この研究は、ブラジル、フランスの研究機関の研究論文です。

掲載誌:International Dairy Journal

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

乳糖分解粉乳が抱える製造上の課題

乳糖を消化しにくい人に向けて、乳糖をあらかじめ分解した乳製品が作られています。ただし、こうした牛乳を噴霧乾燥して粉乳にする工程には難しさがあります。乳糖を分解すると、ブドウ糖とガラクトースという二つの小さな糖ができます。これらの糖は反応しやすく、乾燥した粉の状態でも柔らかくなりやすい性質があります。

そのため、糖とたんぱく質が反応して色が茶色くなる「メイラード反応」が進みやすくなります。メイラード反応が進むと、褐変が強まり、栄養価が損なわれます。粉が吸湿して乾燥装置に付着するといった問題も起こります。

研究チームが注目したのは、トランスグルタミナーゼ(TGase)という酵素です。この酵素は、乳たんぱく質、主にカゼイン同士を共有結合でつなぎ合わせます。このとき、メイラード反応の初期段階で糖と反応するアミノ酸「リシン」が結合に使われます。そのため、糖と反応できるリシンが減る可能性があると考えられてきました。

一方で、TGaseを加えた乳糖分解脱脂乳で、反応の指標物質が予想に反して増えたという先行報告もありました。このように結果が食い違っていたことから、著者らは乳糖分解全粉乳を対象に、TGaseと水溶性食物繊維がメイラード反応と粉の物性に与える影響を調べました。

6通りの粉乳を作って比較

研究チームは、市販の全粉乳を水に戻して固形分約40%の濃縮乳とし、6通りの処理をしました。内訳は、何も加えない対照、水溶性食物繊維(ポリデキストロース)の添加、TGaseの添加の3種類です。さらに、それぞれに乳糖分解酵素ラクターゼを組み合わせて乳糖を分解した3種類を作りました。TGaseを使う場合は、ラクターゼより先に加えて反応させています。

すべての試料は、パイロット規模の噴霧乾燥機で粉末にしました。そのうえで、たんぱく質のつながり具合、溶かしたときの粒子の大きさ、電子顕微鏡で見た粉の形を調べました。

メイラード反応の進み具合は、反応の途中でできる化合物5-ヒドロキシメチルフルフラール(HMF)などを指標にして評価しました。あわせて色の変化も測定しました。保存試験は二つ行いました。一つは室温(22℃)で5か月保存する試験です。もう一つは、劣化を早めるために50℃で16日間保存する試験です。

主な結果

乳糖を分解した粉乳は、乾燥装置への付着が多くなりました。乳糖分解だけの粉乳と、食物繊維を加えた乳糖分解粉乳は、見た目にも黄色みが強くなりました。一方、TGaseを加えた乳糖分解粉乳では、黄色みは比較的弱く抑えられていました。

TGaseを加えた試料では、電気泳動で分子量の大きなたんぱく質の帯が現れました。これは、たんぱく質同士がつながったことを示しています。たんぱく質がつながって大きな分子になった割合(重合度)は約18%でした。TGaseを加えない試料より約10ポイント高い値でしたが、著者らはつながりの程度は限定的だったと評価しています。

製造直後のHMF量について、TGaseを加えた乳糖分解粉乳は、乳糖を分解していない対照と統計的に差がない低い水準でした。乳糖分解だけの粉乳と、食物繊維を加えた乳糖分解粉乳より少ない値です。

室温で5か月保存した後も、乳糖を分解した粉乳はHMF量と褐変が大きくなりました。その中で、TGaseを加えた試料はHMF量と褐変の程度がともに低くなりました。50℃での加速保存では、乳糖を分解した粉乳が、分解していない粉乳よりも強く褐変しました。

粒子については、乳糖を分解した粉乳は水に溶かしたときの粒子が大きくなりました。顕微鏡でも粒子どうしが固まった様子が見られました。食物繊維を加えた粉乳は粒子がばらばらで、大きさもそろう傾向がありました。ただし、製造直後のHMF量は多く、褐変を抑える効果は見られませんでした。著者らは、食物繊維の原料に残っていた還元糖が影響した可能性を挙げています。

研究が示すこと

この研究は、乳糖を分解する前にTGaseでたんぱく質をつないでおく方法を検証したものです。その結果、乳糖分解全粉乳でHMFの生成と保存中の褐変を抑えられる可能性が示されました。著者らは、たんぱく質のつながりによって糖と反応できるリシンが減ることを仮説として挙げています。また、先行研究と結果が異なった理由は、酵素を加える順番の違いにあると考えています。

一方、水溶性食物繊維には、今回調べた条件では褐変やHMFを抑える効果は見られませんでした。乳糖分解粉乳の品質を保つ手段として、酵素によるたんぱく質の改変が有望な選択肢の一つになり得ることを示した研究です。

著者:Jaqueline de Almeida Celestino(Department of Chemistry , Federal University of Juiz de Fora , 36036-330 , Juiz de Fora , MG , Brazil;)、Annanda Carvalho Rodrigues(Department of Pharmaceutical Sciences, Faculty of Pharmacy, Federal University of Juiz de Fora, 36036-330, Juiz de Fora, MG, Brazil)、Laís Argemiro da Silva(Department of Pharmaceutical Sciences , Faculty of Pharmacy , Federal University of Juiz de Fora , 36036-330 , Juiz de Fora , MG , Brazil;)、Carolina Neves Cunha(Department of Pharmaceutical Sciences, Faculty of Pharmacy, Federal University of Juiz de Fora, 36036-330, Juiz de Fora, MG, Brazil)、Jeehyun Lee(UMR-STLO, INRAE, Institut Agro, 35042, Rennes, France)、Gaëlle Tanguy(UMR-STLO, INRAE, Institut Agro, 35042, Rennes, France)、Emeline Goussé(UMR-STLO, INRAE, Institut Agro, 35042, Rennes, France)、Cécile Le Floch‐Fouéré(UMR-STLO , INRAE , Institut Agro , 35042 , Rennes , France)、Rodrigo Stephani(Department of Chemistry, Federal University of Juiz de Fora, 36036-330, Juiz de Fora, MG, Brazil)、Ítalo Tuler Perrone(Department of Pharmaceutical Sciences, Faculty of Pharmacy, Federal University of Juiz de Fora, 36036-330, Juiz de Fora, MG, Brazil)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Jaqueline de Almeida Celestino, Annanda Carvalho Rodrigues, Laís Argemiro da Silva, et al. Effects of transglutaminase and soluble fibers on the properties of hydrolyzed milk powders. International Dairy Journal 2026-09-29. DOI: 10.1016/j.idairyj.2026.106851. 原著ライセンス:CC BY.