春、産卵のために沿岸へ押し寄せたにしんの大群で海が真っ白に染まる「群来(くき)」と呼ばれる光景があったとされています。とれる時期や場所によって春にしん・夏にしんがあり、8月は夏にしんの時季にあたります。かつて春にとれたにしんは干物の身欠きニシンにして保存され、晩秋のころに野菜と一緒に漬け込んだ「ニシン漬け」にして冬に食べていたといわれます。群来の記憶も、身欠きニシンの保存食としての知恵も、この魚がかつてどれほど身近な存在だったかを物語っています。
数の子をとるのに向くのは産卵期の春、身に脂がのっておいしいのは秋とされ、季節によって表情を変える魚でもあります。8月の夏にしんは、その中間にあたる時季の一尾といえそうです。選ぶときは、えらに血がにじんでいないものが新鮮の目安とされています。
脂の魚が運ぶ栄養
にしんは可食部100gあたり196kcal、たんぱく質17.4g(女性30〜49歳の推奨量50g/日の約35%にあたります)、脂質15.1gを含みます。脂質の割合が高めなのは、脂をたくわえて回遊する魚であることと関係しているようです。
その脂の中身を見ると、イコサペンタエン酸(EPA)が880mg、ドコサヘキサエン酸(DHA)が770mgと、n-3系の脂肪酸が中心を占めています。これらは魚由来の脂の代表格であるn-3系多価不飽和脂肪酸です。にしんの脂は、ただ多いだけでなくこうした成分で構成されている点が特徴といえます。
ビタミンDも22.0µgと多く、女性30〜49歳の目安量9.0µg/日を大きく上回ります。ビタミンDはカルシウムの吸収を促し、骨の形成に関わるとされる脂溶性ビタミンで、日光を浴びることでも体内でつくられる点が他の栄養素と少し違うところです。脂溶性のため油と一緒にとると吸収率が高まるともいわれ、油を使った調理と相性がよさそうです。なお、ビタミンDは耐容上限量が設定されている栄養素ですが、通常の一食量であれば心配はいらないとされています。
さらにビタミンB12も17.0µgと豊富です。目安量4.0µg/日と比べても高い値で、アミノ酸や核酸の代謝に関わり、赤血球の形成を助けるとされる栄養素です。EPA・DHA、ビタミンD、ビタミンB12と、脂の魚らしい顔ぶれが並んでいるのがにしんという魚の輪郭といえるでしょう。
夏はシンプルに塩焼きで
食べ方は、1尾のまま塩焼きにするのが代表的とされます。ほかに照り焼きやみそ煮、酢漬けにしたり、生のものはバター焼きや蒸し焼きにするなど、幅のある魚です。脂ののった身をそのまま味わえる塩焼きは、夏にしんを迎える最初の一皿として気負わずに楽しめます。油と相性のよいビタミンDのことも思い出しつつ、まずはシンプルな焼き物から手に取ってみてはいかがでしょうか。
※栄養素のはたらき・摂取基準については、厚生労働省「日本人の食事摂取基準」(ビタミンD・脂質・脂肪酸・ビタミンB12)を参照しています。
※本記事は特定の食品の効果・効能を示すものではありません。
※本記事は日本食品標準成分表(八訂)のデータ等をもとに作成しました。