著者の所属・活動拠点の国は、イランです。

掲載誌:مجله پژوهش‌های علوم و صنایع غذایی ایران

ライセンス: CC BY 4.0 対象: 公開論文 確認元: 論文PDF

温度の揺らぎから食品を守るという課題

肉、魚介類、乳製品、生鮮青果などの傷みやすい食品は、保管、輸送、店頭陳列の各段階で温度が変わると品質が落ちやすくなります。冷蔵を途切れさせずに食品を届ける仕組みは「コールドチェーン(低温流通)」と呼ばれます。著者らは、この流れの中で短時間の温度上昇や冷蔵の一時的な中断が起きただけでも、微生物の増殖、脂質の酸化、食感の変化などが進み、栄養面や風味の価値が損なわれうると指摘しています。

研究チームが注目したのは「相変化材料(PCM)」です。PCMは、固体から液体へ、または液体から固体へと状態が変わる際に、自身の温度をほとんど変えずに多くの熱を吸収・放出します。この熱は「潜熱」と呼ばれます。周囲が暖かくなると熱を吸収し、冷えると蓄えた熱を放出するため、電力を使わずに温度変化を和らげる「熱の緩衝材」として働きます。この総説は、PCMを食品包装に組み込む研究の現状を整理し、低温流通の性能と食品品質の維持にどう関わるかをまとめることを目的としています。

何を調べたのか

著者らはScopus、Web of Science、PubMed、ScienceDirect、Google Scholarなどの主要な文献データベースを検索し、食品包装やコールドチェーンへのPCMの応用を扱った研究を集めました。選んだ研究は、PCMの性質、包装への組み込み方、熱的な性能、保管・輸送中の食品品質を保つ役割という観点から評価し、まとめています。

特に重視されたのは、PCMが溶けたり固まったりする温度、蓄えられる潜熱の量、熱の伝わりやすさ(熱伝導性)、溶融と凝固を何度繰り返しても性能を保てるかという点です。さらに、PCMの種類や包装の構成による違いを比較し、実際の保管・輸送条件で効果を左右する要因を整理しました。

報告された主な知見

総説では、PCMを有機系、無機系、脂肪酸系などに分けて紹介しています。パラフィンや脂肪酸などの有機系PCMは、化学的に安定で腐食性がなく、適した温度範囲で相変化することから注目されてきました。一方で、熱を伝えにくい点や、溶けたときに漏れ出す点が弱点とされています。水和塩などの無機系PCMは熱を伝えやすいとされる一方、一部の低融点金属は毒性が問題となるため利用が限られると説明されています。

総説が取り上げた研究の中には、食品での具体的な効果を示したものもあります。たとえば、ラウリン酸をPCMとして段ボール箱の内側に取り付けた包装では、150グラムの牛乳が160分間にわたって目標の温度範囲に保たれたと報告されています。テトラデカンを加えたキノコの包装では、PCMを使わない包装より食品温度が2〜3℃低く保たれた例が紹介されています。果物の包装で保存期間が6日から10日に延びたとする研究もありました。

著者らが近年の研究の重点として挙げるのは、主に三つの方向です。生体適合性があり生分解性をもつPCMの開発、グラフェンなどのナノ材料を加えて熱の伝わりやすさを高める工夫、そしてPCMを微小なカプセルに閉じ込める「カプセル化」や形状を固定する技術による安定性の向上です。とりわけマイクロ・ナノレベルのカプセル化、高分子や生体由来高分子の殻材の利用、複合材料化が進んだことで、PCMの漏れが減り、熱的・機械的な安定性や蓄熱効率が高まり、溶融と凍結を繰り返しても性能を保ちやすくなったと報告されています。カプセル化はPCMと食品が直接触れるのを防ぐ点でも、食品の安全性や規制への対応の面で重要だと指摘されています。

一方で、産業規模での実用化を妨げる課題も残っています。総説は、製造コストの高さ、相変化時に材料が漏れ出すおそれ、一部のPCMに固有の熱伝導性の低さ、適切な作動温度範囲の選定の難しさを主な制約として挙げています。また、どのPCMを選ぶべきかは、対象となる食品が必要とする温度と、流通過程で実際に生じる条件に密接に結びついていると述べています。

この総説が示すこと

著者らは、持続可能で生体適合性があり、手頃な費用で作れるPCMを開発できれば、スマート包装の性能向上、食品の安全性の確保、コールドチェーンの効率化、包装産業の環境負荷の低減に大きく役立ちうると結論づけています。

そのうえで著者らは、PCMを用いた食品包装は単に温度を一定に保つだけでなく、熱管理と環境への配慮、食品の安全性、包装としての機能を一体化した仕組みを目指すべきだと提言しています。材料の選び方やカプセル化による改善と、コストや漏れといった残る課題の両方を見渡すことが、この分野の現在地を理解する手がかりになることを、この総説は示しています。

著者:Hananeh Yazdanbakhsh(Student Research Committee, Kermanshah University of Medical Sciences, Kermanshah, Iran)、Sodabeh Alahmoradi(Student Research Committee, Kermanshah University of Medical Sciences, Kermanshah, Iran)、Mohammad Hadi Moradiyan(Department of Food Science and Technology, Faculty of Nutrition Science and Food Technology, National Nutrition and Food Technology Research Institute, Shahid Beheshti University of Medical Sciences, Tehran, Iran)、Maryam Azizi-Lalabadi(Research Center of Oils and Fats, Health Technology Institute, Kermanshah University of Medical Sciences, Kermanshah, Iran)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Hananeh Yazdanbakhsh, Sodabeh Alahmoradi, Mohammad Hadi Moradiyan, et al. A Comprehensive Review of the Application of Phase Change Materials in Food Packaging: Their Impact on Cold Chain Performance and Product Quality Preservation. مجله پژوهش‌های علوم و صنایع غذایی ایران 2026-09-01. DOI: 10.22067/ifstrj.2026.99112.1586. 原著ライセンス:CC BY.