and Biotechnologies (ENSIAB-AM), Ibnou Zohr University, Agadir 80000, Morocco)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Hamza Tami, Youssef Ezzaky, Mariem Zanzan, et al. Isolation and Characterization of Bioprotective Lactic Acid Bacteria from Goat’s Meat Produced in the Argan Grove of Morocco. Applied Microbiology 2026-08-13. DOI: 10.3390/applmicrobiol6080095. 原著ライセンス:CC BY.