著者の所属・活動拠点の国は、ドイツです。
掲載誌:Molecules
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
アマチャ(Hydrangea macrophylla serrata)は日本と朝鮮半島に自生するアジサイの仲間です。その葉は、甘い茶「甘茶」の原料として古くから使われてきました。甘茶の甘みのもとはフィロズルチンという成分で、砂糖のおよそ400〜800倍の甘さがあるとされています。葉にはほかにも、ポリフェノールの一種であるクロロゲン酸、ヒドランゲノール、ヒドランゲア酸など、構造の異なる成分が含まれています。
果物や野菜を切ってしばらく置くと茶色く変色します。この「酵素的褐変」の主な原因は、ポリフェノールオキシダーゼ(PPO)という酵素です。クロロゲン酸がPPOを妨げることは以前から知られていました。一方、ヒドランゲノール、ヒドランゲア酸、フィロズルチンがどのような仕組みで褐変を抑えるのかは、体系的には調べられていませんでした。
そこで研究チームは、4成分の抗酸化作用とPPOを妨げる作用を並べて比較し、その仕組みを詳しく調べました。あわせて、単独の成分と葉全体の抽出物を比べ、葉の働きが特定の1成分によるものか、複数の成分が組み合わさった結果なのかを明らかにしようとしました。
何を調べたか
著者らはアマチャの葉から抽出物をつくり、そこから主要な4成分を分離して、それぞれが何であるかを確認しました。
抗酸化作用は3種類の試験で評価しました。試料に含まれるポリフェノールの総量を測る試験、色素のついたラジカル(反応性の高い分子)を消去する力を測る試験、酸素ラジカルへの対抗力を測る試験です。
褐変を抑える作用は、リンゴから取り出したPPOを使い、酵素の働きが各成分でどれだけ弱まるかを測って調べました。さらに仕組みに迫るため、三つの方法を用いました。一つ目は反応速度の解析で、成分が酵素の基質(本来反応する物質)と同じ場所を奪い合うのか、別の形で働くのかを推定しました。二つ目は、PPOの中心にある銅を後から補うと酵素の働きが戻るかどうかの確認です。三つ目は、成分が酵素にどう結合しうるかをコンピューター上で予測する分子ドッキングです。
主な結果
抗酸化作用は、3種類のどの試験でも、葉の抽出物が単独の4成分すべてを有意に上回りました。ラジカル消去力と酸素ラジカルへの対抗力では、抽出物の値は4成分のうち最も強いクロロゲン酸のおよそ2倍でした。4成分の中では、クロロゲン酸、フィロズルチン、ヒドランゲア酸、ヒドランゲノールの順に強い傾向がみられました。
PPOを妨げる作用は、どの成分でも濃度が高いほど強まりました。調べた最高濃度(1ミリリットルあたり2ミリグラム)での阻害率は次のとおりです。クロロゲン酸が91%、フィロズルチンが90%、ヒドランゲア酸が70%、ヒドランゲノールが68%でした。抽出物は同じ濃度で83%でした。酵素の働きを半分に抑えるのに必要な濃度で比べると、最も低い濃度で済んだのはフィロズルチンでした。
反応速度の解析から、成分ごとに働き方が異なると推定されました。ヒドランゲノールとヒドランゲア酸は、主に基質と酵素の作用部位を奪い合う「競合型」でした。クロロゲン酸とフィロズルチンは、酵素単独にも、基質と結びついた酵素にも作用する「混合型」でした。
銅を後から加える実験では、ヒドランゲノール、ヒドランゲア酸、フィロズルチンで酵素の働きがかなり回復しました(およそ5〜8割)。クロロゲン酸(14%)と抽出物(6〜7%)では、ほとんど回復しませんでした。著者らはこの結果を、前の3成分が酵素の銅と可逆的に関わって働いている可能性を示すものと解釈しています。ただし、この結果だけでは複数の仕組みを区別できず、あくまで可能性のある解釈だとも述べています。
分子ドッキングでは、4成分とも酵素に結合しうると予測されました。中でもクロロゲン酸が最も安定に結合するという結果でした。ただしこの計算は、酵素中心の銅を狙わずに行ったものです。著者らは、示された結合の仕方は今後の検証を要する仮説だとしています。
研究が示すこと
この研究では、抗酸化作用は葉の抽出物が最も強く、褐変を起こす酵素への作用は一部の単独成分のほうが抽出物より強いという結果が得られました。著者らはここから、抗酸化作用と褐変を抑える作用は同じ成分が担っているわけではなく、抽出物全体としての働きは成分の組み合わせにも左右されると考えています。
著者らは限界も挙げています。原料の産地や栽培条件などの情報が得られていないこと、実際の食品での効果はまだ確かめられていないことです。そのうえで、アマチャの葉は褐変を抑える天然素材の候補になりうるとまとめています。
原著論文の著者・所属:Sijie Mei(Institute of Nutritional Sciences, Friedrich Schiller University Jena, 07743 Jena, Germany)、Thomas Heymann(Institute of Chemistry—Food Chemistry, Martin-Luther-University Halle-Wittenberg, 06120 Halle (Saale), Germany)、Volker Böhm(Institute of Nutritional Sciences, Friedrich Schiller University Jena, 07743 Jena, Germany)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Sijie Mei, Thomas Heymann, Volker Böhm. Mechanistic Insights into Polyphenol Oxidase Inhibition by Four Bioactive Constituents from Hydrangea macrophylla Serrata: Antioxidant Activity of Single Compounds Compared to the Whole-Leaf Extract. Molecules 2026-09-24. DOI: 10.3390/molecules31193411. 原著ライセンス:CC BY.