著者の所属・活動拠点の国は、中国です。

掲載誌:Frontiers in Medicine

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

この総説が取り組んだ問い

脳性まひは、胎児期や乳児期の発達途中の脳が損傷を受けることで生じる、運動や姿勢の永続的な障害の総称です。脳の損傷そのものは進行しないとされていますが、子どもの成長とともに症状の現れ方は変わっていきます。また、飲み込みにくさ、胃食道逆流、便秘、栄養不良、てんかん、睡眠の乱れ、痛み、認知や行動の問題などを伴うことが多く、リハビリテーションの可能性や生活の質、家族の負担に大きく影響します。

一方で近年、腸内細菌と腸、脳が互いに信号をやり取りしているという「微生物叢・腸・脳軸」と呼ばれる考え方が注目されています。腸のバリア、粘膜の免疫、腸内細菌がつくる代謝物、腸や自律神経の神経回路、ホルモンを介した信号などが、脳の発達や炎症、ストレス反応、行動に関わるとする枠組みです。

著者らは、この分野の研究が便秘、食事、てんかんに伴う腸内細菌の変化、一般的な腸と脳の仕組みなどに分かれて行われ、脳性まひに特化して統合した整理が少ないことを課題として挙げました。そこでこの総説では、脳性まひの患者を対象とした臨床研究と、より広い神経発達や腸・脳研究から得られた仕組みに関する知見をまとめ、どの経路が目印(バイオマーカー)や症状の改善につながる要因、将来の治療標的になりうるかを整理しています。その際、確立された証拠と、生物学的にありうる仮説とを区別することを重視しています。

脳性まひでは脳の損傷が腸の変化を招きうる

著者らが強調するのは、脳性まひでは脳の損傷が先にあり、それが腸の側の変化を引き起こしうるという点です。脳の損傷は飲み込みの協調、腸の動き、排便に関わる筋肉の協調などを妨げることがあります。さらに、筋緊張の異常、動きの少なさ、水分不足、液状や形態を調整した食事、食物繊維の不足、抗てんかん薬や抗生物質の使用、介助に頼る日常生活などが重なり、腸内細菌のバランスの乱れ(ディスバイオシス)につながる可能性があると論文は述べています。そのため、腸内細菌の乱れを単独で起きる一次的な出来事とみなすべきではないとしています。

口の中の環境にも注目しています。よだれ、噛む力の低下、歯みがきを介助者に頼ること、炭水化物の多い食事などにより、むし歯や歯肉炎が起こりやすくなります。口の炎症や細菌を飲み込み続けることが腸内環境に影響しうるため、便だけでなく口の細菌や歯の状態、食べ方も含めて評価すべきだと提案しています。

仕組みの面では、腸のバリアが弱まって細菌由来の物質が血中に入り全身の炎症を高める経路、腸内細菌がつくる短鎖脂肪酸(食物繊維の発酵でできる酢酸・プロピオン酸・酪酸など)の不足、脳の免疫細胞であるミクログリアの過剰な活性化、トリプトファンというアミノ酸の代謝の偏り、迷走神経やストレスホルモン系を介した信号などが挙げられています。ただし著者らは、これらの多くが動物実験や脳性まひ以外の研究から推測されたものであり、脳性まひの子どもで因果関係が示されたわけではないと、各経路ごとに明記しています。

脳性まひ患者を対象とした研究で報告されていること

脳性まひとてんかんのある子どもを対象とした研究では、腸内細菌のバランスの乱れや、免疫・神経発達に関わる代謝の変化が報告されており、てんかんを併せ持つ場合に変化がより目立つ可能性も示されています。また、液状の食事をとっている子どもでは、食物繊維を発酵させ短鎖脂肪酸をつくる細菌の一部が少なく、別の一部の細菌が多いことが報告され、これらは便秘や栄養状態とも関連していました。さらに、家族を中心としたケアが、より好ましい腸内細菌の特徴と関連していたという研究も紹介されています。

一方で著者らは、報告されている細菌の種類のパターンは研究間で十分に一致しておらず、脳性まひに特有の再現性のある腸内細菌の特徴を定めるには至っていないと評価しています。対象者の選び方、比較対象、便通の状態、食事、薬、解析方法の違いによって結果が変わりうるためです。研究の多くは小規模で、ある一時点だけを調べる横断研究であることから、脳の損傷が腸内細菌の乱れを招くのか、乱れが症状を悪化させるのか、あるいは両方なのかは判断できないとしています。

介入については、便秘のある脳性まひの子どもを対象とした二重盲検ランダム化比較試験で、乳酸菌の一種(Lactobacillus reuteri DSM 17938)やアガベ由来のイヌリン(食物繊維の一種)が排便時の痛みや便の滞留など一部の指標を改善したことが報告されています。食物繊維とプロバイオティクスの併用が便秘を改善し、腸内細菌の構成の変化を伴ったという研究もあります。しかしこれらは小規模・短期間で、運動、認知、発作、長期的な発達の改善を示したものではないと著者らは述べています。便微生物移植については、効果が不確かなうえ倫理・安全面の課題が大きく、日常的な治療として示すべきではないとしています。

この総説が示す意味

著者らの結論は、腸内細菌・腸・脳のつながりという視点が、脳性まひの子どもに神経、消化器、免疫、栄養、行動の症状が絡み合って現れる理由を理解する枠組みになるというものです。ただし、これは脳性まひの原因を腸に移すものではなく、早期の脳損傷の上に重なる、変えうる可能性のある生物学的な層として位置づけるべきだとしています。

現時点の証拠では、食物繊維、プロバイオティクス、口腔ケア、栄養の最適化、便秘への対応、家族中心のケアといった取り組みは、主に便通や短期的な腸内細菌の変化について有望とされる段階にとどまります。神経や発達の改善につながるという証拠はまだ不十分であり、関連する指標や治療は、日常的な診断やリハビリテーションを決めるものではなく、補助的な研究上の手段にとどめるべきだと論文はまとめています。

原著論文の著者・所属:Fei Xie(Department of Neurosurgery, The Seventh Affiliated Hospital of Xinjiang Medical University, Urumqi)、Chao Bai(Cerebral Palsy Center in Neurosurgery, Second Affiliated Hospital of Xinjiang Medical University, Urumqi)、Jian Xu(Department of Neurosurgery, The Seventh Affiliated Hospital of Xinjiang Medical University, Urumqi)、Xinping Luan(Cerebral Palsy Center in Neurosurgery, Second Affiliated Hospital of Xinjiang Medical University, Urumqi)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Fei Xie, Chao Bai, Jian Xu, et al. Microbiota-gut-brain axis in cerebral palsy: from mechanisms to interventions. Frontiers in Medicine 2026-07-30. DOI: 10.3389/fmed.2026.1911417. 原著ライセンス:CC BY.