著者の所属・活動拠点の国は、ベナン、トーゴです。
掲載誌:International Journal of Nutrition and Food Sciences
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
ムクナ・プルリエンス(ハッショウマメの仲間で、英語ではベルベットビーンと呼ばれる豆)は、たんぱく質を多く含み、乾燥に強く、やせた土地でも育つことから、食料と栄養の確保に役立つ可能性がある作物とされています。一方で、食用としての利用は限られてきました。種子に「抗栄養因子」と呼ばれる成分が多く含まれるためです。抗栄養因子とは、たんぱく質の消化やミネラルの吸収を妨げたり、多く摂ると体に悪影響を及ぼしたりする可能性のある成分を指します。
なかでも問題とされるのがL-ドーパです。L-ドーパはたんぱく質を構成しないアミノ酸の一種で、ムクナ種子には多く含まれ、過剰に摂取すると生理的な悪影響を起こすおそれがあります。このほか、フィチン酸、タンニン、シュウ酸、トリプシン(たんぱく質を分解する消化酵素)の働きを妨げる物質、青酸を生じる化合物も含まれています。
西アフリカには、ササゲの粉を練った生地を蒸して作る「トゥバニ」という伝統食があり、朝食や屋台の食べ物として広く食べられています。研究チームは、このトゥバニの作り方をムクナに当てはめました。そして、一連の工程を順に進めるなかで、栄養成分やミネラル、抗栄養因子がどう変化するかを調べました。著者らによると、これまでの研究の多くは浸漬や加熱など個々の処理の効果を調べたもので、複数の工程を組み合わせた伝統的な加工の流れ全体を追った報告はほとんどありませんでした。
どのように調べたか
研究では、ベナン北部で入手したムクナの種子を使いました。まず粉砕して種皮を取り除き、種子の5倍量の水に48時間浸しました。浸漬中は6時間ごとに水を替えています。その後、80℃で24時間乾燥させて製粉し、水を加えて練った生地を120℃で60分間蒸してトゥバニに仕上げました。
試料は、生の種子、種皮を除いた種子、浸漬後、乾燥後、完成したトゥバニの5段階で採取しました。それぞれについて、たんぱく質や脂質などの一般成分、カルシウムや鉄などのミネラル、各種の抗栄養因子を測定しています。加工は日を変えて2回行い、各分析は3回ずつ実施しました。さらに、成分どうしの関係を相関分析と主成分分析(多数の測定項目をまとめて、試料の違いを少数の軸で見えやすくする統計手法)で調べました。
主な結果
たんぱく質は、乾物100グラムあたり28.3グラムだった生の種子から、種皮の除去と浸漬を経て21.7グラムまで減りました。完成したトゥバニでは25.0グラムで、高いたんぱく質含量が保たれていました。著者らは、浸漬中に水に溶ける窒素化合物が流れ出たことが減少の原因と考えています。脂質は工程を通じて約52%減りました。トゥバニの水分は73.9%と高くなりましたが、論文はこれを主に、生地づくりで意図的に水を加えたことによるものと説明しています。
ミネラルは、種皮の除去や浸漬によって多くの種類でいくらか減りました。それでもトゥバニには100グラムあたりカルシウム624.3ミリグラム、マグネシウム344.8ミリグラム、カリウム1503.9ミリグラム、鉄11.8ミリグラムが残っていました。マグネシウムは工程を通じて統計的にほぼ変化しませんでした。
抗栄養因子は大きく減りました。L-ドーパは100グラムあたり6680ミリグラムから94.7ミリグラムへと98.6%減少しました。この値は、加工したムクナ食品の目標として文献でよく示される100ミリグラム未満を下回っています。著者らは、L-ドーパが水に溶けやすいことから、浸漬が最も大きく効いた工程とみています。タンニンは96.2%減少し、主に種皮の除去によって減ったと報告されています。青酸は乾燥と蒸しの段階で検出されなくなりました。
一方で、減り方が比較的小さい成分もありました。トリプシンの働きを妨げる活性は65.7%、フィチン酸は42.3%、シュウ酸は36.5%の減少にとどまりました。この3つは、いずれも文献に基づく目標値を上回ったままでした。論文は、これらの目標値は普遍的な規制上の安全基準ではなく、加工の効果を評価するための参考値だと注記しています。そのうえで、製品は完全に無毒化されたとはいえず、工程にはさらに改善の余地があると述べています。
統計解析では、L-ドーパ、フィチン酸、タンニン、シュウ酸、トリプシン阻害活性が互いに強く連動して減っていました。主成分分析では、抗栄養因子の多い生の種子と完成したトゥバニが反対側に分かれ、途中の段階の試料がその間に順に並びました。著者らはこの結果から、特定の一工程だけでなく、工程を重ねることの積み重ねが成分の変化をもたらしたと解釈しています。
研究が示すこと
この研究は、種皮の除去、浸漬、乾燥、蒸しという伝統的なトゥバニの作り方が、ムクナのたんぱく質やミネラルを比較的よく残しながら、L-ドーパやタンニン、青酸を大きく減らすことを示しました。一方で、一部の抗栄養因子は目標とされる水準まで下がっておらず、この加工だけでは十分に取り除けない成分があることも明らかになっています。地域に根づいた調理法が、利用の少ない豆を食材として生かす手がかりになりうることを、工程ごとの成分の変化から具体的に示した研究といえます。
原著論文の著者・所属:Yves Djimba(Faculty of Agronomy, University of Parakou, Parakou, Benin)、Janvier Kindossi(Faculty of Agronomy, University of Parakou, Parakou, Benin)、Kodjo Eloh(Department of Chemistry, University of Kara, Kara, Togo)、Gaston Tidiye(Department of Chemistry, University of Kara, Kara, Togo)、Ogouyom Afe(Faculty of Agronomic Sciences, University of Abomey-Calavi, Abomey-Calavi, Benin)、Rodrigue Diogo(Faculty of Agronomy, University of Parakou, Parakou, Benin)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Yves Djimba, Janvier Kindossi, Kodjo Eloh, et al. Effects of Traditional Toubani Processing on Nutritional Composition, Mineral Content and Antinutritional Factors of Mucuna Pruriens. International Journal of Nutrition and Food Sciences 2026-09-30. DOI: 10.11648/j.ijnfs.20261505.21. 原著ライセンス:CC BY.