著者の所属・活動拠点の国は、中国です。
掲載誌:Foods
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
捨てられがちなショウガの皮に着目した研究
血液中の中性脂肪(トリグリセリド)やコレステロールが高くなる脂質異常は、動脈硬化や心血管疾患、脂肪肝などと関わる状態として知られています。著者らは、薬による治療とは別に、食事を通じて脂質代謝を整える方法への関心が高まっていることを研究の背景に挙げています。
食物繊維は脂質代謝に関わる成分とされ、なかでも水に溶ける「水溶性食物繊維」は、水を抱え込む力や粘り、腸内での発酵されやすさから注目されています。ただし植物由来の食物繊維は多くが水に溶けない形で存在し、使い道が限られがちです。
研究チームが着目したのは、ショウガの加工で大量に出る皮の残さです。現状では多くが廃棄されるか、家畜飼料や肥料として低い価値で使われています。この残さは食物繊維を豊富に含む一方、水溶性のものは少ないとされます。そこで著者らは、「蒸気爆砕」という前処理によって、ショウガの皮の残さから得られる水溶性食物繊維の量や構造、性質、脂質を減らす働きが改善するかを調べました。
蒸気爆砕で何を調べたか
蒸気爆砕とは、原料を高温・高圧の水蒸気にさらしたあと一気に圧力を抜く処理です。急激な減圧で蒸気が膨張し、植物の硬い繊維構造を内側から壊すことで、水に溶けない食物繊維の一部を水溶性に変えることが期待されます。化学薬品を使わない物理的な処理である点も特徴とされています。
研究チームはまず、装置内に入れる原料の量の割合、圧力、処理時間を変えて、水溶性食物繊維がどれだけ取り出せるかを比べ、最も効率のよい条件を探しました。そのうえで、処理しない残さから得た水溶性食物繊維と、蒸気爆砕後の残さから得たものについて、成分、糖の組成、分子の大きさ、熱に対する安定性、表面の微細な構造、水や油を保持する力などを比較しました。
さらに脂質を減らす働きを、二つの実験系で調べました。一つはヒトの肝臓由来の培養細胞(HepG2細胞)に脂肪酸を与えて脂質をため込ませた系、もう一つは卵黄の粉末を与えて高脂肪状態にしたゼブラフィッシュの稚魚です。ゼブラフィッシュはヒトと共通する脂質代謝の仕組みを多く持ち、稚魚の体が透明で脂質のたまり具合を直接観察しやすいことから、脂質代謝研究によく使われるモデルだと著者らは説明しています。
取り出せる量が増え、性質や働きにも違いが
条件を検討した結果、原料の割合を2:5、圧力を1.5メガパスカル、処理時間を300秒とした条件が最適とされました。この条件での水溶性食物繊維の取り出し率は8.20%で、処理をしない場合に比べて210.6%高かったと報告されています。
構造や性質にも変化が見られました。蒸気爆砕後の水溶性食物繊維は、ガラクトース、キシロース、アラビノースといった糖の割合が増え、分子量は小さくなっていました。電子顕微鏡で見ると、処理前は表面が緻密でなめらかだったのに対し、処理後は粗くふわふわした、ハチの巣のような多孔質の構造になっていました。水を保持する力は38.89%、水を吸って膨らむ力は30.77%高まり、加熱後に残る割合も23.08%から31.50%へと増えて熱に対してより安定でした。一方、油を保持する力は1グラムあたり14.98グラムから13.74グラムへとやや低下しました。
培養細胞の実験では、処理の有無にかかわらず水溶性食物繊維が脂肪酸による中性脂肪とコレステロールの増加を抑え、濃度が高いほど効果が強い傾向がありました。最も高い濃度(1ミリリットルあたり400マイクログラム)では、中性脂肪の増加の抑制率が処理なしで47.46%、蒸気爆砕後で61.02%、コレステロールではそれぞれ76.0%と93.3%でした。
ゼブラフィッシュでも、高脂肪の餌で増えた中性脂肪とコレステロールが水溶性食物繊維によって抑えられました。最も効果が大きかった濃度(1ミリリットルあたり200マイクログラム)では、中性脂肪が処理なしで22.30%、蒸気爆砕後で30.58%、コレステロールがそれぞれ13.72%と24.89%低下しました。脂質を赤く染める方法で観察すると、尾の血管にたまった脂質は48.30%と65.59%、肝臓周辺の脂質の蓄積は32.12%と33.86%減っていました。著者らは、これらの結果から蒸気爆砕によって脂質を減らす働きが高まったとしています。
研究が示すこと
この研究は、廃棄されがちなショウガの皮の残さから、蒸気爆砕という物理的な処理によって水溶性食物繊維をより多く取り出せること、そして得られた繊維が細胞やゼブラフィッシュで脂質の蓄積を抑える働きを、処理しない場合より強く示したことを報告しています。
一方で、こうした働きがどのような分子の仕組みで生じるのかはまだ明らかになっていないと、著者らは述べています。今回の結果は培養細胞と魚の稚魚での実験に基づくものであり、食品加工の副産物を価値ある素材として生かす可能性を、基礎的な段階で示した研究といえます。
原著論文の著者・所属:Ming Zhang(Jinan Fruit Research Institute, All China Federation of Supply and Marketing Co-Operatives, Jinan 250014, China; School of Food and Health, Beijing Technology and Business University, Beijing 100048, China)、Fuxia Hu(Jinan Fruit Research Institute, All China Federation of Supply and Marketing Co-Operatives, Jinan 250014, China)、Yuyu Zhang(School of Food and Health, Beijing Technology and Business University, Beijing 100048, China)、Chao Ma(Jinan Fruit Research Institute, All China Federation of Supply and Marketing Co-Operatives, Jinan 250014, China)、Mengxue Sun(Jinan Fruit Research Institute, All China Federation of Supply and Marketing Co-Operatives, Jinan 250014, China)、Maoyu Wu(Jinan Fruit Research Institute, All China Federation of Supply and Marketing Co-Operatives, Jinan 250014, China)、Li Liang(School of Food and Health, Beijing Technology and Business University, Beijing 100048, China)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Ming Zhang, Fuxia Hu, Yuyu Zhang, et al. Physicochemical Properties and Hypolipidemic Activity of Soluble Dietary Fiber Extracted from Ginger Peel Residue. Foods 2026-07-30. DOI: 10.3390/foods15152685. 原著ライセンス:CC BY.