写真: Unsplash (研究内容に関連するイメージ写真)
著者の所属・活動拠点の国は、スペイン、スウェーデンです。
掲載誌:SSM - Qualitative Research in Health
ライセンス: CC BY-NC-ND 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
一人暮らしの高齢者が増えるなかで、『孤独』と『食事』の関係はどのように結びついているのでしょうか。孤独というと食欲の低下や栄養不足といった衰えのイメージで語られがちですが、実際の暮らしの中ではもっと多様で複雑な形をとっているのかもしれません。今回紹介するのは、スペインの農村部・準都市部に暮らす65歳以上の一人暮らし高齢者を対象に、孤独感と食習慣の関わりを丹念に描き出した研究です。
どのように調べたのか
研究チームは、単なる質問紙調査ではなく、複数の地域を回りながら現地に入り込む『エスノグラフィー(民族誌的調査)』という手法を用いました。具体的には、65歳以上の高齢者25名への深層インタビューに加えて、実際の生活の場に立ち会う参与観察、そしてフィールド日誌の記録を組み合わせています。集めたデータは、あらかじめ用意した観点で分類する『演繹的コーディング』と、データの中から新たなテーマを見出す『帰納的コーディング』の両方を使い、主題ごとに整理する分析(主題分析)が行われました。
浮かび上がった3つのテーマ
分析の結果、大きく3つの主題が抽出されたと報告されています。第一に、孤独感が食習慣や健康そのものに影響を及ぼしている様子です。第二に、人とのつながりが薄れていくなかで、誰かと一緒に食事をとる『共食』を求める気持ちが表れていたことです。第三に、特に配偶者を亡くした女性(寡婦)において、一人で暮らすようになったことがかえって自分なりの判断で食事を組み立てる主体性やエンパワーメント、さらには新しい料理に挑戦する場が生まれるきっかけにもなっていたという点です。
興味深いのは、これらの食習慣のあり方が、性別や経済的な余裕、そして生まれ育った環境の中で身につけてきた価値観といった構造的な要因によって制約される一面がある一方で、同じ要因が逆に自律性を高める方向に働く場合もあったと整理されている点です。つまり孤独は一様に食生活を悪化させるだけの現象ではなく、人によっては新たな工夫や自由の広がりにもつながりうる、両義的な経験として描かれています。
この研究を読むうえでの注意点
この調査はスペインの農村部・準都市部という特定の地域社会に暮らす高齢者を対象にしたエスノグラフィー研究であり、対象者も25名と限られています。得られた知見は、同じ社会文化的背景を持つ人々の語りや行動を丁寧に読み解いたものであって、高齢者全般に一律に当てはまる結論を示したものではありません。孤独と食習慣の関係を『改善する』『予防する』といった形で断定するものではなく、ジェンダーや社会階層といった要因が食習慣の背景に横断的に関わっていることが示唆された、という位置づけで受け止めるのが適切です。
この研究は、高齢者の孤食を一律に『問題』として捉えるのではなく、その人が置かれた社会的・経済的背景や人生の来歂によって表れ方が異なる複雑な現象として捉える視点を提供しています。ジェンダーや経済状況によって食習慣の意味合いが変わりうるという指摘は、支援のあり方を考えるうえでも参考になる視点といえるでしょう。
原著論文の著者・所属:Borja Rivero Jiménez(Department of Philosophy and Anthropology, Faculty of Philosophy, University of Santiago de Compostela, Santiago de Compostela, Spain)、David Conde Caballero(Department of Health and Caring Sciences, University of Gävle, Gävle, Sweden)、Elena Freire Paz(Department of Philosophy and Anthropology, Faculty of Humanities, University of Santiago de Compostela, Lugo, Spain)、Adriana V. Muñoz-Ortega(Department of Computer and Telematics Engineering, School of Engineering, University of Extremadura, Cáceres, Spain)、Eduardo Naharro Gil(Department of Psychology and Anthropology, Faculty of Teacher Training, University of Extremadura, Cáceres, Spain)、Lorenzo Mariano Juárez(Department of Psychology and Anthropology, Faculty of Teacher Training, University of Extremadura, 10003 Cáceres, Spain)
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。出典(原著論文):Borja Rivero Jiménez, David Conde Caballero, Elena Freire Paz, et al. Food cultures of elderly loneliness: health, commensality and agency from and ethnographic approach. SSM-クオリタティブ・リサーチ・イン・ヘルス (2026). DOI: 10.1016/j.ssmqr.2026.100858. 原著ライセンス: cc-by-nc-nd.