著者の所属・活動拠点の国は、ギリシャです。
掲載誌:Nutrients
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
高齢者はビタミンDが不足しやすいとされています。日光に当たる機会が減ること、皮膚でビタミンDをつくる力が衰えること、食事からの摂取が足りないこと、持病があることなどが理由に挙げられます。ビタミンD不足は、筋力の低下や身体機能の衰えとの関連が報告されてきました。
一方で、ビタミンDを補充すると高齢者の筋機能が良くなるのかについては、これまでの研究結果が一致していません。ギリシャの研究チームは、通常の診療の中でビタミンD補充を受けた高齢者を12か月間追跡しました。そして、補充が筋力や身体機能の変化と関連しているかを、比較グループと照らし合わせて調べました。
どのように調べたか
対象は、アテネの病院の外来に通う60歳以上の高齢者です。研究への参加が194人に決まり、追跡を終えた173人が解析の対象になりました。ビタミンDの状態は、血液中の25(OH)Dという物質の濃度で判定しました。これは体内のビタミンDの蓄えを示す指標です。
濃度が20 ng/mL未満の「欠乏」に当たる164人は、主治医の判断でビタミンD3(コレカルシフェロール)の補充を受けました。補充は週2万5000 IUから始め、30 ng/mLを超えることを目標に、診察のたびに量を調整しました。20〜29 ng/mLの「不足」に当たる30人は補充を受けずに経過をみることになり、比較グループとなりました。研究者がグループを割り振ったのではなく、治療の判断はすべて通常診療の中で行われた観察研究です。
主な評価項目は握力です。握力は筋力や加齢による筋肉の衰え(サルコペニア)の目安として使われます。ほかに3つの検査も行いました。1つ目は、椅子から立ち上がって3m歩き、戻って座るまでの時間を測る検査(TUG)です。2つ目は4mの歩行速度です。3つ目は、バランス、歩行、立ち座りを合わせて0〜12点で評価する検査(SPPB)です。測定担当者には、参加者がどちらのグループかを知らせませんでした。また、2つのグループは開始時点の状態が異なっていたため、その差を統計的に補正した比較も行いました。
主な結果
補充グループの血中25(OH)D濃度は、中央値で13.0 ng/mLから31.2 ng/mLへ上がりました。比較グループは24.00から26.25 ng/mLで、不足の範囲にとどまりました。追跡期間中、100 ng/mLを超えた人はおらず、補充に関連する有害事象も報告されていません。
握力は、補充グループで中央値16.2%増えました。比較グループの変化は中央値0%でした。開始時の握力の差を補正すると、12か月後の推定平均値は補充グループ31.41kg、比較グループ26.71kgで、統計的に明確な差がありました。
SPPBの点数は、補充グループではほぼ横ばいでした。一方、比較グループでは低下がみられ、1点以上下がった人は比較グループで29.6%、補充グループで6.2%でした。ただし、開始時点で両グループとも満点近い人が多く、改善の余地が小さかった点に著者らは注意を促しています。TUGの所要時間も、補充グループではほぼ変わらず、比較グループでは悪化しました。補正後の推定値は、補充グループ9.33秒、比較グループ11.07秒です。一方、歩行速度にはグループ間の差がみられませんでした。
研究が示すこと
著者らは、ビタミンD欠乏の高齢者で欠乏を補正することが、握力の向上や身体機能の低下が少ないことと関連していたと結論づけています。補充を受けなかったグループで機能の低下がみられたことは、未治療の不足が移動能力や自立に影響しうることを示唆するとしています。
ただし、この研究はランダムに割り振った試験ではありません。2つのグループはビタミンDの状態などが開始時点から異なり、比較グループも30人と少数でした。統計的な補正を行っても、他の要因の影響は完全には除けないと著者らは述べています。今回の結果は、補充が筋力を改善したという因果関係を証明するものではありません。通常診療の中でビタミンD欠乏を補正した高齢者に、筋機能の面で好ましい変化が伴っていたことを示す報告といえます。
原著論文の著者・所属:Christina Angelaki(1st Department of Propaedeutic Internal Medicine, Medical School, National and Kapodistrian University of Athens, Laiko General Hospital, 11527 Athens, Greece)、Vasiliki Mamakou(Department of Internal Medicine, Dromokaiteio Psychiatric Hospital, 12461 Athens, Greece)、Ioanna A. Anastasiou(1st Department of Propaedeutic Internal Medicine, Medical School, National and Kapodistrian University of Athens, Laiko General Hospital, 11527 Athens, Greece; Department of Pharmacology, National and Kapodistrian University of Athens, 11527 Athens, Greece)、Dimitrios Mourkogiannis(School of Naval Architecture and Marine Engineering, National Technical University of Athens, 15780 Athens, Greece)、Aristotelis Vathis(1st Department of Propaedeutic Internal Medicine, Medical School, National and Kapodistrian University of Athens, Laiko General Hospital, 11527 Athens, Greece)、Michael Angelakis(Postgraduate Programme “The Interaction Between the Immune System and Kidney Disease: Translational and Clinical Approach”, School of Medicine, Aristotle University, 54124 Thessaloniki, Greece)、Georgia Markou(2nd Department of Vascular Surgery, Medical School, National and Kapodistrian University of Athens, Laiko General Hospital, 11527 Athens, Greece)、Stavroula-Panagiota Lontou(1st Department of Internal Medicine, National and Kapodistrian University of Athens, Laiko General Hospital, 11527 Athens, Greece)、Konstantinos Makrilakis(1st Department of Propaedeutic Internal Medicine, Medical School, National and Kapodistrian University of Athens, Laiko General Hospital, 11527 Athens, Greece)、Alexander Kokkinos(1st Department of Propaedeutic Internal Medicine, Medical School, National and Kapodistrian University of Athens, Laiko General Hospital, 11527 Athens, Greece)、Nikolaos Tentolouris(1st Department of Propaedeutic Internal Medicine, Medical School, National and Kapodistrian University of Athens, Laiko General Hospital, 11527 Athens, Greece)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Christina Angelaki, Vasiliki Mamakou, Ioanna A. Anastasiou, et al. Vitamin D Supplementation and 12-Month Changes in Muscle Function and Physical Performance in Older Adults with Vitamin D Deficiency: A Prospective Observational Cohort Study. Nutrients 2026-07-31. DOI: 10.3390/nu18152477. 原著ライセンス:CC BY.