著者の所属・活動拠点の国は、インドネシアです。

掲載誌:JURNAL BIOLOGI TROPIS

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

ポストバイオティクスとは、生きていない微生物やその成分からなる調製物で、宿主に健康上の利益をもたらすものを指します。生きた菌を使うプロバイオティクスに比べて、温度やpHの変化に強く保存しやすいことなどから、研究上の関心が高まっています。これまでは主に細菌由来のものが調べられてきましたが、多様な代謝物を生み出すカビ(糸状菌)由来のものにも注目が集まっています。

インドネシアのポリテクニク・ヌゲリ・ジュンブルの研究チームは以前の研究で、テンペ作りに使われるカビ、リゾプス・オリゴスポルス(Rhizopus oligosporus)でエダマメのさやを発酵させて得たポストバイオティクス候補に、フェノール類が多く含まれ、抗酸化活性を示すことを報告していました。しかし、発酵液はさまざまな化合物が混ざり合ったものであるため、どの成分がそうした働きに関わっているのかははっきりしていませんでした。

そこで今回、著者らは、この発酵液にどのような代謝物が含まれているかを明らかにすること、そして主な成分が食品の汚染などに関わる細菌、黄色ブドウ球菌のタンパク質とどのように結合しうるかをコンピューター上で予測することを目的としました。

何をどのように調べたか

研究チームは、乾燥させて粉末にしたエダマメのさやを滅菌水に加え、そこへリゾプス・オリゴスポルスの胞子を植え付けて、30℃でかき混ぜながら5日間培養しました。培養後にろ過して得た液を加熱処理し、ポストバイオティクス候補としました。

この液の成分は、ガスクロマトグラフィー質量分析(GC-MS)で調べました。これは混合物を成分ごとに分離し、それぞれの質量の特徴を既存のデータベースと照合して、どのような化合物かを推定する方法です。各成分の割合は、検出されたピークの面積に基づく相対的な値として示されています。

次に、多く含まれていた成分を選び、分子ドッキングと呼ばれる計算手法で、黄色ブドウ球菌の「DNAジャイレース・サブユニットB」というタンパク質との結合を予測しました。DNAジャイレースは細菌がDNAを扱う際に必要な酵素で、抗菌薬の標的として知られています。分子ドッキングでは、化合物がタンパク質のくぼみにどのようにはまり込み、どの程度安定に結合しうるかを数値(結合親和性)として推定します。比較のため、このタンパク質の構造データにもともと結合していた化合物も同じ方法で計算しました。

主な結果

GC-MS分析では52のピークが検出され、発酵液が多様な代謝物を含むことが示されました。化学的な分類ではアルコール・多価アルコール類が最も多く、次いで糖の誘導体が多くみられました。個々の成分では、2,3-ブタンジオール(ピーク面積の約20%)が最も多く、グリセリン(約17%)、ジアンヒドロマンニトール(約14%)、n-ヘキサデカン酸(パルミチン酸、約6%)、酢酸(約6%)、ヒドロキノン(約4%)、安息香酸(約3%)が続きました。

著者らは、2,3-ブタンジオールやグリセリン、酢酸の存在は発酵に伴う代謝と整合すると考察しています。一方で、それぞれの成分がどの程度カビの働きによって生じたものかは、カビを植え付けなかった対照との比較によって確かめる必要があるとしています。

分子ドッキングでは、選ばれた5つの成分すべてが負の結合親和性を示し、計算上はタンパク質と結合しやすい関係にあると予測されました。値はマイナス3.8からマイナス5.2 kcal/molの範囲で、最も強い結合が予測されたのはn-ヘキサデカン酸(マイナス5.2)、次いで安息香酸(マイナス5.1)でした。グリセリン、2,3-ブタンジオール、ジアンヒドロマンニトールは比較的弱い結合にとどまりました。比較対象の化合物はマイナス9.7 kcal/molで、今回の成分はいずれもこれより弱い予測値でした。著者らは、これらが阻害のために設計された物質ではなく天然の小さな分子であることから、この差は予想の範囲内だとしています。

著者らによると、n-ヘキサデカン酸は長い炭素の鎖が水をはじく性質の相互作用を広く生み、末端の部分が水素結合で結合を安定させている可能性があります。また、n-ヘキサデカン酸や安息香酸などは、比較対象の化合物と一部共通するタンパク質の部位と相互作用すると予測されました。

この研究が示すこと

この研究は、研究例の少ないリゾプス属のカビ由来ポストバイオティクス候補について、含まれる代謝物の顔ぶれを初期段階として示したものです。あわせて、主な成分が細菌の酵素と結合しうるという計算上の手がかりを得ました。

ただし著者ら自身が強調しているように、分子ドッキングの結果は結合についての予備的な仮説であり、それだけで抗菌作用を示すものではありません。農業副産物であるエダマメのさやから得られる発酵液が、どのような成分を含み、それらがどんな働きを持ちうるのかを、実際の検証へとつなげていくための出発点となる研究といえます。

原著論文の著者・所属:Angga Prasetyo(Politeknik Negeri Jember)、Rasmiyana Rasmiyana

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Angga Prasetyo, Rasmiyana Rasmiyana. Metabolite Profiling and Molecular Docking of Candidate Fungal Postbiotics Derived from Rhizopus oligosporus. JURNAL BIOLOGI TROPIS 2026-10-23. DOI: 10.29303/jbt.v26i4.13040. 原著ライセンス:CC BY.