著者の所属・活動拠点の国は、ブラジルです。
掲載誌:Molecules (Basel, Switzerland)
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: Europe PMC
研究の目的:捨てられる残さを油の原料として見直す
ガビロバ(学名カンポマネシア・キサントカルパ)は、ブラジル南部や中西部に自生するフトモモ科の果物です。熟すと黄色く甘くなり、地元では菓子や飲料、ジャムの材料として使われてきました。研究チームによると、果実を加工したりそのまま食べたりすると、果皮や種子、がくなど、果実のおよそ40%が残さとして出ます。
ガビロバの果肉や葉の抽出物については、これまでも研究が進められてきました。一方、油の研究は種子を対象にしたものが1件あるだけで、果実全体の加工残さから取った油の成分や性質はまだ調べられていませんでした。
油の取り出し方も、成分の量や質を左右します。従来よく使われるソックスレー抽出は、溶媒を長時間加熱しながら循環させる方法です。収量は高いものの、熱に弱い成分が壊れるおそれがあり、エネルギーや溶媒も多く使います。これに対して超音波抽出は、高い周波数の音波で液体中に微小な泡を発生させ、泡がはじける力で植物の組織を壊して成分を溶け出しやすくする方法です。研究チームは、この超音波抽出がガビロバ残さ油の成分や生物活性にどう影響するかを、ソックスレー抽出と比べて調べました。
何をどう調べたか
研究チームは、ブラジル・パラナ州イラチで熟したガビロバを集め、果肉を取り分けたあとの残さを40℃で乾燥させて粉砕しました。そこから溶媒ヘキサンを使って二通りの方法で油を取り出しました。超音波抽出では、氷で冷やして温度を30℃未満に保ち、音波を断続的に当てながら30分間抽出しました。ソックスレー抽出では9時間かけて溶媒を循環させました。
得られた油について、脂肪酸や香り成分の組成、酸度や密度といった品質の指標、カロテノイド(黄色やオレンジ色の色素)とポリフェノール類の量、抗酸化力を測りました。さらに、細菌やカビの増殖を抑える力、糖の分解に関わる消化酵素を妨げる力、培養細胞への毒性も、試験管や培養皿の上で評価しました。
主な結果:超音波抽出の油は不飽和脂肪酸やポリフェノールが多かった
乾燥前の残さは72%が水分でした。それ以外の成分では食物繊維(14.55%)と脂質(5.80%)が多く含まれていました。油の脂肪酸はどちらの方法でもオレイン酸が最も多く、パルミチン酸、リノール酸が続きました。超音波抽出の油は、ソックスレー抽出の油に比べて不飽和脂肪酸の割合が21%高く、飽和脂肪酸の割合は36%低くなりました。研究チームは、超音波抽出は穏やかな条件で短時間に済むため、酸化しやすい不飽和脂肪酸が壊れにくかったと考えています。香り成分ではセスキテルペンと呼ばれる仲間が中心で、なかでもβ-カジネンが最も多く含まれていました。
油の収量は、超音波抽出のほうがわずかに上回りました。油の劣化の目安となる遊離脂肪酸の割合(酸度)は、ソックスレー抽出の油のほうがおよそ13%高く、密度もソックスレー抽出の油でやや高くなりました。研究チームはこれを高温による変化と解釈しています。
カロテノイドは両方の油に多く含まれ、平均で油1グラムあたりβ-カロテン換算約1032マイクログラムでした。抽出法による差はありませんでした。ポリフェノールの総量は、超音波抽出が100グラムあたり約281ミリグラム(没食子酸換算)、ソックスレー抽出が約188ミリグラムでした。フラボノイドも、超音波抽出の油のほうが多く含まれていました。抗酸化力は3種類の方法で測定しました。そのうちABTS法では超音波抽出の油が最も高い値を示しましたが、DPPH法とFRAP法では抽出法による有意な差はみられませんでした。
微生物に対する効果は、相手によって異なりました。黄色ブドウ球菌には超音波抽出の油がよく効き、セレウス菌にはソックスレー抽出の油のほうが効きました。カンジダ菌については、増殖を抑える最小濃度は両方の油で同じでした。一方、菌を死滅させるのに必要な濃度は、超音波抽出の油のほうが低くなりました。大腸菌、サルモネラ菌、リステリア菌には、どちらの油も効果を示しませんでした。
糖を分解する消化酵素の試験では、どちらの油も濃度が高いほど酵素の働きを強く妨げました。酵素の働きを半分に抑える濃度で比べると、超音波抽出の油はα-アミラーゼで316マイクログラム毎ミリリットル(ソックスレー抽出は400)、α-グルコシダーゼで45マイクログラム毎ミリリットル(同122)となり、より低い濃度で効果を示しました。
培養細胞の試験は超音波抽出の油で行いました。肺がん細胞H460と、比較対象として用いたHEK293細胞の両方で、濃度が高く接触時間が長いほど生きた細胞が減りました。ただし、細胞を半分に減らす濃度でみると、この油は肺がん細胞よりもHEK293細胞に対して約1.8倍強い毒性を示しました。そのため研究チームは、がん治療の候補とみなす前に、成分や毒性をさらに調べる必要があるとしています。
この研究が示すこと
今回の研究は、これまで調べられていなかったガビロバの果実加工残さから取った油について、成分と性質を初めて詳しく報告したものです。研究チームは、超音波抽出をソックスレー抽出より短時間で効率のよい方法と位置づけています。その油は不飽和脂肪酸やセスキテルペン、カロテノイドを含み、試験管レベルで抗酸化、抗菌、消化酵素を妨げる働きを示しました。これらの結果は、捨てられていた果実残さを、少ないエネルギーで有用な油の原料として生かせる可能性を示しています。
原著論文の著者・所属:de Pinho CLC(Department of Chemical Engineering, Postgraduate Program in Food Engineering, Federal University of Paraná, Curitiba 81531-980, PR, Brazil.)、de Araújo RL(Institute of Exact and Earth Sciences, School of Food Engineering, Federal University of Mato Grosso, Barra do Garças 78605-091, MT, Brazil.)、Ávila S(Postgraduate Program in Food and Nutrition, Health Science Sector, Federal University of Paraná, Campus III, Curitiba 80210-170, PR, Brazil.)、Maciel GM(Biotechnology Laboratory, Department of Chemistry and Biology, Federal University of Technology-Paraná (UTFPR), Curitiba 81280-340, PR, Brazil.)、Zanzarini IDS(Postgraduate Program in Pharmaceutical Sciences, Laboratory of Cancer Drug Resistance, Federal University of Parana, Curitiba 80210-170, PR, Brazil.)、Moure VR(Postgraduate Program in Pharmaceutical Sciences, Laboratory of Cancer Drug Resistance, Federal University of Parana, Curitiba 80210-170, PR, Brazil.)、Valdameri G(Postgraduate Program in Pharmaceutical Sciences, Laboratory of Cancer Drug Resistance, Federal University of Parana, Curitiba 80210-170, PR, Brazil.)、Farias FO(Department of Chemical Engineering, Postgraduate Program in Food Engineering, Federal University of Paraná, Curitiba 81531-980, PR, Brazil.)、Helm CV(Brazilian Agricultural Research Corporation (Embrapa Florestas), Colombo 83411-000, PR, Brazil.)、Mafra MR(Department of Chemical Engineering, Postgraduate Program in Food Engineering, Federal University of Paraná, Curitiba 81531-980, PR, Brazil.)、Igarashi-Mafra L(Department of Chemical Engineering, Postgraduate Program in Food Engineering, Federal University of Paraná, Curitiba 81531-980, PR, Brazil.)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):de Pinho CLC, de Araújo RL, Ávila S, et al. Assessing the Potential of Gabiroba Fruit Waste as an Oil Source via Ultrasound-Assisted Extraction: Physicochemical Parameters, Chemical Profile, and Biological Properties. Molecules (Basel, Switzerland) 2026-10-16. DOI: 10.3390/molecules31203705. 原著ライセンス:CC BY.