この研究は、韓国の研究機関の研究論文です。
掲載誌:Frontiers in Plant Science
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的:油の「割合」と「量」の両方から変異の効果を確かめる
ダイズは世界で最も重要な油糧作物の一つで、その油の性質はおもに5種類の脂肪酸の比率で決まります。そのうち飽和脂肪酸のパルミチン酸を多く含む油は、酸化に強く、固形の油脂としての性質も持ちます。そのため、トランス脂肪酸を生じる部分水素添加をせずにマーガリンなどを作る用途が期待され、品種改良の目標の一つとされてきました。
植物の種子では、炭素数16のパルミチン酸の鎖を炭素数18へ伸ばす段階を、KASIIという酵素が担います。この酵素の働きが弱まると、パルミチン酸から先へ進みにくくなり、油に占めるパルミチン酸の割合が高まることが知られています。ダイズにはKASII-AとKASII-Bという2つの遺伝子があり、KASII-Aの変異のほうがパルミチン酸の割合をより大きく高めると報告されてきました。
研究チームによると、これまでの研究の多くは、脂肪酸の「組成」、つまり全脂肪酸に占める割合だけで変異の効果を評価してきました。しかし割合は相対的な値なので、ある脂肪酸が増えれば他は必ず減ります。そのため、種子1グラムあたりに実際にどれだけ蓄積しているかという「含量」の変化とは区別できません。そこで著者らは、韓国のダイズ品種「プンサンナムル」から化学変異原(EMS)処理で得られた、パルミチン酸の割合が高い変異系統PE1604を対象にしました。原因となる変異を特定し、その仕組みと遺伝的な効果を、割合と含量の両面から調べています。
変異の特定とタンパク質構造からの検討
研究チームは、PE1604のKASII-AとKASII-Bの遺伝子配列を調べました。その結果、KASII-B遺伝子のタンパク質をつくる部分には変化がない一方、KASII-A遺伝子には塩基がCからTへ1つ置き換わる変異が見つかりました。この変異により、酵素タンパク質の263番目のアミノ酸がロイシンからフェニルアラニンに変わります(L263Fと表記)。この位置のロイシンは、マメ科11種のKASII-Aに相当するタンパク質のすべてで共通しており、構造上または機能上の制約がある位置と考えられるとしています。
次に、立体構造を予測するAI手法AlphaFold2で、元の酵素と変異型の酵素の立体構造モデルを作成しました。そのモデルを、大腸菌の同種酵素が基質を運ぶタンパク質と結合した状態の既知の構造と重ね合わせています。その結果、263番目の位置はタンパク質内部の、水になじみにくいアミノ酸が密に詰まった中心部分にあり、触媒として働くアミノ酸(240番目のシステイン、380番目と416番目のヒスチジン)や基質の通り道からは離れていると報告されました。全体の折りたたみ構造に目立った変化はなく、違いは263番目の周囲に限られていたといいます。
さらに、2種類の計算手法(FoldXとRosetta)で、置換がタンパク質の安定性に与える影響を予測しました。FoldXでは6.83 kcal/mol、Rosettaでは11.57 REU(Rosetta独自のエネルギー単位)の不安定化が示されました。FoldXの計算では、不利なエネルギー変化の約78%が、原子同士が近づきすぎて生じる反発(ファンデルワールス衝突)によるものでした。かさの大きいフェニルアラニンの環が周囲のアミノ酸と押し合い、詰まり方が乱れるという予測です。
交配集団で確かめたパルミチン酸の割合と含量
研究チームは、PE1604を元品種のプンサンナムル、および遺伝的背景の異なる品種「ソンプン」とそれぞれ交配し、得られた雑種第2代(F2)の種子を各150粒調べました。1粒ずつ粉砕して、同じ種子からKASII-Aの遺伝子型と脂肪酸を測っています。遺伝子型の比率は、メンデルの法則で期待される1:2:1に合っていました。
変異型の遺伝子を2つ持つ種子では、パルミチン酸の割合が明確に高くなりました。プンサンナムルとの交配集団では、正常型を2つ持つ種子の12.1%に対して変異型を2つ持つ種子は18.1%でした。ソンプンとの交配集団では11.7%に対して17.4%でした。正常型と変異型を1つずつ持つ種子は高くならず、劣性の変異として働くことが示されています。変異型を2つ持つ種子では、オレイン酸やリノール酸の割合が低くなっていました。
種子1グラムあたりの含量で見ると、交配相手の違いが反映されました。元の品種の脂肪酸総量は、ソンプンがプンサンナムルより多かったと報告されています。パルミチン酸含量は、ソンプンが約33.5 mg/gで、その交配集団の変異型を2つ持つ種子は51.9 mg/gでした。プンサンナムルは約23.1 mg/gで、その交配集団の対応する種子は38.2 mg/gでした。著者らは、変異型の種子のパルミチン酸含量が、元の品種間の含量の違いと並行していたと述べています。
研究が示すこと
著者らは、L263Fという1つのアミノ酸置換が、酵素の触媒部位を直接変えるのではなく、内部の詰まり方とタンパク質の安定性を変えることでKASII-Aに影響している可能性を示唆しています。ただし、この仕組みは構造予測と計算に基づく推定として示されたものです。
また、この変異によるパルミチン酸割合の上昇は、遺伝的背景の異なる2つの交配集団で一貫して見られました。一方、実際に種子にたまるパルミチン酸の量は交配相手の品種によって異なっていました。油の性質を変える遺伝子変異の育種上の価値を評価するには、割合だけでなく、種子あたりの量と組み合わせる品種の特性もあわせて見る必要があることを、この研究は示しています。
著者:Jiyoung Park(Department of Applied Biosciences, Kyungpook National University)、Kihwan Kim(Department of Applied Biosciences, Kyungpook National University)、Junseop Shin(Department of Applied Biosciences, Kyungpook National University)、Deokmoon Lee(Department of Applied Biosciences, Kyungpook National University)、Hyunsung Lee(Department of Applied Biosciences, Kyungpook National University)、Hyun Jo(Department of Applied Biosciences, Kyungpook National University)、Jong Tae Song(Department of Applied Biosciences, Kyungpook National University)、Wonchan Kim(Department of Applied Biosciences, Kyungpook National University)、Jeong-Dong Lee(Department of Applied Biosciences, Kyungpook National University)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Jiyoung Park, Kihwan Kim, Junseop Shin, et al. Integrated structural, computational, and genetic analyses link KASII-AL263F to increased palmitic acid composition and highlight its potential in soybean oil breeding. Frontiers in Plant Science 2026-10-12. DOI: 10.3389/fpls.2026.1983954. 原著ライセンス:CC BY.