著者の所属・活動拠点の国は、中国です。

掲載誌:Foods

ライセンス: CC BY 4.0 対象: 公開論文 確認元: 論文PDF

研究の目的

ラム肉の風味は、食べたときの満足度や好みを左右する重要な要素です。品種によって香りが違うことは以前から報告されてきましたが、多くの比較は、肉から出る揮発性の香り成分の量だけをもとにしていました。しかし、量が多い成分が必ずしも強く香るとは限りません。成分ごとに、においを感じ始める濃度やにおいの質が大きく異なるためです。

肉を焼くと、二つの化学反応が主に香りをつくります。一つは脂肪の酸化で、不飽和脂肪酸(分子内に二重結合を持つ、酸化されやすい脂肪酸)が分解され、アルデヒドやアルコールなど、青臭さや脂っぽさ、キノコのようなにおいを持つ成分ができます。もう一つはメイラード反応で、アミノ酸と糖が反応し、香ばしくナッツのような香りのピラジン類などが生じます。

研究チームは、品種による焼きラム肉の香りの違いが、原料となる脂肪酸の違いや、実際ににおいとして感じられる成分の違いとどう結びついているのかを明らかにしようとしました。著者らは、筋肉の脂肪酸組成の違いは脂肪酸化由来の香り成分の違いと関連し、メイラード反応由来の香りは品種を通じて共通の土台になる、という仮説を立てました。

何を調べたか

対象は、新疆ウイグル自治区の5品種(ロプノール羊、カザフ羊、ドラン羊、アルタイ羊、トルファン黒羊)と、新疆以外の3品種(モンゴル羊、灘羊、湖羊)です。各品種6頭、計48頭の健康な雄の子羊で、いずれも月齢は約12か月でした。著者らは飼育方法には手を加えておらず、羊はそれぞれの産地の農場で通常どおり飼われていました。

分析には、どの羊からも同じ部位である背中のロース肉を使いました。焼く前の生肉で脂肪酸組成を測定し、別の部分を3センチ角に切って、油や塩などを使わずに180℃のオーブンで焼きました。焼いた肉については、ガスクロマトグラフィー質量分析(香り成分を分離して種類と量を推定する方法)で揮発性成分を調べました。さらに、分離された成分を訓練を受けた6人の評価者が装置の出口で直接かぎ、においの種類と強さを記録するガスクロマトグラフィー・オルファクトメトリー(GC-O)も行いました。評価者には、どの品種の肉かは知らされていませんでした。最後に、脂肪酸の量と香り成分の量の関連を個体ごとのデータで統計的に調べました。

主な結果

脂肪酸組成には品種間で明確な違いがありました。カザフ羊とロプノール羊は、飽和脂肪酸や一価不飽和脂肪酸(オレイン酸など)の総量が他の品種より少なめでした。多価不飽和脂肪酸の総量は、ドラン羊と湖羊で最も多く、リノール酸やアラキドン酸もこの2品種で比較的多く含まれていました。

焼いた肉の香り成分は、どの品種でもアルデヒド類とピラジン類が中心でした。ただし、その比率は品種によって異なり、ドラン羊ではアルデヒド類の割合が最も大きく、カザフ羊、アルタイ羊、トルファン黒羊、モンゴル羊ではピラジン類の割合が大きくなっていました。成分の分布のパターンは、新疆と新疆以外という単純な区分には分かれませんでした。

においとして感じられた成分を調べると、全品種に共通する香ばしい土台が見えてきました。香ばしくナッツや穀物、ココアのようなにおいを持つ2,3-ジメチルピラジンは、8品種すべてで検出されました。一方、ヘキサナール、ノナナール、オクタナール、(E)-2-オクテナール、1-オクテン-3-オールといった脂肪酸化に由来するにおい成分は、品種による違いがより大きくなりました。カザフ羊、ロプノール羊、モンゴル羊はピラジン主体の香ばしい香りの傾向を示し、アルタイ羊とドラン羊は香ばしさと青臭さ・脂っぽさが混ざった香り、湖羊は脂肪酸化由来の青臭さや脂っぽさがより強い傾向でした。トルファン黒羊では香ばしさに甘いカラメルのようなにおいが加わり、灘羊は幅広いピラジン類による香りを示しました。

脂肪酸と香り成分の関連を調べたところ、統計的に意味のある関連は主に不飽和脂肪酸と脂肪酸化由来の成分の間に集中していました。たとえば、リノール酸はヘキサナールなどと、オレイン酸はオクタナールやノナナールと正の関連を示しました。一方、2,3-ジメチルピラジンと脂肪酸の間には有意な関連は見られませんでした。

研究が示すこと

著者らは、品種による焼きラム肉の香りの違いは、まったく異なる香りの系統があるというより、全品種に共通する香ばしい香りの土台の上で、脂肪酸化由来の成分とメイラード反応由来の成分の比重が変わることで主に特徴づけられる、とまとめています。

ただし、羊は産地も飼育環境も異なり、品種と飼育条件を切り離して調べたわけではありません。そのため論文は、観察された違いを遺伝的な品種の効果だけによるものとは結論づけておらず、「品種と結びついたパターン」として報告しています。また、脂肪酸と香り成分の関係は相関として示されたものです。それでも、香り成分の量だけでなく、原料となる脂肪酸と実際に感じられるにおいを合わせて見ることで、ラム肉の香りの違いを整理できることを示した研究といえます。

原著論文の著者・所属:Bin Chen(College of Animal Science, Xinjiang Agricultural University, Urumqi 830052, China)、Jinlong Li(College of Animal Science, Xinjiang Agricultural University, Urumqi 830052, China)、Wujun Liu(College of Animal Science, Xinjiang Agricultural University, Urumqi 830052, China)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Bin Chen, Jinlong Li, Wujun Liu. Breed-Associated Roasted Aroma Signatures Across Eight Chinese Sheep Breeds: Integrating Fatty Acid Composition, Volatile Profiles, and Aroma-Active Compounds. Foods 2026-10-29. DOI: 10.3390/foods15213873. 原著ライセンス:CC BY.