この研究は、スペインの研究機関の研究論文です。
掲載誌:PeerJ
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
なぜ調べたのか
車いすバスケットボールは、下肢に何らかの障がいのある選手が車いすを使って行う、強度の高い断続的なチームスポーツです。スピードや敏捷性、筋力、持久力に加え、こぎ出しやターン、ドリブル、パス、シュートといった技術も求められます。競技には機能分類制度があり、選手は競技動作を遂行する能力に応じて1.0点から4.5点の持ち点を与えられます。点数が低いほど機能的な制約が大きいことを意味し、コート上の5人の合計が14点を超えてはならないという規定があります。
栄養が競技力を支える重要な要素であることは広く知られていますが、著者らは、障がいのある選手(パラアスリート)の栄養必要量や実際の食事内容についての根拠はまだ限られていると指摘しています。障がいの種類や程度が多様であることがその一因で、そのため推奨値は健常選手のものから当てはめられることが多いのが現状です。これまでの研究はエネルギーや三大栄養素の摂取量に着目したものが中心で、脂質が多く、炭水化物や食物繊維、豆類が不足しがちだという報告が積み重ねられてきました。
そのうえで著者らは、スペインの1部リーグに所属する車いすバスケットボール選手の食習慣を対象とした研究はこれまで行われていないとして、本研究で食習慣、実践している食事法とその動機、水分摂取の実態、そして栄養推奨への適合度を、性別と機能分類別に評価することを目的に掲げました。研究チームは事前に、選手の食習慣は推奨される摂取頻度を満たさず全般に適合度が低いだろう、また多くの選手は特定の食事法を実践しておらず、実践している場合は主に競技力を理由とするだろう、という二つの仮説を立てています。
どのように調べたか
これは横断的な記述研究、つまりある一時点の状況を写し取る調査であり、介入は行っていません。スペイン1部リーグ12チームのうち10チーム(83.3%)から、計66名(男性57名、女性9名)が参加しました。参加条件は、全国レベルで競技する車いすバスケットボールチームに所属して競技登録があり、週3日以上練習していることで、調査時点で負傷している選手などは除外されました。調査は2023/2024シーズン中の2024年2月から4月にかけて、オンラインのフォームを通じて匿名で実施されました。
食事の把握には、食物摂取頻度質問票(FFQ)が使われました。これは、さまざまな食品をどれくらいの頻度で食べているかを尋ねる形式の調査票で、本研究では過去28日間について、果物、野菜、豆類、いも類、パスタ、米、パン、全粒穀物、白身肉、赤身肉、卵、魚、ナッツ、発酵食品、清涼飲料、市販菓子、調理済み・冷凍食品、乳製品、植物性飲料、アルコールなどの摂取頻度を回答してもらっています。1皿の量は標準的な分量の写真とグラム・ミリリットル表示で見積もりました。別のセクションでは、日常・練習中・試合中の水分摂取量、特定の食事法を実践しているかどうかとその動機、助言者の有無を尋ねています。なお、エネルギーバーやジェル、スポーツドリンクなどの競技用製品については別の質問票で収集され、本報告には含まれず別途分析中とされています。
適合度の判定には、スペインの国内向けの食事・持続可能な栄養の指針が基準として用いられました。たとえば野菜は1日2〜4皿、果物は1日3〜5皿、穀類とその加工品は1日4〜6皿、ナッツは週3回以上、乳製品は1日2〜4皿、魚介類は週2回以上、赤身肉は週2回以下、水は1日2〜2.5リットルといった頻度です。各選手はそれぞれの食品群について「満たす」「下回る」「上回る」に分類されました。あわせて、推奨頻度を満たした食品群の数を10点満点で数える食事多様性スコア(DDS)も算出されています。統計的な比較には、性別と機能分類による違いを見るためにカイ二乗検定などが用いられました。
主な報告結果
著者らの報告によると、選手たちの摂取頻度は大半の食品群で国内指針の推奨を下回っていました。果物と野菜の摂取はとくに低く、推奨を満たしていたのは果物で7%、野菜で3%の選手にとどまりました。また85%を超える選手が、推奨より少ない穀類の摂取量でした。一方、赤身肉については78%の参加者が推奨を上回って食べていたと報告されています。推奨への適合が十分だったのは乳製品と卵だけでした。
性別による有意差が認められたのは乳製品の摂取に関してのみで、女性は推奨を下回る割合が高く、男性は赤身肉、卵、乳製品で推奨水準を満たしていました。機能分類による比較では、乳製品の摂取頻度に有意差が見られたものの、推奨への適合度そのものにはどの食品群でも有意差は認められませんでした。
食事法については、80.3%の選手が特定の食事法を実践していませんでした。実践していた選手のなかで最も多かったのは、食品の種類を制限せず1日の栄養素の目標量を満たすことに重点を置く「フレキシブルダイエット」(10.6%)で、動機としては健康維持(12.1%)が最も多く挙げられました。食事法を実践していた選手は全員、管理栄養士から助言を受けていたと回答しています。
水分摂取については、多くの選手が一般人口向けの最低推奨量を満たしていませんでした。日中の摂取量で最も多かった回答は2.5リットル(40.9%)、練習中は1リットル(42.4%)、試合中も1リットル(31.8%)でした。日中・練習中・試合中のいずれにおいても性別による有意差が認められ、女性の摂取量は男性より少なく、練習中は0.5リットル以下と答えた女性の割合が高かったと報告されています。食事多様性スコアは0から10まで分布し、中央値は2(四分位範囲2)で、著者らはこの集団の食事の多様性が低い水準にあることを示す結果だとしています。
この研究が示すこと
著者らは、今回明らかになった食事の全体像を、植物性食品や炭水化物源、魚、ナッツ、水分の推奨適合度が低く、赤身肉が過剰という、最適とは言えないプロフィールだと総括しています。そして、こうした食事の質は健康やエネルギー可用性、競技パフォーマンスを十分に支えるには不足している可能性があると述べています。
ただしこの研究には制約もあります。著者らは、サンプル数が限られていること、とくに女性選手が9名と少なく性別比較の解釈に限界があることを主要な限界として挙げています。参加者を募る方法上、栄養への関心が高い選手が集まりやすかった可能性も指摘されています。また使用した質問票は自己申告かつ過去を振り返る形式であるため思い出しの偏りを受けやすく、もともと競技者向けに設計されたものではないため、摂取量や栄養素を精密に定量することはできません。横断的なデザインであることから、因果関係を導くことはできず、あくまで現状の断面を示すものだとしています。
結果を踏まえて著者らが強調しているのは、性別や機能分類、競技の状況に応じた栄養教育とカウンセリングのプログラムを整える必要性です。障がいのある選手の身体的・生理的な条件は一律ではなく、だからこそ一般的な推奨をそのまま当てはめるのではなく、個々の条件に合わせた食事の組み立てが求められる――スペイン1部リーグという限られた対象の調査ながら、この研究はその出発点となる実態を具体的な食品群のレベルで描き出しています。
著者:Aurora Norte(Applied Dietetics, Nutrition and Body Composition Research Group (DANUC), University of Alicante, Alicante, Spain)、María Miana(Faculty of Nursing and Physiotherapy ‘Salus Infirmorum’, Pontifical University of Salamanca, Madrid, Spain)、David Romero-García(Applied Dietetics, Nutrition and Body Composition Research Group (DANUC), University of Alicante, Alicante, Spain)、Isabel Sospedra(Applied Dietetics, Nutrition and Body Composition Research Group (DANUC), University of Alicante, Alicante, Spain)、Eva Ausó(Applied Dietetics, Nutrition and Body Composition Research Group (DANUC), University of Alicante, Alicante, Spain)、Ana Cifuentes(Applied Dietetics, Nutrition and Body Composition Research Group (DANUC), University of Alicante, Alicante, Spain)、Sara Perpiñá-Martínez(Faculty of Nursing and Physiotherapy ‘Salus Infirmorum’, Pontifical University of Salamanca, Madrid, Spain)、Sara Aprea-Moreno(Faculty of Nursing and Physiotherapy ‘Salus Infirmorum’, Pontifical University of Salamanca, Madrid, Spain)、Pablo Leardy Palencia(Faculty of Nursing and Physiotherapy ‘Salus Infirmorum’, Pontifical University of Salamanca, Madrid, Spain)、Santiago Delgado Ortiz(Faculty of Nursing and Physiotherapy ‘Salus Infirmorum’, Pontifical University of Salamanca, Madrid, Spain)、José Miguel Martínez Sanz(Applied Dietetics, Nutrition and Body Composition Research Group (DANUC), University of Alicante, Alicante, Spain)、Maria Isabel Buceta Toro(Faculty of Nursing and Physiotherapy ‘Salus Infirmorum’, Pontifical University of Salamanca, Madrid, Spain)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Aurora Norte, María Miana, David Romero-García, et al. Eating for performance: an evaluation of food consumption patterns and adherence to dietary guidelines in elite wheelchair basketball players. PeerJ 2026-09-16. DOI: 10.7717/peerj.21715. 原著ライセンス:CC BY.