この研究は、トルコの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Tarım Bilimleri Dergisi

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

魚介類は良質なたんぱく質やオメガ3脂肪酸、ミネラルを含む食品です。一方で、沿岸の都市化や工業化が進むと、重金属などの汚染物質が生き物の体内に蓄積し、食べる人の健康リスクにつながるおそれがあります。

この論文は、黒海に面したトルコ・ケフケン沿岸で採れたムラサキイガイ(地中海イガイ、Mytilus galloprovincialis)を対象に、栄養面の質と金属による健康リスクを同時に評価しています。二枚貝は周囲の海の状態を体内に反映しやすく、環境汚染の指標生物として使われます。ケフケンは黒海とマルマラ海の境目に位置し、天然の貝の群生地があり、比較的きれいな水質から貝の養殖の場としても選ばれるようになっている場所です。

何を調べたか

著者は2014年3月から10月まで毎月、沿岸で貝を30個ずつ手で採取しました。身の部分について脂肪酸の組成を分析し、アルミニウム、ヒ素、カドミウム、鉄、水銀、マンガン、セレン、亜鉛などの金属濃度を測定しました。金属濃度は、水分を含んだ状態の身1キログラムあたりの量で示されています。

脂質の質は、動脈硬化や血栓のなりやすさに関わるとされる脂肪酸の比率を指数化した「動脈硬化指数」「血栓形成指数」などで評価しました。健康リスクは、体重70キロの成人が1日約74グラム、体重16キロの子どもが1日11グラムの貝を食べると仮定して見積もっています。主な指標の一つが「目標ハザード比」で、推定される金属の摂取量を、健康への悪影響が生じないとされる基準量で割った値です。1を超えると、悪影響の可能性を否定できないと判断されます。

さらに、心血管の健康のために推奨される量のEPAとDHA(魚介類に多いオメガ3脂肪酸)をこの貝だけでとろうとした場合に、同時にとることになる金属の量が基準と比べてどうなるかを示す「便益・リスク指数」も計算しました。

主な結果

脂質の面では、多価不飽和脂肪酸が総脂肪酸の38.03〜55.36%を占めていました。動脈硬化指数は0.32〜0.65、血栓形成指数は0.17〜0.34で、著者はこれを心血管の健康にとって好ましい脂質の特徴だと評価しています。また、セレンが水銀の毒性をどの程度打ち消しうるかを示す指標(セレン健康便益値)は、算出されたすべての月でプラスの値(9.33〜14.25)でした。著者はこれを、水銀に対して部分的な防御が期待できる状態と解釈しています。

金属濃度は月によって有意に変動しました。全体では亜鉛、鉄、アルミニウムの順に多く含まれていました。ヒ素は5月に最大で2.17 mg/kg、水銀は7月に最大で0.38 mg/kg、カドミウムは10月に最大で0.56 mg/kgでした。複数の金属の蓄積をまとめた汚染指数は6月の1.09から5月の2.41の範囲にあり、春に高くなる傾向がありました。著者は、春の雪解け水や降雨による河川流入の増加が関係している可能性を挙げています。

健康リスクの評価では、ヒ素による発がんリスクは3〜5×10⁻⁵と見積もられ、米国環境保護庁が許容範囲とする幅に収まっていました。一方、がん以外の健康影響を示す目標ハザード比は、カドミウムで最大3.928、水銀で最大2.442となり、成人・子どもとも安全の目安とされる1を上回りました。

便益・リスク指数でも厳しい結果が出ました。成人が推奨量の下限である1日250ミリグラムのEPAとDHAをこの貝でとろうとすると、カドミウムの指数は1.15〜2.86に達し、上限の500ミリグラムでは5.72まで上がりました。水銀については、子どもで最大2.64となりました。

研究が示すこと

この研究は、ケフケン沿岸のムラサキイガイが脂質の質という点では優れている一方で、同じ貝に蓄積したカドミウムや水銀が健康リスクの目安を超えうることを示しました。著者は、この地域の貝を心臓に良い食事として制限なく取り入れることは難しいと結論づけています。栄養上の利点と汚染によるリスクを同じ試料で比べることで、地域の水産物を監視することの意味が具体的に浮かび上がる研究といえます。

著者:Harun Yıldız(ÇANAKKALE ONSEKİZ MART ÜNİVERSİTESİ, DENİZ BİLİMLERİ VE TEKNOLOJİSİ FAKÜLTESİ)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Harun Yıldız. Nutritional Quality and Toxicological Risk Assessment of Mediterranean Mussels (Mytilus galloprovincialis): A Seasonal Study on the Kefken Coast, Black Sea. Tarım Bilimleri Dergisi 2026-10-12. DOI: 10.15832/ankutbd.1811576. 原著ライセンス:CC BY.