著者の所属・活動拠点の国は、中国です。
掲載誌:Foods (Basel, Switzerland)
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: Europe PMC
研究の目的
高血圧は心血管疾患や脳卒中、腎不全のリスクを高める、世界的な健康課題です。体内で血圧の調節に関わる酵素の一つがアンジオテンシン変換酵素(ACE)です。ACEは血管を収縮させる物質をつくり、血管を広げる物質を分解します。そのため、ACEの働きを抑えることは高血圧治療の確立した考え方になっています。食品のたんぱく質に由来し、ACEを阻害するペプチド(アミノ酸が数個つながったもの)は、機能性食品の分野で関心を集めています。
ただし、天然から見つかるペプチドは、活性が十分でない場合があります。また、どのアミノ酸配列がどのように活性に関わるのかも、まだ十分には解明されていません。研究チームは、以前の研究で報告した5個のアミノ酸からなるペプチドLYPVKを出発点にしました。LYPVKはイチジク由来で、ACE阻害活性を示すことが分かっています。著者らはこのペプチドの活性を高めるため、「モジュール置換」という設計法を試しました。モジュール置換とは、配列を連続した2個のアミノ酸(ジペプチド)の単位に分け、働きの弱い部分を強い組み合わせに入れ替える方法です。アミノ酸を1個ずつ入れ替える従来の方法とは異なり、隣り合うアミノ酸同士の組み合わせの性質をまとめて考慮できる点が特徴だと、著者らは説明しています。
弱い部分を見つけ、入れ替え候補を選ぶ
研究チームはまず、LYPVKを4つのジペプチドLY、YP、PV、VKに分けました。それぞれについて、ACEにどの程度結合しそうかをコンピューター上で予測する分子ドッキングを行い、実際の阻害活性も試験管内で測定しました。活性の強さはIC50で表しています。IC50は酵素の働きを半分に抑えるのに必要な濃度で、値が小さいほど阻害する力が強いことを示します。測定されたIC50は、LYが38.50、YPが16.24、PVが32.15、VKが23.68マイクロモーラーでした。LYは活性が最も弱く、予測される結合も最も弱かったため、N末端側(配列の先頭)にあるLYが改良の候補部分とされました。著者らは、切り出したジペプチド単独の活性が、全長ペプチドの中でその部分が果たす寄与をそのまま表すわけではないとも注記しています。
次に、アミノ酸の2個の組み合わせとして考えられる400種類すべてについて、ACEとの結合をドッキングで予測しました。そのうえで、2番目がチロシン(Y)である「XY」型のジペプチドを選び、阻害活性を測定しました。その結果、EY、SY、KY、VYの活性が高く、IC50はそれぞれ2.68、11.70、7.70、16.12マイクロモーラーでした。ドッキングで予測された結合の強さと実測の活性には強い相関がみられました。一方で、相関から外れるジペプチドもあったため、実測値を主な判断基準とし、ドッキングは補助的に使われました。最終的に、実測で最も活性の高かったEYと、予測上で多くの水素結合をつくりACEの活性部位にある亜鉛イオンとも相互作用したSYが、入れ替え用のモジュールに選ばれました。
入れ替えたペプチドの活性と性質
LYPVKの先頭のLYをEYとSYに置き換えた2つのペプチド、EYPVKとSYPVKを合成し、ACE阻害活性を測定しました。IC50はSYPVKが12.83、EYPVKが14.82マイクロモーラーでした。元のLYPVKの17.1マイクロモーラーと比べ、論文はSYへの置換で25.1%、EYへの置換で13.5%活性が高まったと報告しています。2つの新しいペプチドはどちらも元のペプチドより強い阻害活性を示し、著者らはモジュール置換による設計が実行可能であることを支持する結果だとしています。コンピューターによる毒性予測では、いずれのペプチドも毒性がないと予測されました。
阻害の仕方も調べられました。酵素反応の速度を解析した結果、EYPVKは「非競合型」、SYPVKは「混合型」の阻害を示しました。非競合型は、酵素が本来の相手と結合する部位とは別の場所に作用して働きを抑える型です。混合型は、その両方の性質をあわせ持つ型と考えられています。さらに、胃と腸での消化を試験管内で模擬する実験も行いました。最初に約50%の阻害を示す濃度で処理したところ、模擬的な腸での消化を終えた後も、EYPVKで約47.6%、SYPVKで約46.5%の阻害率が保たれていました。著者らは、ペプチドの一部は消化酵素で切断された可能性があるものの、阻害作用は保たれていたと述べています。また、配列に含まれるプロリンが消化への強さに関わっている可能性を挙げています。
分子ドッキングでは、置換後のペプチドが元のLYPVKより多くの水素結合や疎水性相互作用をACEとの間でつくると予測されました。接触するACEのアミノ酸の数も、LYPVKの15個に対し、EYPVKが17個、SYPVKが18個と多くなりました。著者らは、こうした結合の広がりが活性の向上に寄与している可能性があると考察しています。
この研究が示すこと
この研究は、ペプチドを2個のアミノ酸の組み合わせ単位で評価し、弱い部分をより強い組み合わせに入れ替えるという手順で、ACE阻害活性の高いペプチドを設計できることを、一つの具体例として示しました。一方で著者ら自身も述べているとおり、検証の対象は元のペプチドLYPVKの1種類に限られています。また、ここで紹介した活性や消化への強さは試験管内やコンピューター上で調べた結果であり、体内での吸収や利用のされやすさは今後の検討課題とされています。
原著論文の著者・所属:Liang Q(College of Food Science and Engineering, Ocean University of China, Qingdao 266404, China.)、Wang S(School of Ocean Food and Biological Engineering, Jiangsu Ocean University, Lianyungang 222005, China.; Jiangsu Key Laboratory of Marine Bioresources and Environment/Jiangsu Key Laboratory of Marine Biotechnology, Jiangsu Ocean University, Lianyungang 222005, China.)、Sun N(College of Food Science and Engineering, Ocean University of China, Qingdao 266404, China.)、Zhu C(College of Food Science and Engineering, Ocean University of China, Qingdao 266404, China.)、Liu Z(College of Food Science and Engineering, Ocean University of China, Qingdao 266404, China.)、Mou H(College of Food Science and Engineering, Ocean University of China, Qingdao 266404, China.)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Liang Q, Wang S, Sun N, et al. A Dipeptide Module Substitution-Based Strategy for the Modification and Evaluation of ACE Inhibitory Peptides. Foods (Basel, Switzerland) 2026-10-11. DOI: 10.3390/foods15203617. 原著ライセンス:CC BY.