著者の所属・活動拠点の国は、アメリカ、インドです。

掲載誌:Frontiers in Food Science and Technology

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

傷みやすい「肉入りフムス」をどう保存するか

フムスは、ゆでたひよこ豆にごまペースト(タヒニ)、レモン汁、オリーブオイル、にんにくなどを合わせた中東・地中海地域の伝統料理です。著者らによると、ひよこ豆のたんぱく質は一部の必須アミノ酸が不足しているため、ラム肉を加えて栄養面を補う発想があります。一方でフムスは食中毒菌リステリア・モノサイトゲネスによる汚染事例が報告されており、肉を加えると冷蔵中の菌の増殖や色・風味の劣化のリスクがさらに高まるとされています。

こうした食品には安息香酸ナトリウムなどの合成保存料が使われてきました。しかし、添加物の少ない「クリーンラベル」の食品を好む消費者が増えています。そこで研究チームは、加熱せずに微生物を抑える新しい技術「コールドプラズマ」が肉入りフムスの保存に使えるかを調べ、従来の抗菌手段と比較しました。

コールドプラズマとは、気体の一部を電気的に分解(電離)させた状態で、温度は室温に近く、論文では通常50℃未満とされています。この状態では、オゾンやヒドロキシルラジカルなどの反応性の高い酸素・窒素の化学種や紫外線が生じ、これが微生物に作用すると説明されています。

4種類のフムスを冷蔵保存して比べる

研究チームは予備試験を重ねたうえで、ひよこ豆ペーストの半分を蒸し調理したラムひき肉に置き換えた配合の肉入りフムスを作りました。これを4つのグループに分けています。何も加えない対照、食品添加物として安全性が認められている酸味料「硫酸水素ナトリウム」を0.4%加えたもの、従来型保存料の安息香酸ナトリウムとソルビン酸カリウムを加えたもの、そして厚さ0.7cmの層にしたフムスに3分間コールドプラズマを照射したものです。

試料は密閉容器に入れて約4℃で冷蔵し、20日間にわたって酸性度(pH)、脂質の酸化の程度、機器で測った色(明るさ・赤み・黄色み)、一般的な細菌数を調べました。さらに別の試験として、リステリア菌を意図的に加えたフムスに各処理を施し、21日間まで7日ごとに菌数を数えて、菌がどれだけ生き残るかを比較しました。

プラズマ処理は直後からリステリア菌を減らした

最も注目される結果はリステリア菌に対する効果です。コールドプラズマ処理では、処理直後の時点でリステリア菌数がおよそ3桁、つまり約1000分の1に減りました。一方、硫酸水素ナトリウムや従来型保存料では処理直後の減少は見られず、7日目以降に有意な抗リステリア作用が現れました。著者らは、コールドプラズマの抗菌効果は硫酸水素ナトリウムと同程度で、冷蔵中のリステリア抑制ではより優れていたと報告しています。

一般的な細菌数については、20日目には処理したどのフムスも対照より有意に少なく、論文では対照が1gあたり約10の7.6乗個に達したのに対し、処理群は約10の5乗個前後にとどまりました。著者らは、処理群は許容される食品安全の範囲内だったとしています。

脂質の酸化(油の劣化を示す指標)は保存とともにすべての試料で進みましたが、対照で最も大きく、処理群は対照より低く抑えられました。著者らは、どの処理群も風味の面で許容とされる目安の範囲内だったと述べています。pHは硫酸水素ナトリウムを加えたものが一貫して最も低く、酸味料による酸性化が確認されました。

色については、著者らは全体として許容できる見た目が保たれたとまとめています。ただし細かく見ると、プラズマ処理したフムスは赤みが保存期間を通じて最も低く、保存後半には明るさも対照より低くなりました。著者らは、プラズマで生じる反応性の化学種が肉の色素や脂質を酸化させたことが一因ではないかと考察しています。

添加物に頼らない保存手段の候補として

この研究は、コールドプラズマが肉入りフムスの微生物面の安全性を高め、品質を許容範囲に保ちながら保存性を延ばせる可能性を示しました。著者らは、合成保存料に代わる、あるいはそれを補う保存手段となりうる基礎的な知見を得たと位置づけており、製品の厚さや照射時間などの条件を最適化すれば、さらに使いやすくなりうるとも述べています。特に、処理直後からリステリア菌を減らせた点は、添加物を加えずに傷みやすい食品を守る方法として注目できる結果です。

原著論文の著者・所属:Meena Goswami(Department of Animal and Food Sciences, Stillwater, OK, United States; Department of Livestock Products Technology, C.V.Sc.&A.H., DUVASU, Mathura, India)、Rishav Kumar(Auburn University; Department of Animal and Food Sciences)、Xin Mei Teng(Food and Agricultural Products Centre, Oklahoma State University)、Ravi Jadeja(Food and Agricultural Products Centre, Oklahoma State University)、Morgan Pfeiffer(Department of Animal and Food Sciences, Stillwater, OK, United States)、Gretchen Gayle Mafi(Department of Animal and Food Sciences, Stillwater, OK, United States)、Vikas Pathak(Department of Livestock Products Technology, C.V.Sc.&A.H., DUVASU, Mathura, India)、Li Maria Ma(Institute for Biosecurity & Microbial Forensics, Department of Entomology and Plant Pathology, Oklahoma State University)、Ranjith Ramanathan(Department of Animal and Food Sciences, Stillwater, OK, United States)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Meena Goswami, Rishav Kumar, Xin Mei Teng, et al. Smart preservation with cold plasma technology: enhancing safety and storage of meat-based hummus next-generation preservation of meat-based hummus using cold plasma. Frontiers in Food Science and Technology 2026-09-23. DOI: 10.3389/frfst.2026.1950610. 原著ライセンス:CC BY.