著者の所属・活動拠点の国は、中国です。
掲載誌:Foods
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的:温度管理だけでは止まらない劣化
生の豚肉は水分と栄養が豊富で、pHも中性に近いため、細菌が増えやすく傷みやすい食品です。流通現場では、凍る直前のごく低い温度で保つ「超冷却(スーパーチリング)」保存が広く使われています。しかし、低温に強い細菌はこの条件でも活動を続け、においの発生や酸化による品質低下を招きます。そのため、温度管理を補う方法として、包装自体が食品の保存に働きかける「アクティブ包装」が注目されています。
研究チームが着目したのは、肉のトレーに敷く吸収パッドです。このパッドは、ポリビニルアルコール(PVA)と大豆分離タンパク質(SPI)でできた基材に、ナノ粒子を混ぜ込んだものです。ナノ粒子には、オレガノ精油と抗菌ペプチドのナイシンが、大豆由来の多糖類と組み合わせて封入されています。精油は水になじみにくく、揮発や酸化もしやすい性質があります。封入によって精油を保護し、肉と包装の接する面でゆっくり放出させるねらいがあります。
このパッドについては、先行研究で構造や放出の仕方、4℃での保存効果が示されていました。ただし、超冷却保存のもとで細菌の増え方や種類構成がどう変わるのかは分かっていませんでした。また、その変化が腐敗、酸化、保水性、見た目やにおいの低下とどう結びつくのかも明らかではありませんでした。本研究はこの点を調べることを目的としています。
何を調べたか
研究チームは、豚ロース肉を3つの条件に分け、ラップで包んで−1℃で24日間保存しました。比較したのは、パッドなし(対照)、ナノ粒子を含まないPVA/SPIパッド、ナノ粒子入りパッドの3条件です。4日ごとに試料を採り、品質を測定しました。
測定項目は多岐にわたります。まず、培養して数えられる細菌の数を調べました。あわせて、腐敗に伴って生じるアンモニアなどを測る揮発性塩基窒素(TVB-N)、脂肪の酸化の程度を示すTBARS、タンパク質の酸化の目印となるカルボニル量を測りました。さらに、肉の色、保存中に肉から出る汁の量(ドリップロス)を調べ、訓練を受けたパネルによる色やにおいの評価も行いました。
細菌の種類構成は、対照とナノ粒子入りパッドの試料について調べました。用いたのは、細菌が共通して持つ遺伝子(16S rRNA遺伝子)の配列を読み取る方法です。著者らは、この方法で分かるのは各細菌が占める「割合」であり、細菌の絶対数ではないことを注意点として挙げています。
主な結果
腐敗の指標であるTVB-Nは、どの条件でも保存とともに増えましたが、ナノ粒子入りパッドでは対照やナノ粒子なしパッドより低く推移しました。対照とナノ粒子なしパッドは、16日目に中国の基準で定められた許容限度を超えました。一方、ナノ粒子入りパッドは20日目でも100gあたり14.29mgにとどまり、限度を超えたのは24日目でした。細菌数も同様の傾向でした。対照とナノ粒子なしパッドは16日目に1gあたり10の6乗個を超えましたが、ナノ粒子入りパッドが10の6.48乗個に達したのは24日目でした。
酸化についても差が報告されています。24日目の脂肪酸化の指標(TBARS)は、1kgあたり対照が0.46mg、ナノ粒子なしパッドが0.40mg、ナノ粒子入りパッドが0.29mgでした。タンパク質の酸化を示すカルボニル量も、ナノ粒子入りパッドで最も低い値でした。色の測定では、ナノ粒子入りパッドの肉が、保存終了時にも明るさと赤みを比較的よく保っていました。汁の量はナノ粒子なしパッドで最も多く、著者らはパッドが肉の表面から液体を吸い取ったためと考えています。ナノ粒子入りパッドの汁の量はそれより少ない値でした。
細菌の種類構成を見ると、保存開始時はさまざまな細菌が混在していました。保存が進むにつれて多様性の指標が下がり、少数の細菌が優勢になりました。対照では、腐敗に関わる細菌として知られるシュードモナス属が、8日目に約58%、16日目に約75%を占めました。24日目のシュードモナス属の割合は、対照の約51%に対し、ナノ粒子入りパッドでは約39%と低くなっていました。
研究が示す意味
この研究は、−1℃という超冷却条件でも細菌の増殖と品質の劣化は進むことを報告しています。そのうえで、ナノ粒子入りパッドを使うと、その進行が遅れる傾向がみられました。ナノ粒子を含まないパッドでは効果が小さかったことから、著者らは、汁を吸い取るだけでは不十分だと解釈しています。抗菌成分を持続的に届けることが、上乗せの効果に寄与したという見方です。
一方で著者らは、精油やナイシンをそのまま加えた比較条件は設けておらず、抗菌や抗酸化の仕組みはあくまで推定の段階だとしています。細菌の割合の違いも、特定の細菌が死滅したことを直接示すものではありません。こうした限界はあるものの、本研究は、超冷却保存中の豚肉で吸収パッドによる包装の工夫を行うと、細菌構成の変化と品質劣化の遅れが同時にみられることを示しています。
原著論文の著者・所属:Haoyue Wu(Engineering Research Center of Bio-Process, Ministry of Education, Hefei University of Technology, Hefei 230601, China; Key Laboratory for Animal Food Green Manufacturing and Resource Mining of Anhui Province, Hefei University of Technology, Hefei 230601, China; School of Food and Biological Engineering, Hefei University of Technology, Hefei 230601, China)、Yi Zhou(Engineering Research Center of Bio-Process, Ministry of Education, Hefei University of Technology, Hefei 230601, China; Key Laboratory for Animal Food Green Manufacturing and Resource Mining of Anhui Province, Hefei University of Technology, Hefei 230601, China; School of Food and Biological Engineering, Hefei University of Technology, Hefei 230601, China)、Huaxing Xu(Engineering Research Center of Bio-Process, Ministry of Education, Hefei University of Technology, Hefei 230601, China; Key Laboratory for Animal Food Green Manufacturing and Resource Mining of Anhui Province, Hefei University of Technology, Hefei 230601, China; School of Food and Biological Engineering, Hefei University of Technology, Hefei 230601, China)、Zhaoming Wang(Engineering Research Center of Bio-Process, Ministry of Education, Hefei University of Technology, Hefei 230601, China; Key Laboratory for Animal Food Green Manufacturing and Resource Mining of Anhui Province, Hefei University of Technology, Hefei 230601, China; School of Food and Biological Engineering, Hefei University of Technology, Hefei 230601, China)、Xingguang Chen(Engineering Research Center of Bio-Process, Ministry of Education, Hefei University of Technology, Hefei 230601, China; Key Laboratory for Animal Food Green Manufacturing and Resource Mining of Anhui Province, Hefei University of Technology, Hefei 230601, China; School of Food and Biological Engineering, Hefei University of Technology, Hefei 230601, China)、Hui Zhou(Engineering Research Center of Bio-Process, Ministry of Education, Hefei University of Technology, Hefei 230601, China; Key Laboratory for Animal Food Green Manufacturing and Resource Mining of Anhui Province, Hefei University of Technology, Hefei 230601, China; School of Food and Biological Engineering, Hefei University of Technology, Hefei 230601, China)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Haoyue Wu, Yi Zhou, Huaxing Xu, et al. Effects of a Nanoparticle-Loaded PVA/SPI Pad on Microbial Proliferation and Quality Characteristics of Superchilled Pork. Foods 2026-08-14. DOI: 10.3390/foods15162830. 原著ライセンス:CC BY.