お茶に含まれる多糖体(糖が鎖状につながった成分)は、抗酸化や免疫調整など幅広い機能が報告され、近年は腸の健康との関わりにも注目が集まっています。今回紹介する研究では、中国重慶市南川区に自生する希少な茶樹「南川古茶(Camellia nanchuanica)」の葉から新しい多糖体を取り出し、その構造を詳しく調べたうえで、潰瘍性大腸炎を模したマウスの実験でどのような変化が起きるかを検証しました。
超音波を使った抽出方法を数値で最適化
研究チームはまず、南川古茶の葉から多糖体を効率よく取り出すための超音波抽出(UAE)条件を検討しました。超音波の出力(250〜350W)、抽出時間(55〜95分)、抽出温度(45〜65℃)という3つの条件を組み合わせて実験し、統計的な手法(応答曲面法)で収率を予測するモデルを作成しています。その結果、出力300W・時間81分・温度55℃という条件で、粗多糖の収率が3.84±0.15%という値が得られました。実験計画に基づくこのモデルは、統計的な当てはまりの良さを示す指標(決定係数0.9834)が高く、精度の高い予測ができたと報告されています。
得られた粗多糖はエタノール濃度を変えながら段階的に沈殿させ、30%・60%・80%の3つの画分(NATP-30、NATP-60、NATP-80)に分けられました。マウスのマクロファージ細胞(RAW264.7細胞)を使った予備的な実験で、これら3画分はいずれも炎症性物質の産生を抑える働きを示しましたが、その中でもNATP-60が最も強い抗炎症活性を示したため、この画分がさらに精製の対象に選ばれました。イオン交換クロマトグラフィーという手法でNATP-60をさらに精製し、最終的に得られた活性画分が「NATP-60a」と名付けられています。
NATP-60aの構造と、大腸炎マウスでの変化
NATP-60aは分子量約8.4kDaの多糖体で、ラムノース、アラビノース、ガラクトース、グルコース、キシロース、マンノースという6種類の単糖から構成されることが分かりました。核磁気共鳴(NMR)分析やメチル化分析など複数の手法を組み合わせた結果、10種類の異なる糖の結合様式が特定され、主鎖の構造モデルが提示されています。また、電子顕微鏡や原子間力顕微鏡による観察では、多孔質でゆるく組織化された薄片状の形態を持ち、規則的な結晶構造ではなく主に非晶質(不規則な構造)であることも確認されました。
次に、デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)を4週齢のオスのマウスに14日間飲水投与して大腸炎を誘発する動物実験が行われました。マウスは対照群、大腸炎モデル群、NATP-60a投与群(400mg/kg体重)、既存薬である5-アミノサリチル酸を投与した陽性対照群の4グループ(各群8匹)に分けられています。その結果、DSSの投与によって体重減少や死亡率の上昇、大腸の短縮、炎症性サイトカイン(TNF-α、IL-1β、IL-6など)の増加が見られましたが、NATP-60aを投与したグループではこれらの変化が抑えられたと報告されています。
さらに、便中の短鎖脂肪酸(酢酸、プロピオン酸、酪酸など、腸内細菌が食物繊維や多糖体を発酵させて作る物質)を分析したところ、大腸炎モデル群で減少していた短鎖脂肪酸が、NATP-60a投与によって増加する傾向が確認されました。腸内細菌叢の16S rRNA遺伝子解析では、DSSによって低下していた細菌の多様性がNATP-60a投与で回復し、特にMuribaculumなど特定の有用菌の存在量が増えたことも示されています。加えて、便中代謝物を網羅的に調べる代謝物解析(メタボロミクス)の結果からは、NATP-60aがトリプトファン代謝やチロシン代謝といったアミノ酸代謝の乱れを補正する方向に働いていた可能性が示唆されました。
この研究の位置づけと読むうえでの注意
この研究は、南川古茶の葉から得られる多糖体の抽出条件と構造を明らかにし、DSSによる大腸炎モデルマウスにおいて腸内細菌叢や代謝の変化と関連づけて検討した基礎研究です。研究チームは、NATP-60aが腸内細菌叢の調整と代謝の再構築を通じて大腸炎の症状を改善する可能性があり、大腸炎に対するプレバイオティクス(腸内の有用菌を助ける食品成分)としての潜在的な利用価値があると位置づけています。
ただし、これはあくまでマウスを用いた動物実験の結果であり、ヒトでの効果や安全性を直接示すものではありません。今回の記事で紹介した内容は一つの研究であり、結論が確定したわけではない点にご留意ください。
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Deyong Zeng, Jianlong Wang, Junli Liu, et al. Ultrasound-assisted extraction of novel ancient tea polysaccharide NATP-60a: Process optimization, structural characterization, and mechanism of alleviating DSS-induced colitis in mice. ウルトラソニックス・ソノケミストリー (2026). DOI: 10.1016/j.ultsonch.2026.108005. 原著ライセンス: cc-by.