著者の所属・活動拠点の国は、イラクです。

掲載誌:IRAQI JOURNAL OF AGRICULTURAL SCIENCES

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究のねらい

鶏肉は栄養面で重要な食品ですが、脂肪に酸化しやすい多価不飽和脂肪酸が比較的多く、天然の抗酸化成分は少ないとされています。そのため保存中に脂肪が酸化して不快なにおいや風味が生じやすく、微生物も増えやすい食品です。

著者らは、乳酸菌の一種であるラクトコッカス・ラクティスが作る抗菌性のペプチド「ナイシン」に着目しました。ナイシンは34個のアミノ酸からなる物質で、肉や缶詰の保存に世界的に使われています。研究チームは、異なる濃度のナイシンを鶏ひき肉に加えたとき、冷凍保存中の品質と保存期間にどのような影響が出るかを調べることを目的としました。

どのように調べたか

研究はバグダッド大学の食肉科学の実験室で行われました。ブロイラー(肉用鶏)の肉から皮と骨を除き、機械でひき肉にしました。これを5つのグループに分け、何も加えない対照群、ナイシンを肉1キログラムあたり150ミリグラム、155ミリグラム、160ミリグラム加えた3群、そして比較のために合成抗酸化剤BHAを0.01%加えた群を用意しました。なお、使われたナイシン製品は純度47%の食品用粉末です。

それぞれのひき肉はポリエチレン袋に入れ、マイナス18℃で冷凍し、0日目、15日目、30日目に測定しました。調べたのは、酸性度を示すpH、肉が水分を抱え込む力である保水性、加熱したときや解凍したときに失われる重量の割合といった物理的な性質です。

あわせて、脂肪の酸化の進み具合を示す3つの指標も測りました。脂肪が酸化して生じる物質の量を示すTBA値、酸化の初期段階でできる過酸化物の量を示す過酸化物価、脂肪が分解されて生じる遊離脂肪酸の割合です。さらに、一般細菌数、低温でも増える低温細菌の数、大腸菌群の数を数えました。細菌数は、肉1グラムあたりの菌数を対数で表した値で示されています。

主な結果

論文によると、最も濃度の高い160ミリグラムのナイシン群では、0日目と15日目にpHが対照群より有意に高くなりました。15日目では5.67と5.50でした。ただし30日目には、どの群も対照群との間に有意な差は見られませんでした。保水性は、0日目に155ミリグラム群と160ミリグラム群でそれぞれ38.38%と38.90%となり、対照群の32.25%を上回りました。30日目にも160ミリグラム群は34.28%で、対照群の29.12%より高い値でした。加熱時の重量損失も、ナイシンの濃度が高い群で小さくなりました。30日目には160ミリグラム群が19.42%、BHA群が18.84%で、対照群は30.94%でした。解凍時の損失も、ナイシン群で対照群より小さい傾向が報告されています。

脂肪の酸化についても、ナイシンを加えた群、特に160ミリグラム群で指標が低く抑えられました。0日目のTBA値は、対照群が肉1キログラムあたり1.49ミリグラムだったのに対し、160ミリグラム群は0.85ミリグラムでした。30日目の過酸化物価は、対照群の1.97に対して160ミリグラム群は0.62でした。遊離脂肪酸は0日目にはどの群にも有意な差がありませんでしたが、15日目と30日目には160ミリグラム群が対照群より低くなりました。30日目は0.25%と0.61%です。著者らは、どの添加群も基準として参照した上限値を超えなかったと述べています。

細菌については、0日目の一般細菌数が対照群の6.48に対し、155ミリグラム群で4.06、160ミリグラム群で3.64と低くなりました。30日目にはこの2群が約1.2で、対照群の2.11やBHA群の1.39を下回りました。低温細菌は、0日目にはBHA群が最も低い値でした。しかし30日目には、ナイシンを加えた3群がいずれも0.1未満となり、対照群の1.08やBHA群の0.78より低くなりました。大腸菌群も、30日目にはナイシン群が0.01〜0.06で、対照群の1.02とBHA群の0.71を下回りました。一方、15日目にはどの群の間にも有意な差は見られませんでした。

著者らは、pHや保水性が改善した理由として、ナイシンの化学的な性質を挙げています。また、使用した製品に含まれる塩分が水分の保持を助けた可能性も指摘しています。細菌が減った理由については、ナイシンが細菌の細胞膜などに作用する抗菌作用によるものと考察しています。

研究が示すこと

著者らは、ナイシンを鶏ひき肉に加えることで、品質に許容できない変化を起こさずに保存性を高められると結論づけています。さらに、合成の保存料に代わる天然由来の保存料として使える可能性を示しています。この研究は、マイナス18℃で30日間保存した条件で、物理的性質、脂肪の酸化、細菌数を比べた実験です。今回の条件では、ナイシンの濃度が比較的高い群ほど多くの指標で良好な結果が得られたことを報告しています。

原著論文の著者・所属:Bushra Zangana(Department of Animal Production / College of Agricultural Engineering Sciences / University of Baghdad)、Rashad Al-Mahdawi(Department of Animal Production / College of Agricultural Engineering Sciences / University of Baghdad)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Bushra Zangana, Rashad Al-Mahdawi. ROLE OF NISIN IN IMPROVING THE CHARACTERISTICS AND PROLONGING THE SHELF LIFE OF FROZEN MINCED CHICKEN MEAT. IRAQI JOURNAL OF AGRICULTURAL SCIENCES 2026-09-30. DOI: 10.36103/815n1392. 原著ライセンス:CC BY.