この研究は、インドの研究機関の研究論文です。
掲載誌:Journal of Food and Nutrition Sciences
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: 論文PDF
研究の目的:同じ豆でも「形」が違えば中身も違うのか
ケツルアズキ(学名 Vigna mungo、日本ではウラド豆やブラックグラムとも呼ばれます)は、インド亜大陸を中心に広く食べられている豆類です。研究チームによれば、インドは世界生産量の約7割を占める最大の生産国かつ消費国であり、この豆はインドの食生活において穀類の約3倍にあたるおよそ26%のたんぱく質を供給する重要な存在とされています。ダル(煮豆)やイドゥリ、ドーサ、パパドなど、さまざまな料理に使われています。
ただし市場に並ぶケツルアズキは一種類ではありません。皮(種皮)が付いたままのもの、皮を取り除いたもの、丸ごとのもの、半分に割ったものと、加工の度合いが異なる形で流通しています。著者らは、こうした皮の有無や割りの有無によって栄養成分と抗栄養因子がどう変わるのかを調べることを目的としました。
ここでいう「抗栄養因子」とは、食品そのものに含まれていて、栄養素の吸収や消化を妨げる働きを持つ成分のことです。論文では、フィチン酸(ミネラルと結びついて吸収されにくい形にしてしまう成分)、タンニン(たんぱく質と結合しやすいポリフェノールの一種)、トリプシンインヒビター(たんぱく質を分解する消化酵素の働きを阻害する成分)、そしてお腹の張りの原因になりうるオリゴ糖類が取り上げられています。
何を、どう調べたか
著者らは、インド・テランガーナ州ハイデラバードのタルナカ地区の市場で、4つの形態のケツルアズキを入手しました。皮付き丸ごと(WBGH)、皮なし丸ごと(WBGoH)、皮付き割り(SBGH)、皮なし割り(SBGoH)の4種です。試料は丁寧に洗浄したうえで粉末に挽き、マイナス20度で保存して分析に用いました。
栄養成分については、水分、灰分(燃やした後に残る無機質の量で、ミネラル全体の目安になります)、たんぱく質、脂質、利用可能炭水化物、総食物繊維を測定しています。たんぱく質はケルダール法、水分・灰分・食物繊維はAOACの公定法によるものです。抗栄養因子については、タンニンとフィチン酸を呈色反応による比色法で、トリプシンインヒビター活性を酵素反応を用いた測定で、オリゴサッカライド(オリゴ糖類)を薄層クロマトグラフィー(TLC)で定量しました。
報告された主な結果:皮を取ると濃縮され、皮に残るものがある
栄養成分について、著者らは皮を取り除いた試料で灰分・たんぱく質・炭水化物が高くなったと報告しています。たんぱく質は25.3〜27.1 g/100 gの範囲にあり、最も高かったのは皮なし丸ごとの27.1 g%、最も低かったのは皮付き丸ごとの25.3 g%でした。利用可能炭水化物は37.8〜42.7 g/100 gで、皮なし割りが最も高く、皮付き丸ごとが最も低い値でした。著者らはこれを、皮を取り除くことでたんぱく質やでんぷんに富む子葉部分の割合が相対的に高まるためと説明しています。
逆に食物繊維は皮付きのものが優位でした。総食物繊維は13.0〜20.1 g/100 gの範囲で、最も高いのは皮付き丸ごとの20.1%、最も低いのは皮なし割りの13.0 g%です。著者らは、種皮が不溶性食物繊維に富むことがこの差の背景にあると述べています。水分は9.18〜11.48 g/100 gで、4形態のあいだに有意差は認められませんでした。脂質は2.7〜3.5 g/100 gで、割ったものがやや高い傾向でした。
抗栄養因子については、皮を含む試料でタンニンとフィチン酸が高いという結果でした。タンニンは0.08〜0.53 mg CE/gの範囲で、皮付き割りが最も高い値を示しています。著者らはこの結果を、これらの成分が主に種皮に集中していることの裏付けと位置づけています。一方、トリプシンインヒビター活性は11.3〜13.76 TIU/gで、最も高かったのは皮なし割り(13.76 TIU/g)、最も低かったのは皮なし丸ごと(11.3 TIU/g)と、皮の有無とは異なるパターンを示しました。
オリゴ糖類では、いずれの試料でもベルバスコースが最も多く(1.2〜3.3 g%)、次いでスタキオース、スクロース、ラフィノースの順でした。論文では、これらのオリゴ糖は適量であれば腸内の有用菌を増やすプレバイオティクスとして働く一方、摂りすぎると大腸での発酵によってお腹の張りを招きうる、という両面が説明されています。
この研究が示すこと
この研究が伝えているのは、「ケツルアズキ」とひとくくりに呼ばれる豆でも、皮の有無や割りの有無という加工の違いによって、含まれる成分の姿がはっきり変わるということです。皮を取ればたんぱく質や炭水化物の密度は上がりますが、同時に食物繊維は減ります。逆に皮を残せば食物繊維は多くなる代わりに、タンニンやフィチン酸といった吸収を妨げる成分も多く含まれることになります。
つまり、どの形態が一様に優れているという単純な話ではなく、皮という部位が栄養面でも抗栄養面でも鍵を握っている、という構図が分析から浮かび上がります。著者らは、こうした形態ごとの違いを把握しておくことが、この豆を食品に生かすうえで重要だとまとめています。
著者:Jatavath Lavanya(Department of Dietetics, ICMR-National Institute of Nutrition, Hyderabad, India)、Devindra Shekappa Bukkan(Department of Dietetics, ICMR-National Institute of Nutrition, Hyderabad, India)、Chitram Umashankar(Homeopathy, Regional Research Institute (Homoeopathy), Hyderabad, India)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Jatavath Lavanya, Devindra Shekappa Bukkan, Chitram Umashankar. A Study on Nutritional and Anti-nutritional Factors in Black Gram ( Vigna mungo ). Journal of Food and Nutrition Sciences 2026-09-20. DOI: 10.11648/j.jfns.20261405.13. 原著ライセンス:CC BY.