クロムという名前を聞いても、何の栄養素かぴんとくる人は少ないかもしれません。原子番号24番の金属元素で、体内では糖質・脂質・たんぱく質の代謝にかかわるとされる微量元素です。インスリンの働きを助け、糖代謝を正常に保つ役割があるとされる一方、必須栄養素と言い切れるかどうかは専門家の間でも議論が残っています。食事摂取基準2025では、30〜49歳女性の目安量は1日わずか10µg。これほど微量で足りる栄養素です。
ところが日本食品標準成分表でクロムの含有量を調べると、この10µgをあっさり超える食品がいくつも見つかります。100gあたりで最大160µgと、目安量の16倍に相当する食品まで存在するのです。「そんなに手軽に摂れるのか」と思いきや、話はそう単純には終わりません。
クロムが多い食品トップ5
1位はあおさ 素干しで、100gあたりクロム160µg。目安量10µgを大きく上回る量です。ただし、この食品で本当に注目すべきはクロムよりもヨウ素で、100gあたり2200µgが含まれています。30〜49歳女性の推奨量は140µgですので、その約16倍に相当します(耐容上限量は3000µg)。ヨウ素は甲状腺ホルモンの材料となり、成長やエネルギー代謝にかかわる栄養素です。
2位はスイートチョコレート カカオ増量で、クロムは100gあたり94µg。甘みの主体はしょ糖24.5gで、乳糖0.3gよりずっと多く含まれています。また鉄も100gあたり9.3mgあり、30〜49歳女性(月経なし)の推奨量6mgの155%にあたります。チョコレートが鉄の面でも存在感のある食品だとわかります。
3位はアサイー 冷凍 無糖で、クロムは100gあたり60µg。アマゾン原産で、見た目はブルーベリーに似ていますが実はヤシ科の植物です。マンガンも100gあたり5.91mgあり、30〜49歳女性の目安量3.0mgを大きく上回ります。酵素の構成成分として働くマンガンの供給源としての顔も持っています。
4位はバジル 粉で、クロムは100gあたり47µg。ここで目を引くのはカルシウムで、100gあたり2800mgは30〜49歳女性の推奨量650mgの431%にあたるだけでなく、耐容上限量2500mgの約1.1倍にも達します。これはあくまで100gあたりの数値であり、香辛料として使うごく少量では問題になりませんが、数字として見ると際立った特徴があります。
5位はスイートチョコレートで、クロムは100gあたり45µg。甘みの主体はしょ糖39.4gで、乳糖3.7gを大きく上回ります。有機酸ではクエン酸が2.3gと最も多く含まれています。
「多く摂れる」がほぼ意味を持たない理由
ここまで見ると、あおさやチョコレートで手軽にクロムが摂れそうに思えます。しかし実際には、食事中のクロムは吸収率が非常に低く、経口摂取してもほとんどが吸収されずに排出されてしまうとされています。つまり100gあたり160µgという数字をそのまま体に取り込めるわけではなく、上位食品の「多さ」を追いかけること自体、実益の薄い行為だといえます。
実際、クロムは肉・魚介・穀類など幅広い食品に微量に含まれており、通常の食生活で不足が起こることはまれとされています。欠乏が報告されているのも、口から食べ物を摂らずに静脈栄養を続けた患者などに限られ、日常的な食事の範囲で心配する場面は基本的にありません。
※本記事は日本食品標準成分表(八訂)および日本人の食事摂取基準(2025年版)のデータ等をもとに作成しました。
栄養素のはたらき・摂取基準の記述は、次の公的資料に基づきます:厚生労働省 食事摂取基準