著者の所属・活動拠点の国は、ドイツです。

掲載誌:Crystal Growth & Design

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

固形の油脂は、冷やされると内部で脂肪の結晶ができて固まります。工業用の油脂は多くの種類の成分が混ざっているため、どのような順序で、どのような結晶ができるのかを把握するのは簡単ではありません。

この研究は、ラウリン酸を含み、多くの成分が混ざった油脂のブレンドで、結晶がどのように生じて変化していくか(結晶化の速度や経過)を調べたものです。研究チームが特に注目したのは、ブレンドの中で主となる飽和脂肪酸がパルミチン酸かステアリン酸かによって、結晶化の様子が変わるかどうかでした。

何をどのように調べたか

油脂の主成分であるトリグリセリドは、グリセリンに3つの脂肪酸が結びついた分子です。著者らは、ブレンドに含まれるトリグリセリドを大きく3つのグループに分けて整理しました。3つとも飽和脂肪酸のもの(H3)、飽和脂肪酸に加えて中くらいの長さの脂肪酸を含むもの(H2M)、飽和脂肪酸に加えて二重結合を1つ持つ脂肪酸を含むもの(H2U)です。各グループには複数のトリグリセリドが含まれます。研究チームは、このグループ分けを共通の枠組みとして、実際の市販ブレンドと単純化したモデルのブレンドの傾向を比べました。

市販ブレンドでは、H3の含有量(8%と4%)と、主となる飽和脂肪酸(パルミチン酸かステアリン酸か)の違いが結晶化に与える影響を調べました。さらに理解を深めるため、菜種油の中に3種類のトリグリセリドだけを混ぜた単純なモデルブレンドも用意しました。パルミチン酸を中心とした組み合わせ(PPP・PLaP・POP)と、ステアリン酸を中心とした組み合わせ(SSS・SLaS・SOS)の2種類です。

測定には、温度変化に伴う熱の出入りから結晶化や融解をとらえる示差走査熱量測定(DSC)と、X線の散乱から結晶の並び方や構造を調べる小角・広角X線散乱(SAXS/WAXS)を使いました。試料は冷却中と、その後一定温度で短時間保持する間に分析し、複数の成分がいっしょに結晶をつくる初期段階の違いをとらえることを狙いました。

主な結果

脂肪の結晶には、分子の詰まり方が異なる複数の型があり、α、β′、βと呼ばれます。論文によると、どの試料でも結晶化は一度で終わらず、何段階かを経て進みました。市販ブレンドでは、α型が長く残り、β′型やβ型と同時に存在していました。β′型は1種類ではなく複数あり、それぞれ組成と溶ける温度が異なっていました。一方、モデルブレンドでは、α型はすぐに消え、その後しばらくしてからβ型へと結晶が組み替わりました。

H3を8%含むブレンドでは、β型への組み替わりが強く起こりました。著者らはこれを、H3の量が、H2Mなど他のグループといっしょに混ざった結晶をつくれる限度を超えていたことを示すものと解釈しています。また、ステアリン酸を主とする系では、β型への移行が遅くなりました。

H3の量の影響は、パルミチン酸を主とする系でより大きく表れました。パルミチン酸を主としH3を4%含む市販ブレンドでは、β型が見られませんでした。このことから研究チームは、主となる飽和脂肪酸の種類とH3の量という2つの要因は、互いに関係し合っていると述べています。

モデルブレンドの結晶化と融解の振る舞いは比較的単純で、X線散乱の結果では市販ブレンドと大きく異なっていました。

この研究が示すこと

研究チームは、油脂の結晶化を考えるうえで、トリグリセリドの組成を単純化することには難しさがあると強調しています。それでも、工業用油脂の結晶化を主要なトリグリセリドのグループに分けて考える方法は、その仕組みを理解するうえで役立つことが示されたとしています。

原著論文の著者・所属:Julia Seilert(Technische Universität Berlin , , Straße des 17. Juni 135 , ,)、Hanna Roenneke(Technische Universität Berlin , , Straße des 17. Juni 135 , ,)、Brian R. Pauw(Federal Institute for Materials Research and Testing (BAM) , Unter den Eichen 87 , ,)、Georg Dol(Flora Food Group B.V. , , Bronland 18 , ,)、Eckhard Flöter(Technische Universität Berlin , , Straße des 17. Juni 135 , ,)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Julia Seilert, Hanna Roenneke, Brian R. Pauw, et al. Crystallization Kinetics in Industrial Fats: The Effect of Substituting Stearic Acid for Palmitic Acid in Fats Containing Lauric Acid. Crystal Growth & Design 2026-08-10. DOI: 10.1021/acs.cgd.6c00218. 原著ライセンス:CC BY.