日本主導:この研究は、筆頭著者・責任著者、または著者の主要所属が日本の研究機関である研究です。

掲載誌:npj Aging

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

何を目的とした研究か

加齢とともに体内で減っていくと考えられている補酵素NAD⁺(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)は、エネルギー代謝やDNA修復など多くの生命活動に関わります。その材料となる物質がNMN(ニコチンアミドモノヌクレオチド)で、ビタミンB3の派生物として、ブロッコリーやキュウリ、枝豆などにわずかに含まれ、ヒトを含む哺乳類の体内にも存在します。動物実験では、NMNを与えて組織や血中のNAD⁺を増やすことで加齢関連の病態が改善したという報告があります。

一方で著者らは、ヒトでのデータは限られていると指摘しています。これまでのヒト試験は投与期間が短く参加者も少ないものが多く、高用量・長期の摂取が安全なのか、効果があるのかは十分に確かめられていませんでした。著者らは以前、1日250 mgのNMNを6〜12週間摂取した研究で、健康な高齢男性の血中NAD⁺が上がり、歩行速度や握力といった身体機能の一部が改善したと報告しています。今回の試験は、より高い用量を長く続けた場合に血中NAD⁺が持続的に増えるのか、また身体や代謝の指標に変化が生じるのかを調べる目的で実施されました。

どのように調べたか

研究チームは、プラセボ(見た目が同じで有効成分を含まない対照品)を用いた無作為化・二重盲検・並行群間比較試験を行いました。参加者をくじ引きのように無作為に2群へ振り分け、本人も評価する側もどちらを摂取しているか分からない状態で進める方法で、思い込みによる偏りを避ける狙いがあります。

対象は65歳以上の男女です。84人が同意して適格性の審査を受け、既往歴や検査値の異常などの理由で22人が除外され、1人が登録前に同意を撤回し、残る62人がNMN群(1日1250 mg)とプラセボ群に割り付けられました。摂取期間は24週間で、58人が最後まで完了しています。1250 mg/日という量は、短期間ならヒトで良好に耐えられると既に示されていた用量域の上限にあたる、高いが根拠のある用量として選ばれたと説明されています。

主要評価項目(あらかじめ中心に据えた指標)は、500・1000・2000・4000 Hzの平均で表した純音聴力の、開始時から24週後までの変化でした。NAD⁺やその関連物質と聴力との関わりを示す自らの報告を踏まえた設定です。このほか、全血を対象としたメタボローム解析(LC-MS/MSによる代謝物の一括測定)でNAD⁺関連物質を測り、握力・歩行速度・30秒椅子立ち上がりテストなどの身体機能、体組成、脂質・糖代謝、食行動の質問票、安全性に関わる検査値も評価しています。

報告された主な結果

最も明確だったのは代謝物の変化です。24週間の高用量NMN摂取により、全血のNAD⁺はプラセボと比べて有意に増加し、考察では約3.6倍の増加と報告されています。NMN自体、ニコチンアミド(NAM)、ニコチン酸リボシド(NAR)、ニコチン酸モノヌクレオチド(NAMN)、ニコチン酸アデニンジヌクレオチド(NAAD)も有意に増えました。一方、ニコチンアミドリボシド(NR)には有意な変化がみられませんでした。著者らは、NAやNAMN、NAADの増加は、NAD⁺合成経路のうちプライス–ハンドラー経路の活性化、あるいは腸内細菌によるNMNからNAへの変換を示している可能性があると述べています。ただし今回のデータだけではどの経路が主要かは断定できず、安定同位体トレーサー試験のような手法が必要だとしています。

主要評価項目である聴力では、群間の差は認められませんでした。握力、歩行速度、30秒椅子立ち上がりテスト、6分間歩行といった身体機能や心肺機能にも、NMNによる有意な差はみられませんでした。

体組成では、生体電気インピーダンス法で測った軟部除脂肪量(体重から体脂肪と骨を除いた、筋肉・水分・タンパク質からなる部分で、ほぼ筋肉量に相当するとされます)がNMN群で増加し、右腕の部位別除脂肪量も有意に増えました。脂質関連では、71歳以上でHDLコレステロールの増加、70歳以下で総コレステロールの低下がみられ、食行動質問票では合計点や「食べ方」などの得点が低下しました。ただし著者らは、これらは多重比較の補正後には有意でなくなったため探索的な所見として慎重に解釈すべきだと明記しています。血糖やHbA1cには影響がみられず、アディポネクチンなどの代謝ホルモンにも有意な増加はありませんでした。

安全性については、服薬遵守率が高く(NMN群97.3%、プラセボ群95.8%)、NMNと因果関係のある重篤な有害事象は起きませんでした。有害事象はNMN群31人中7人(22.6%)、プラセボ群29人中6人(20.7%)で報告されています。NMN群では無症状の肝酵素(ALT/AST)上昇により1人が6週時点で中止しましたが、この参加者は登録前から軽度の肝機能検査異常があり、中止後6週間の追跡で値は安定していたため、著者らはNMNとの因果関係は考えにくいとしつつ、可能性を完全には排除できないと述べています。血小板数、総タンパク、カリウムに有意な低下がみられた項目もありますが、いずれも基準範囲内で臨床的意義は乏しいと判断されました。

この研究が示すこと

著者らの結論は明快です。1日1250 mgのNMNを24週間続けると、血中のNAD⁺および関連代謝物は確実かつ持続的に増え、体内のNAD⁺代謝を実際に押し上げることができる。この点で、NMNがNAD⁺の材料として働くという臨床的な裏づけは強まりました。同時に、経口摂取したNMNが複数の代謝経路を通ってNAD⁺合成に寄与している可能性も示されています。

しかし、NAD⁺が増えたことが聴力や筋力、代謝といった体の働きの改善につながるという証拠は、この試験では限られたままでした。生理・機能面の評価項目はいずれも多重比較の補正後に統計的有意性を保たなかったと著者らは述べています。「材料を増やせば体内の量は増える」ことと「量が増えれば機能が良くなる」ことは別の問題であり、前者は示され後者は未解明であるという整理が、この研究から読み取れる要点です。また著者らは、前駆体を増やしてもNAD⁺が比例して増えるわけではなく、高用量では効率が落ちる飽和点の存在が示唆されるとして、NAD⁺代謝が体内で厳密に調節されていることにも言及しています。

著者:Masaki Igarashi(Department of Diabetes & Metabolic Diseases, Graduate School of Medicine, The University of Tokyo, Tokyo, Japan)、Kyoko Naruse(Department of Diabetes & Metabolic Diseases, Graduate School of Medicine, The University of Tokyo, Tokyo, Japan)、Yuriko Takaoka(Hiratsuka City Hospital, Kanagawa, Japan)、Masaomi Miura(Department of Diabetes & Metabolic Diseases, Graduate School of Medicine, The University of Tokyo, Tokyo, Japan)、Kosuke Kashiwabara(Data Science Office, Clinical Research Promotion Center, The University of Tokyo Hospital, Tokyo, Japan)、Mika Sawada(Department of Clinical Nutrition Therapy, The University of Tokyo Hospital, The University of Tokyo, Tokyo, Japan)、Rie Sekine(Department of Clinical Nutrition Therapy, The University of Tokyo Hospital, The University of Tokyo, Tokyo, Japan)、Naoto Kubota(Department of Diabetes & Metabolic Diseases, Graduate School of Medicine, The University of Tokyo, Tokyo, Japan)、Motoo Suzuki(MIRAILAB BIOSCIENCE Inc., Tokyo, Japan)、Yuki Yoshida(MIRAILAB BIOSCIENCE Inc., Tokyo, Japan)、Noriaki Shimizu(MIRAILAB BIOSCIENCE Inc., Tokyo, Japan)、Keisuke Yaku(Department of Molecular and Medical Pharmacology, Faculty of Medicine, University of Toyama, Toyama, Japan)、Takashi Nakagawa(Department of Molecular and Medical Pharmacology, Faculty of Medicine, University of Toyama, Toyama, Japan)、Toshimasa Yamauchi(Department of Diabetes & Metabolic Diseases, Graduate School of Medicine, The University of Tokyo, Tokyo, Japan)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Masaki Igarashi, Kyoko Naruse, Yuriko Takaoka, et al. Sustained NAD⁺ augmentation by high-dose nicotinamide mononucleotide supplementation in older adults: a 24-week randomized, double-blind, placebo-controlled trial. npj Aging 2026-09-25. DOI: 10.1038/s41514-026-00482-7. 原著ライセンス:CC BY.