著者の所属・活動拠点の国は、トルコです。
掲載誌:Molecules
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
漬物の乳酸菌がつくる多糖に注目した研究
発酵食品には多くの乳酸菌がすみついています。乳酸菌の中には、菌体の外に糖が長くつながった物質「菌体外多糖(EPS)」を出すものがあります。EPSは食品の粘り気や食感を左右する素材として、また機能性の面からも研究されてきました。
EPSのうち、1種類の糖だけからできたものは「ホモ多糖」と呼ばれます。安価な砂糖(ショ糖)を原料に効率よく作れるため、特に関心を集めています。乳酸菌が作る代表的なホモ多糖は、ブドウ糖(グルコース)がつながった「α-グルカン」です。ブドウ糖同士のつながり方の違いによっていくつかの型に分かれ、主に「1→6結合」でつながったものをデキストランと呼びます。
研究チームは、低いpHで季節をまたいで自然発酵させる漬物が、こうした多糖を多く作る乳酸菌の供給源になりうると考えました。そこで、漬物から分離した乳酸菌が作るEPSの構造と物理的・化学的な性質を明らかにすることを目的としました。
洋ナシの漬物から得た菌と、多糖の調べ方
対象としたのは、伝統的なコーカサス洋ナシの漬物から分離された乳酸菌、ロイコノストック・メセンテロイデスVB113株です。漬物はpH3.5前後で、食べる前に4か月ほど自然発酵させたものでした。この菌を寒天培地で育てると、ショ糖を加えた場合だけ強いぬめりが現れ、ショ糖がないとぬめりは見られませんでした。
次に、ショ糖を含む液体培地でこの菌を育て、作られたEPSを取り出して部分的に精製しました。試験した条件での収量は1リットルあたり5.01グラムと報告されています。
取り出した多糖は、さまざまな分析にかけられました。構成する糖の種類や分子の大きさを調べたほか、核磁気共鳴(NMR)や赤外分光で糖のつながり方と化学構造を確認しました。さらに、加熱したときの重さの変化や熱の出入りから熱への強さを、X線回折から結晶性の有無を調べました。表面の形は、原子間力顕微鏡と走査型電子顕微鏡で観察しました。
枝分かれが多く、熱に強いデキストラン
分析の結果、このEPSを構成する糖はブドウ糖だけでした。分子量は約2.5×10^6ダルトン(結論部では2.4×10^6ダルトン)で、乳酸菌由来の多糖としては平均的な大きさとされています。
NMR分析では、1→6結合のブドウ糖と、枝分かれをつくる1→3結合のブドウ糖が4対1の割合で含まれていました。つまり約20%が1→3結合で、著者らはこれを「高度に枝分かれしたデキストラン」と位置づけています。論文によると、この菌種が作るデキストランでは1→3結合は通常5%程度にとどまります。ただし、同様に枝分かれの多い例もこれまでに報告されています。
熱分析では、まず水分が抜け、その後おだやかな分解を経て、240〜350℃で主な分解が起きました。重さの減り方が最も急だったのは272.25℃です。研究チームはこれを熱に強い性質と評価しています。X線回折では、規則的な結晶構造を持たない非晶質(アモルファス)であることが示されました。
顕微鏡観察でも特徴的な姿が見られました。原子間力顕微鏡では、一定の方向にそろった繊維状の構造が観察されました。電子顕微鏡では、小さな球状の集まりが密に寄り集まったカリフラワーのような階層構造が見られ、その表面は均一でごく細かな粒子で覆われていました。
この研究が示すこと
この研究は、伝統的な果実の漬物という身近な発酵食品から、一般的なものより枝分かれの多いデキストランを作る乳酸菌が見つかったことを報告しています。著者らは、変わった環境から乳酸菌を探すことで、独自の性質を持つ菌や多糖に出会える可能性があると述べています。
著者らは、高い分子量、枝分かれの多い構造、熱への強さ、微細な構造といった性質から、増粘剤などの素材としての可能性を挙げています。一方で、今回の研究は構造と物理的・化学的性質の解明が中心です。実際の食品に使ったときの働きや、生体での機能はまだ確かめられていないと著者ら自身が明記しています。
原著論文の著者・所属:Hümeyra İspirli(Food Engineering Department, Engineering Faculty, Bayburt University, Bayburt 69000, Turkey)、Akif Emre Kavak(Nuvita Biosearch R&D Center, Istanbul 34522, Turkey)、Enes Dertli(Department of Food Engineering, Faculty of Chemical and Metallurgical Engineering, Istanbul Technical University, Istanbul 34467, Turkey)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Hümeyra İspirli, Akif Emre Kavak, Enes Dertli. Characterization of Highly Branched Dextran VB113 Produced by Leuconostoc mesenteroides VB113 as Traditional Pickle Isolate. Molecules 2026-08-08. DOI: 10.3390/molecules31162763. 原著ライセンス:CC BY.