この研究は、スペインの研究機関の研究論文です。
掲載誌:International Journal of Food Science & Technology
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
何のための研究か
ワインを造る過程では、大量の副産物が生じます。著者らは、ブドウ100kgを処理するとおよそ25kgの副産物が出て、そのうち約60%を「グレープポマース(果皮・種子・果肉を主体とする搾りかす)」が占めるという報告を引用しています。ポマースは現在おもに蒸留に回されていますが、抗酸化性や抗菌性をもつフェノール化合物といった有用な成分を多く含むため、そのまま使ってしまうのは価値ある成分の損失になる、と論文は指摘します。
この研究が扱ったのは、スペイン・リオハ原産地呼称の在来品種グラシアーノのポマースです。グラシアーノはフェノール化合物の含有量が高く、酸味や香りが強く色の濃い赤ワインになる品種として知られており、著者らはこの点からポマースが特に有望な材料になると考えました。研究の目的は、そこからフェノール化合物を効率よく取り出すための条件を見つけ出すことです。
どのような方法で調べたか
著者らは、抽出に「超音波支援抽出(UAE)」を用いました。これは、液体中で超音波によって微細な泡が発生・崩壊する「キャビテーション」という現象を利用し、細胞壁を壊して溶媒をしみ込みやすくする手法です。論文では、物質の移動を促して抽出時間を短縮しつつ、成分をいためにくい方法として紹介されています。
検討した条件は、乾燥方法(オーブン乾燥40℃・50℃と、凍結乾燥−45℃・−85℃)、抽出に使う溶媒(水、メタノール・水・ギ酸を混ぜた含水アルコール溶液、100%メタノール)、そして超音波をかける時間(15分と30分)です。実験は2段階に分けて行われました。第2段階で100%メタノールを加えて検討したのは、含水アルコール溶液では溶媒を完全に取り除くのに高温へ長くさらす必要があり、熱に弱い成分を傷めるおそれがあったためだと説明されています。得られた抽出液は、分光光度計による色の測定、酵素キットによる総フェノールと総アントシアニンの定量、HPLC-DADによるフェノール組成の分析、DPPH法による抗酸化活性の測定などで評価されました。
報告された主な結果
著者らが結論として挙げた最適条件は、−85℃での凍結乾燥、100%メタノールでの抽出、30分の超音波処理という組み合わせで、この条件下でフェノール化合物の回収量が最も大きくなったと報告されています。
条件ごとの傾向も詳しく示されています。たとえば色の指標では、含水アルコール溶液を使い超音波時間を30分に延ばすと、赤みを示す指標(a*)が上がり、黄色みを示す指標(b*)が下がるという特徴的な変化が、凍結乾燥した試料で両方の温度に共通して見られました。著者らはこれを、含水アルコール溶液のほうが幅広いフェノール化合物を溶かし出せるためだと説明しています。総フェノール・総アントシアニンについては、水よりも含水アルコール溶液を使ったほうが高い値が得られ、複数の要因を同時に検討した統計解析では、溶媒の種類が最も影響の大きい要因でした。なお、水で抽出した試料では波長420・520・620nmの吸光度が高くなりましたが、著者らはこれを色素成分が多いためというより、抽出液の濁りによる光の散乱で説明できる可能性が高いと述べています。
この研究が示すこと
この研究は、ワイン造りの副産物であるグラシアーノのポマースから、どのような乾燥・溶媒・超音波時間の組み合わせで機能性成分を多く取り出せるかを、体系的に比較して示したものです。著者らは、得られた抽出物が食品産業にとって関心のある生理活性成分の豊かな供給源になると述べています。
あわせて論文は、その組成から、ワイン醸造における二酸化硫黄の自然な代替物や、ブドウ栽培における葉面散布用のバイオスティミュラントとしての応用の可能性にも言及しています。ただし著者ら自身が明記しているとおり、これらの用途は実際のワインや植物を使った検証がこれからの課題であり、本研究の段階では確かめられていません。農業廃棄物の価値をワイン生産の流れの中に戻していく――その入口にあたる抽出条件を、この研究は具体的な数値とともに描き出しています。
著者:Lesly L. Torres‐Díaz(Grupo VIENAP, Instituto de Ciencias de la Vid y del Vino (CSIC, UR, GR) . Ctra. de Burgos, km. 6. 26007 Logroño ,)、Miriam Gónzalez-Lázaro(Grupo VIENAP, Instituto de Ciencias de la Vid y del Vino (CSIC, UR, GR) . Ctra. de Burgos, km. 6. 26007 Logroño ,)、Itziar Sáenz de Urturi(Grupo VIENAP, Instituto de Ciencias de la Vid y del Vino (CSIC, UR, GR) . Ctra. de Burgos, km. 6. 26007 Logroño ,)、Eva P Pérez-Álvarez(Grupo VIENAP, Instituto de Ciencias de la Vid y del Vino (CSIC, UR, GR) . Ctra. de Burgos, km. 6. 26007 Logroño ,)、Teresa Garde‐Cerdán(Grupo VIENAP, Instituto de Ciencias de la Vid y del Vino (CSIC, UR, GR) . Ctra. de Burgos, km. 6. 26007 Logroño ,)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Lesly L. Torres‐Díaz, Miriam Gónzalez-Lázaro, Itziar Sáenz de Urturi, et al. Optimised Recovery of Phenolic Compounds from Graciano Grape Pomace by Ultrasound-Assisted Extraction: Implications for Enology and Viticulture. International Journal of Food Science & Technology 2026-09-26. DOI: 10.1093/ijfood/vvag210. 原著ライセンス:CC BY.