著者の所属・活動拠点の国は、韓国、スリランカです。

掲載誌:Antioxidants

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

捨てられがちな「煮たカツオの皮」に目を向けた研究

魚介類の加工では、骨や頭、内臓、うろこ、皮などの副産物が大量に出ます。論文によると、これらは原料重量の60〜70%に達します。ツナ缶などのマグロ類の加工では、加熱処理の過程で煮た皮が多く生じますが、商業的な使い道は限られています。

研究チームが注目したのは、缶詰や加工品の原料として世界的に重要なカツオ(スキップジャック)の、煮熟後の皮です。魚の皮にはコラーゲンなどのたんぱく質が豊富に含まれます。これを酵素で細かく分解すると、体内で生じる「活性酸素」による害を抑える働き、すなわち抗酸化作用をもつ成分が得られる可能性があります。著者らは、この皮を酵素で分解した素材に抗酸化作用があるかどうか、そしてどのような仕組みで働くのかを、試験管内の化学試験、培養細胞、ゼブラフィッシュの胚を用いて調べました。

皮を酵素で分解し、三つの段階で試す

研究チームは、韓国の水産加工会社から入手したカツオの煮熟皮を洗浄・脱脂し、乾燥させて粉末にしました。この粉末を、麹菌の一種(Aspergillus oryzae)に由来するたんぱく質分解酵素の混合物「フレーバーザイム」で、pH7.0・50℃の条件のもと24時間かけて分解しました。こうして得たものを「加水分解物」と呼び、論文ではBTSFHと名付けています。加水分解物とは、たんぱく質を酵素で切り、より小さなペプチド(アミノ酸が短くつながったもの)やアミノ酸にしたものです。

分析の結果、BTSFHの成分は約86%がたんぱく質で、脂質は1%未満でした。アミノ酸組成ではグルタミン酸とグリシンが特に多く、必須アミノ酸は全体の約42%を占めていました。

抗酸化作用は三つの段階で調べられました。まず試験管内で、色素を使った人工的なラジカル(ABTSラジカル)と過酸化水素を、BTSFHがどの程度消去できるかを測りました。次に、実験で広く使われる培養細胞(Vero細胞)に「AAPH」という化合物を加えて酸化ストレスを与え、BTSFHを前もって与えておいた場合にどのような違いが出るかを調べました。AAPHは体温程度の温度でラジカルを発生させ、脂質の酸化による細胞の傷害を模擬できる物質です。最後に、生きた生物で確かめるため、ゼブラフィッシュの胚にも同様にAAPHで酸化ストレスを与えて調べました。

細胞でも魚の胚でも酸化ストレスの害が軽減

試験管内の試験では、BTSFHは濃度が高いほど強い消去作用を示しました。働きを半分に抑えるのに必要な濃度(IC50)は、ABTSラジカルで7.52mg/mL、過酸化水素で2.91mg/mLでした。研究チームは、特に過酸化水素を消去する能力が目立つと述べています。

培養細胞では、400µg/mLのBTSFHは細胞に毒性を示しました。そのため、以降の実験は200µg/mL以下の濃度で行われました。AAPHだけを加えると、細胞の生存率が下がり、細胞内の活性酸素が増えました。これに対し、BTSFHを与えておくと、生存率が改善し、活性酸素の発生も抑えられました。さらに、細胞がもともと備えている抗酸化酵素であるSOD(スーパーオキシドジスムターゼ)とカタラーゼの量が、BTSFHの濃度に応じて増えていました。核を染めて観察すると、AAPHを加えた細胞では、細胞死(アポトーシス)に特徴的な核の凝縮や断片化が見られました。BTSFHを25〜200µg/mLで与えると、こうした変化は濃度に応じて減少しました。

ゼブラフィッシュの胚では、50µg/mLを超える濃度のBTSFHで生存率の低下や心拍数の増加がみられました。そこで、50µg/mL以下の濃度で保護作用が調べられました。AAPHを与えた胚では、活性酸素、細胞死、脂質の酸化がいずれも増えました。BTSFHを前もって与えると、これらはいずれも抑えられました。ただし、比較のために使われた薬剤デキサメタゾンは、活性酸素と細胞死の抑制ではBTSFHより強い効果を示しました。一方、脂質の酸化の抑制では、BTSFHはデキサメタゾンと同程度かやや上回る結果だったと報告されています。

加工副産物を有用な素材に変える手がかり

この研究は、これまで価値の低い副産物とされてきたカツオの煮熟皮から、酵素処理によって抗酸化作用をもつ素材を得られることを、化学試験、培養細胞、ゼブラフィッシュ胚という複数の段階で示しました。細胞自身の抗酸化酵素を増やすという、仕組みの一端もうかがえる結果です。

ただし、著者らはこの成果を、医薬品や健康補助食品への利用に向けた「予備的な証拠」と位置づけています。人での効果を確かめたものではありません。一方で、水産加工の副産物を機能性素材の原料として生かす道を示した点で、廃棄物の削減と資源の有効利用につながる研究だといえます。

原著論文の著者・所属:Habaragoda Dewage Tharushi Udayangani Wijerathne(Department of Seafood Science and Technology, Institute of Marine Industry, Gyeongsang National University, 2–9, Tongyeonghaean-ro, Tongyeong-si 53064, Republic of Korea)、Dinusha Shiromala Dissanayake(Department of Marine Life Science, Jeju National University, Jeju 63243, Republic of Korea)、Kalu Kapuge Asanka Sanjeewa(Department of Biosystems Technology, Faculty of Technology, University of Sri Jayewardenepura, Pitipana, Homagama 10200, Sri Lanka)、Do-Young Jung(Department of Seafood Science and Technology, Institute of Marine Industry, Gyeongsang National University, 2–9, Tongyeonghaean-ro, Tongyeong-si 53064, Republic of Korea)、Cheol-Yeong Yoo(Department of Seafood Science and Technology, Institute of Marine Industry, Gyeongsang National University, 2–9, Tongyeonghaean-ro, Tongyeong-si 53064, Republic of Korea)、Hyo-Geun Lee(National Marine Biodiversity Institute of Korea, 75, Jangsan-ro 101-gil, Janghang-eup, Seocheon 33362, Republic of Korea)、Soo-Jin Heo(Jeju Bio Research Center, Korea Institute of Ocean Science and Technology (KIOST), Jeju 63349, Republic of Korea)、Hyun-Soo Kim(Department of Seafood Science and Technology, Institute of Marine Industry, Gyeongsang National University, 2–9, Tongyeonghaean-ro, Tongyeong-si 53064, Republic of Korea)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Habaragoda Dewage Tharushi Udayangani Wijerathne, Dinusha Shiromala Dissanayake, Kalu Kapuge Asanka Sanjeewa, et al. Repurposing Marine Waste into Functional Antioxidants: Boiled Tuna Skin Enzyme Hydrolysate Mitigates AAPH-Induced Oxidative Stress and Apoptotic DNA Damage Across In Vitro and In Vivo Models. Antioxidants 2026-10-25. DOI: 10.3390/antiox15111384. 原著ライセンス:CC BY.