著者の所属・活動拠点の国は、スウェーデンです。
掲載誌:Frontiers in Nutrition
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
なぜ乳酸菌と鉄吸収の関係を調べるのか
鉄は、血液中で酸素を運ぶヘモグロビンの材料となるなど、体に欠かせないミネラルです。鉄欠乏は世界で最も多い微量栄養素の不足で、貧血の主な原因とされ、推定約20億人に影響しているといいます。特に影響を受けやすいのは、妊娠可能な年齢の女性、妊婦、幼い子ども、そして運動量の多いアスリートです。
著者らによると、鉄の補給や食品への鉄添加といった公衆衛生の取り組みが長年続けられてきたにもかかわらず、鉄欠乏は減っていません。理由の一つは、植物性食品に多い「非ヘム鉄」が吸収されにくいことです。肉や魚に含まれるヘム鉄の吸収率が約25%であるのに対し、非ヘム鉄は15%未満とされます。穀物や豆類に多いフィチン酸、お茶やコーヒーに多いポリフェノールは、腸の中で鉄と結びついて吸収を妨げます。腸の炎症も吸収を下げる要因として挙げられています。さらに、飲み薬の鉄剤では吐き気や便秘などの胃腸症状が出やすく、服用者の最大60%が副作用を訴えるため、続けにくいという問題もあります。
この総説は、こうした課題を補う方法として注目されるプロバイオティクス(十分な量をとると健康に役立つ生きた微生物)のうち、乳酸菌の一種であるラクチプランチバチルス・プランタルム299v株(Lp299v)に関する研究を整理したものです。著者らは、鉄吸収について臨床研究が行われたプロバイオティクスの中で、この株が最も多くの臨床試験(計10件)で調べられていると述べています。
食事試験で示された吸収率の上昇
総説ではまず、鉄が腸で吸収される仕組みが説明されています。食べ物中の非ヘム鉄の多くは溶けにくい「3価鉄」の形をとっており、腸の細胞の表面にある酵素(DCYTB)によって「2価鉄」に変えられてから細胞内に取り込まれます。この変換が吸収の速さを左右する重要な段階だとされます。
次に、目印を付けた鉄(同位体)を使って食事からの吸収量を測った試験が紹介されています。鉄の貯蔵量が少ない女性を対象に、生きたLp299vで発酵させたオートミールのおかゆを食べてもらった試験では、加熱殺菌したものや発酵させていないものと比べて、非ヘム鉄の吸収がおよそ2倍になりました。この効果は生きた菌に特有で、酸や酸性度だけでは説明できなかったと報告されています。一方、凍結乾燥した菌を加熱済みのおかゆに後から加えた別の試験では、同様の効果は見られませんでした。研究者らは、この加え方では菌が活動を始めるまでに時間がかかったためではないかと考えています。
妊娠可能な年齢の女性が鉄を添加した果汁飲料を飲んだ試験では、Lp299vを加えると鉄の吸収率の平均が19.3%から28.8%に上がりました。小麦主体の食事とともにLp299vのカプセルをとった試験でも、吸収率が相対的に約17〜29%高まりました。著者らは、食品に混ぜる形でもカプセルでも、また食事内容が違っても、吸収率の向上が繰り返し確認されたとまとめています。
長期試験での鉄の状態の変化
より長い期間をかけた臨床試験も紹介されています。健康な妊婦326人を対象とした無作為化二重盲検試験では、Lp299vに少量の鉄、ビタミンC、葉酸を組み合わせた製品を妊娠10〜12週から1日2回とってもらい、プラセボ(有効成分を含まない偽薬)と比較しました。妊娠35週時点で、鉄欠乏の割合はプラセボ群の78%に対して59%、鉄欠乏性貧血の割合は21%に対して7.4%と、いずれも低くなりました。妊娠中は鉄の貯蔵の目安となるフェリチンが自然に下がりますが、その低下も緩やかだったと報告されています。
新たに鉄欠乏性貧血と診断された患者295人の試験では、1日100mgの鉄剤に加えてLp299vをとった群で、3か月後の血清鉄、フェリチン、ヘモグロビンなどの改善が鉄剤のみの群より大きくなりました。ヘモグロビンの増加は鉄剤のみの0.4g/dLに対し0.9g/dLでした。この試験では胃腸の不調が減って服薬を続けやすくなったことも報告されており、著者らは、吸収を高める働きと治療を続けやすくする働きの両面がある可能性を指摘しています。
一方で、すべての試験で明確な差が出たわけではありません。鉄の貯蔵量が少ない女性アスリート39人の試験では、フェリチンなどの改善が数値上は大きかったものの、統計的に意味のある差には届きませんでした。睡眠に問題のある鉄欠乏の子ども43人の試験でも、有意な差は見られませんでした。規模の小さい予備的な試験や、統計解析が行われていない試験も含まれています。著者らは、2025年に発表された系統的レビューとメタ解析(複数の研究結果を統合する解析)を引き、Lp299vの根拠は鉄の吸収を高める点で最も強く、鉄の貯蔵を増やす点では中程度、ヘモグロビンへの影響については限られている、という評価を紹介しています。
考えられている仕組みと、この総説が示すもの
著者らは、Lp299vが鉄の吸収を助ける仕組みとして、いくつかの経路を挙げています。一つは、菌が乳酸などの酸をつくって腸内を酸性に傾け、鉄を溶けやすい形に保つことです。酸性の環境はフィチン酸の分解を間接的に促し、鉄が利用されやすくなる可能性も示されています。人の腸の細胞を使った実験では、Lp299vが3価鉄を2価鉄に変える酵素DCYTBの働きを高めることが報告されています。ただし、2価鉄を細胞に運び込む輸送体については、はっきりした増加は確認されていません。
このほか、腸内細菌がつくる短鎖脂肪酸の増加や、腸の粘液層・バリア機能の強化、炎症の抑制も候補として挙げられています。炎症が起きると、鉄の吸収を抑えるホルモン「ヘプシジン」が増えるため、炎症を和らげることが吸収の改善につながりうるという考え方です。
総説全体からは、Lp299vは鉄そのものを補うのではなく、食事や鉄剤からとる鉄を体が利用しやすくする「吸収の補助役」と位置づけられることが分かります。また、乳酸菌であればどれでも同じ効果があるわけではなく、他の菌株では効果が見られなかった試験もあることから、効果は菌株によって異なると著者らは述べています。
原著論文の著者・所属:Brandy Webb(Probi AB)、Mary Farrell(Probi AB)、Caroline Montelius(Probi AB)、Gunilla Önning(Probi AB)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Brandy Webb, Mary Farrell, Caroline Montelius, et al. Probiotics and iron bioavailability: mechanisms, clinical evidence, and translational applications—a comprehensive review of the probiotic strain Lactiplantibacillus plantarum 299v (LP299V®). Frontiers in Nutrition 2026-08-07. DOI: 10.3389/fnut.2026.1905459. 原著ライセンス:CC BY.