この研究は、エジプト、ヨルダン、ドイツ、サウジアラビアの研究機関の研究論文です。
掲載誌:International Journal of Food Science & Technology
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
ペプチドは、アミノ酸が短くつながった物質です。乳に含まれるタンパク質から得られるペプチドは、食品素材として利用されています。研究チームは、こうした乳由来のペプチドに、コーヒーに多く含まれるポリフェノールの一種「クロロゲン酸」を化学的に結合させると、ペプチドの構造や性質がどう変わるかを調べました。
タンパク質とポリフェノールを共有結合(原子どうしが電子を共有する強い結合)でつなぐ方法は、食品タンパク質の働きや抗酸化性を高める手段として研究されてきました。ただし著者らによると、これまでの研究は主に元のままの食品タンパク質と精製したポリフェノールを扱っていました。市販の乳由来ペプチドと、コーヒーから得た天然のポリフェノールを組み合わせた例は限られていたといいます。
研究チームはもう一つの用途も検討しました。黄色の色素ルテインを包み込んだ状態で、その安定性を保てるかどうかです。ルテインは緑黄色野菜などに含まれるカロテノイドの一種ですが、光や熱で壊れやすく、食品への利用が制限されています。
何をどのように調べたか
材料には2種類の乳由来ペプチドを使いました。一つは、ホエイ(乳清)タンパク質を分解した市販素材「BioZate1(BZ1)」です。もう一つは「グリコマクロペプチド(GMP)」で、チーズ製造時にκ-カゼインから切り出される、糖鎖の付いた64個のアミノ酸からなるペプチドです。
これらを、クロロゲン酸を豊富に含む生のコーヒー豆の抽出液と、2通りの方法で反応させました。一つはアルカリ法で、液をpH9に調整し、空気中で24時間かき混ぜてポリフェノールを酸化させ、ペプチドに結合させます。もう一つは酵素法です。ポリフェノールを酸化する酵素(ポリフェノールオキシダーゼ)の天然の供給源としてリンゴ(ブレイバーン種)の果汁を加え、同じく24時間反応させました。反応後は、結合しなかったポリフェノールを取り除いてから分析しています。
評価項目は次のとおりです。まず、ポリフェノールが結合しうる部位(アミノ基、チオール基、トリプトファン)がどれだけ残っているかを調べました。あわせて、水への溶けやすさ、2種類の試験法による抗酸化力、表面の疎水性(水をはじく性質)を測りました。泡の安定性は、ペプチドを水に分散させた液に空気を送り込んで泡を立て、その泡の持ちを観察して評価しています。これとは別に、ルテインのエステル体を溶かした油をペプチドで水中に分散させた乳化液をつくり、遠心分離に対する安定性や油滴の様子、紫外線を最大72時間当てたときのルテインの残り具合を調べました。
主な結果
BZ1では、反応後に結合部位の総量がはっきり減りました。1mgあたり1197.15nmolから、アルカリ法で825.55nmol、酵素法で830.00nmolとなり、いずれも約31%の減少です。著者らは、これをポリフェノールが共有結合した証拠と解釈しています。一方、GMPでは逆に結合部位の量が増えました。研究チームは、処理によってペプチドがほどけるなどして、内側に隠れていた部位が表に出た可能性を挙げています。
抗酸化力は、すべての結合体で有意に高まりました。BZ1の値は、1gあたり220.43µmolトロロックス当量から、アルカリ法で312.49、酵素法で305.02に上がりました。アルカリ法での上昇幅は約42%です。GMPはもともとの抗酸化力が低い素材でしたが、結合後は大きく上昇しました。ただし、上昇後の値はBZ1より低くとどまりました。
BZ1の表面疎水性は、結合によって大きく下がり、とくにアルカリ法で顕著でした。GMPでは有意な変化はみられませんでした。水への溶けやすさの変化はpHによって異なりました。BZ1の結合体は、等電点に近いと考えられるpH4〜5.5付近で溶けにくくなりました。一方、pH8以上のアルカリ側では、ほとんどの試料が75%を超えて溶けました。
乳化液については、BZ1の結合体が元のBZ1よりやや安定でした。顕微鏡観察では、元のBZ1の乳化液に大きく合体した油滴がみられたのに対し、アルカリ法で処理したBZ1では、より細かく均一に分散した油滴が観察されました。これに対し、結合処理をしたGMPでは、遠心分離での安定性がかえって低下しました。著者らは、BZ1の結合体で泡の安定性も向上したと報告しています。さらに、結合によって、包み込まれたルテインエステルが光で分解しにくくなったとしています。
この研究が示すこと
この研究は、コーヒー由来のポリフェノールを結合させることで、乳由来ペプチドの抗酸化力や乳化・起泡の性質を変えられることを示しました。同時に、その効果がペプチドの種類と結合方法によって大きく異なることも明らかにしています。結合部位の多いBZ1では変化がはっきり現れ、多くの性質がよい方向に変わりました。一方、GMPでは抗酸化力は高まったものの、乳化の安定性は低下しました。
著者らはこれらの結果を、コーヒーのポリフェノールを使って乳ペプチドの機能を高め、食品やルテインのような抗酸化成分を運ぶ仕組みに生かす可能性を支持するものと位置づけています。
著者:MOSTAFA ALI(Food Technology Department, Faculty of Agriculture, Kafrelsheikh University , Kafr Elsheikh ,)、Bandar N. Hamadneh(Department of Human Nutrition and Dietetics, Faculty of Agriculture, Ajloun National University , Ajloun ,)、محمود خليل(Nutritional Science Institute, Potsdam University , Potsdam ,)、Mohamed Abdin(Agricultural Research Center, Food Technology Research Institute , Giza 12611 ,)、Reham M. Kamel(Agricultural Engineering Research Institute, Agricultural Research Center , Giza 12611 ,)、Ahmed Sayed(Department of Physics, Freie Universität Berlin , Berlin ,)、F. E. Abdallah(Africa City of Technology , Khartoum 11111 ,)、Isam A. Mohamed Ahmed(Food Science and Nutrition Department, College of Food and Agricultural Sciences, King Saud University , PO Box 2460, Riyadh 11451 ,)、Abdullah M. A. Alhamdan(Chair of Dates Industry and Technology, Department of Agricultural Engineering, College of Food and Agricultural Sciences, King Saud University , PO Box 2460, Riyadh 11451 ,)、Mahmoud Younis(Chair of Dates Industry and Technology, Department of Agricultural Engineering, College of Food and Agricultural Sciences, King Saud University , PO Box 2460, Riyadh 11451 ,)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):MOSTAFA ALI, Bandar N. Hamadneh, محمود خليل, et al. Coffee phenolics–milk bioactive peptides conjugation: modulation of structural and functional properties and stability of encapsulated lutein. International Journal of Food Science & Technology 2026-10-08. DOI: 10.1093/ijfood/vvag205. 原著ライセンス:CC BY.