だいこんを水にさらす、なすを塩もみする——下ごしらえの定番として誰もがやったことのある作業です。でも、この一手間で食品の水分が大きく動くかというと、そうでもなさそうです。だいこん 根 皮つき 生の水分は94.6g、ゆでても94.4gとほぼ変わりません。エネルギーも15kcalのまま同じです。なす 果実 生は水分93.2g・18kcalで、油いためにするとなす 果実 油いためは85.8g・73kcalへと変化します。エネルギーが増えるのは油を吸うためで、水分の減り自体は数g程度にとどまります。目に見える下ごしらえの効果は、実は数値の上では小さな動きなのです。
ではどこに「本当に水分が動く」下ごしらえがあるのでしょうか。答えは乾燥という工程にありました。ぜんまい 生ぜんまい 若芽 生は水分90.9g・27kcalとみずみずしい野菜ですが、これを干したぜんまい 干しぜんまい 干し若芽 乾になると水分はわずか8.5gまで下がり、エネルギーは277kcalへと跳ね上がります。同じ「ぜんまい」という植物が、乾燥という工程を経ただけでこれほど別の顔を見せるのです。生のぜんまいは木灰や重曹を加えた熱湯でゆでてあくを抜き、それから乾燥させて作られるとされています。
水分が抜けた分、他の成分は100gあたりで見かけ上濃くなります。たとえば鉄は、生ぜんまいの0.6mgに対して干しぜんまいでは7.7mgと、成人男性(30〜49歳)の1日の推奨量7.5mgを上回る数字になります。とはいえ後述するとおり一食量は7g程度なので、通常の食べ方で摂りすぎを心配する必要はありません。同じ向きの変化はほかの成分にも並んでいて、亜鉛は0.5mgから4.6mgへ、カリウムは340mgから2200mgへ、パントテン酸は0.64mgから3.1mgへ、銅は0.15mgから1.2mgへと、それぞれ数値が伸びます。ただしどれも「乾燥で増えた」のではなく、水分が抜けた分だけ同じ重さの中の密度が上がったと捉えるのが正確です。
ただし、話はここで終わりません。乾燥はすべてを濃縮するわけではないのです。葉酸は生ぜんまいで210µg、干しぜんまいで99µgとむしろ減っています。葉酸の推奨量(成人30〜49歳)は男性240µg・女性240µg。α-カロテンも生の42µgから干しの29µgへと下がります。乾燥・あく抜きの過程で失われる成分もあるということです。水分が抜けて増えるものと、加工の過程で減るもの——乾物の数字は一方向の物語ではありませんでした。
この干しぜんまいを毎日の食卓に取り入れるなら、煮物1人分の目安量は約7gです。100gあたりの数値がどれだけ大きくても、実際に口にするのはこの程度の量だと考えると、乾物の栄養は「少量をもどして使う」という調理そのものに組み込まれていることが分かります。もどす、つまり乾燥で抜いた水分を再び吸わせる工程こそが、乾物の下ごしらえの核心です。浸水や塩もみが「表面の一時的な水分調整」だとすれば、乾物の「もどし」は「乾燥で作り変えられた成分バランスを、もう一度水で橋渡しする」作業だと言えるでしょう。
だいこんやなすの下ごしらえで動く数字はわずかでも、乾物のもどし作業ではこれだけ大きく数字が動きます。次にひじきや切り干し大根をもどすとき、その水の中で何が起きているのか、少し想像してみたくなる下ごしらえです。
※本記事は日本食品標準成分表(八訂)のデータ等をもとに作成しました。
栄養素のはたらき・摂取基準の記述は、次の公的資料に基づきます:厚生労働省 食事摂取基準