著者の所属・活動拠点の国は、中国です。
掲載誌:Foods
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
ロバ肉はたんぱく質や必須アミノ酸、不飽和脂肪酸が多く、脂肪とカロリーが少ない肉として紹介されています。一方で、需要に応えるため飼育が集約化すると、体の抗酸化力が下がり、成長や肉質に悪影響が出るおそれがあると著者らは述べています。
セレンは抗酸化、免疫、成長に関わる必須の微量ミネラルです。家畜の飼料には、酵母に取り込ませた有機セレン(セレン酵母)や、無機のセレン化合物が使われています。著者らによれば、ロバでセレンを与えた場合の影響や、有機セレンと無機セレンの違いはこれまで報告されていませんでした。
ロバは反すう動物ではありませんが、よく発達した盲腸で多くの微生物が粗飼料を発酵させています。研究チームは、有機セレンが盲腸の有用な細菌を増やして発酵を高め、さらに抗酸化に関わる体内の信号伝達経路を働かせることで、抗酸化力と肉質が向上するのではないかという仮説を立て、これを調べました。
どのように調べたか
1歳の雄の肉用ロバ16頭を無作為に2群に分け、一方には基礎飼料に無機セレンを、もう一方にはセレン酵母を、いずれもセレンとして飼料1キログラムあたり0.3ミリグラム加えました。10日間の予備期間の後、18週間飼育し、その後に肉や組織を調べています。
研究チームは、体重の増え方、飼料の消化率、肉の成分や保水性・やわらかさ・色、血液の成分、抗酸化酵素や炎症に関わる物質を測りました。さらに盲腸の内容物について、発酵の指標、細菌の種類、代謝物、遺伝子の働き方を網羅的に分析し、それらの関連を統計的に調べました。
主な結果
論文によると、セレン酵母を与えた群では、無機セレンを与えた群と比べて、肉に含まれるセレンとたんぱく質が多く、脂肪分が少なくなっていました。肉汁の流出が減って保水性が高まり、肉を切るのに必要な力(やわらかさの指標)が小さくなったほか、肉の色の黄色みを示す値も下がっていました。1日あたりの体重増加も大きく、たんぱく質や脂肪、繊維の消化率も高くなっていました。
抗酸化の面では、カタラーゼやグルタチオンペルオキシダーゼなどの抗酸化酵素の活性や総抗酸化能が高まり、脂質が酸化されてできるマロンジアルデヒドや活性酸素、炎症に関わるインターロイキン類などが低下していました。血液中のコレステロールや遊離脂肪酸なども低く、著者らは脂質の過酸化が抑えられたと解釈しています。
盲腸では、微生物によるたんぱく質合成の指標などが高まり、酪酸をつくる細菌として知られるアガトバクター属や乳酸菌(ラクトバチルス属)が増えていました。また、細胞の信号伝達に関わる脂質の一種であるスフィンゴシン-1-リン酸(S1P)が増え、その合成や受容に関わる遺伝子の働きも高まっていました。これらの細菌はS1Pと正の関連を示していました。
研究が示す意味と注意点
著者らは、セレン酵母の給与が、ロバ肉の品質や成長の向上、体の抗酸化力の高まり、そして盲腸の有用菌やS1Pの増加と結びついていることを報告し、S1Pとそれに続く細胞内の信号伝達経路が関わっている可能性を示しています。ただし、この仕組みについては、関連を示したもので因果関係は確かめられていないと論文自身が述べています。
論文はほかにも限界を挙げています。各群8頭と少数であること、セレンを含まない酵母を与える比較群がないため、細菌や発酵の変化が有機セレンそのものによるのか酵母の成分によるのか区別できないこと、セレンを加えない群もなく、セレンを加える効果ではなく同じ量でのセレン源の違いを比べたものであること、代謝物の解析で多重比較の補正をしていないことです。
こうした条件の下で、この研究は、同じ量のセレンでも与える形によってロバ肉の品質や抗酸化に関わる指標が異なりうることを示し、その背景を腸内細菌と代謝物の面から探る手がかりを提示したものといえます。
原著論文の著者・所属:Li Li(Key Laboratory of Animal Nutrition and Feed Science, Universities of Inner Mongolia Autonomous Region, Hohhot 010018, China)、Yanli Zhao(Key Laboratory of Animal Nutrition and Feed Science, Universities of Inner Mongolia Autonomous Region, Hohhot 010018, China)、Xiaoyu Guo(Key Laboratory of Animal Nutrition and Feed Science, Universities of Inner Mongolia Autonomous Region, Hohhot 010018, China)、Yongmei Guo(Key Laboratory of Animal Nutrition and Feed Science, Universities of Inner Mongolia Autonomous Region, Hohhot 010018, China)、Qingyue Zhang(Key Laboratory of Animal Nutrition and Feed Science, Universities of Inner Mongolia Autonomous Region, Hohhot 010018, China)、Fanzhu Meng(Key Laboratory of Animal Nutrition and Feed Science, Universities of Inner Mongolia Autonomous Region, Hohhot 010018, China)、Fang Hui(Key Laboratory of Animal Nutrition and Feed Science, Universities of Inner Mongolia Autonomous Region, Hohhot 010018, China)、Sumei Yan(Key Laboratory of Animal Nutrition and Feed Science, Universities of Inner Mongolia Autonomous Region, Hohhot 010018, China)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Li Li, Yanli Zhao, Xiaoyu Guo, et al. Effects of Selenium Sources on Meat Quality and Antioxidative Capacity in Donkeys: An Integrated Study Combining Cecal Microbiota Profiling and Multi-Omics Analysis. Foods 2026-10-09. DOI: 10.3390/foods15203589. 原著ライセンス:CC BY.