著者の所属・活動拠点の国は、アメリカです。
掲載誌:Frontiers in Public Health
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的:高齢者が「食の処方」を使いきれない問題
医療機関が、食料の確保に困っている患者に新鮮な野菜や果物を無料で提供する取り組みがあります。「食の処方(フードプリスクリプション)」と呼ばれ、食料不安(十分な食べ物を安定して手に入れられない状態)への対策として注目されています。しかし著者らによると、これまでの研究では、配られた引換券が実際にはあまり使われないことが、効果を損なう大きな要因になってきました。高齢者には、店や市場まで出かける移動手段がないといった特有の障壁もあります。
そこで研究チームは、引換券を受け取って移動販売の市場で野菜と交換する従来型の方式と、自宅に届ける2つの方式を比べ、高齢者がどれだけ利用するかを調べました。論文によると、開発当時、種類の異なる食の処方の利用状況を比べる無作為化比較試験は存在しなかったといいます。
何を調べたか:3つの方式を12週間比較
対象は、病院系列のプライマリケア(かかりつけ医)診療所に通う65歳以上の患者67人です。参加者は、受診時の簡単な質問で「お金が足りず食事を減らしたことがある」または「自宅近くで新鮮な野菜や果物を入手しにくい」と答えた人たちから選ばれました。参加者は3つのグループのいずれかにくじ引きのような方法(無作為化)で割り振られ、12週間、無料で食料を受け取りました。
1つ目は、内容を自由に変更できる生鮮野菜・果物の箱を毎週自宅に届けるグループです。2つ目は、同じ量の野菜・果物に加え、3品の料理を作るのに必要な食材とレシピをまとめた「ミールキット」を届けるグループです。3つ目は比較の基準となるグループで、地域でよく行われている方式にならい、移動販売の市場で使える週ごとの引換券を受け取りました。どのグループも、1人あたり週に約12皿分の野菜・果物に相当する量が用意され、調理器具も配られました。
宅配の2方式は、行動経済学の「デフォルト(初期設定)」の考え方に基づいて設計されています。何もしなければ標準の箱が自動的に届き、希望すれば中身を変えたり配達を休んだりできる仕組みです。手間を減らし、自然と利用が続くようにする狙いがあります。設計にあたっては、65歳以上の人や65歳以上の人を介護する人を対象に募った、地域住民14人による助言委員会の意見も取り入れました。
また、方式によって参加の意欲に違いが出るかも調べるため、各候補者には割り当てられた方式だけを説明し、ほかの方式は知らせませんでした。利用状況は、毎週の調査で参加者自身が報告しました。
主な結果:宅配で受け取り率が大きく上昇
参加条件を満たした候補者のうち、実際に参加を決めた人の割合は、野菜・果物の宅配で84.6%、ミールキットで88.5%、移動販売の市場で73.3%でした。たとえば市場の方式は41人に勧められ、そのうち11人は参加条件を満たさなかったため、条件を満たした30人のうち22人が参加したことになります。この参加率には、グループ間で統計的に意味のある差は認められませんでした。
大きな差が出たのは、食料を実際に受け取った割合です。12週間を通じた本人申告の受け取り率は、2つの宅配グループがいずれも89.2%だったのに対し、移動販売の市場グループは28.3%にとどまりました。12週のうち平均して何回受け取ったかでみると、宅配グループは約10.7回、市場グループは約3.4回です。配達業者などの記録では、宅配は平均11回あまり届けられていた一方、市場での受け取りが確認されたのは平均1.8回でした。
一方、受け取った人が食料をどれだけ使ったかには、グループ間で統計的な差がありませんでした。受け取った野菜・果物のうち家庭で使った割合は、どのグループも8割強でした。受け取り率と使用率を組み合わせ、本来受け取れた食料全体のうち実際に使われた割合を計算すると、野菜・果物の宅配で75.7%、ミールキットで77.7%、市場グループで24.9%となり、宅配グループが大きく上回りました。
この研究が示すこと
研究チームは当初、ミールキットはレシピと食材をそろえることで、野菜・果物の使用を市場グループより増やすと考えていました。しかし実際には、ミールキットでも受け取った食料の使用率は市場グループと変わりませんでした。著者らは、高齢者の食の処方の利用に最も大きく影響したのは「自宅に届けること」だったと結論づけています。
受け取った食料の使われ方はどの方式でも同程度だった一方、受け取りの段階で大きな差が生じていました。この結果は、高齢者向けの食の処方では、食料を確実に手元へ届ける仕組みが利用を左右することを示しています。
原著論文の著者・所属:Leone, Lucia A.(Department of Community Health and Health Behavior, University at Buffalo, United States)、Lally Mathiebe, Anne(Department of Community Health and Health Behavior, University at Buffalo, United States)、Stoll, Jennifer(Department of Family Medicine, Jacobs School of Medicine and Biomedical Sciences, University at Buffalo, United States)、Paluch, Rocco A.(Department of Pediatrics, Jacobs School of Medicine and Biomedical Sciences, University at Buffalo, United States)、Tirabassi, Jill N.(Department of Family Medicine, Jacobs School of Medicine and Biomedical Sciences, University at Buffalo, United States)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Leone, Lucia A., Lally Mathiebe, Anne, Stoll, Jennifer, et al. A randomized controlled study comparing three food prescription programs for older adults: program design, implementation, and utilization. Frontiers in Public Health 2026-09-24. DOI: 10.3389/fpubh.2026.1855988. 原著ライセンス:CC BY.