この研究は、中国の研究機関の研究論文です。

掲載誌:Journal of Animal Science and Biotechnology/Journal of animal science and biotechnology

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

何を確かめようとした研究か

豚肉は世界で最も広く食べられている肉の一つで、色や軟らかさ、風味、多汁性といった「食べたときの質」が消費者の選択を左右します。こうした性質は、筋肉内脂肪(サシ)の量や脂肪酸の組み合わせ、と畜後の筋肉のpHの変化など、肉そのものが持つ性質に大きく影響されると考えられています。

飼料に含まれるアミノ酸が肥育豚の肉質に影響することは、これまでにも報告されてきました。しかし研究チームによれば、芳香族アミノ酸の一種であるフェニルアラニンについては、家畜の肉質との関係を調べた研究はほとんどありません。一方で、ヒトやげっ歯類を対象とした分野では、フェニルアラニンが脂質の代謝に関わることや、腸内細菌の構成を変えることが報告されています。そこで著者らは、飼料中のフェニルアラニン量を変えたときに、豚肉の質、筋肉中の脂肪酸や遊離アミノ酸、腸内細菌、そして加熱時の香りのもとになる揮発性成分がどう変わるのかを調べました。

どのように調べたか

研究チームは、体重およそ84 kgの肥育豚96頭を4つの飼料区に分け、38日間飼育しました。飼料は、もう一つの必須アミノ酸であるリシンに対するフェニルアラニンの比(P/L比)が0.60、0.75、0.90、1.05になるように設計されました。0.60は飼養標準(NRC 2012)の推奨にあたる対照区で、残りの3区がフェニルアラニンを上積みした条件です。

試験終了後、と畜して枝肉の形質や肉質を測定したほか、胸最長筋(背中側のロース部分)を使って、水分や筋肉内脂肪の量、脂肪酸組成、遊離アミノ酸を分析しました。また、糞便から細菌のDNAを取り出して16S rRNA遺伝子の配列を読み、腸内細菌の構成を調べています。加熱した肉の香りに関わる揮発性有機化合物(VOC)は、ガスクロマトグラフィー質量分析で測定し、匂いのしきい値に対する濃度の比(OAV)が1を超える成分を「実際に匂いとして感じられる成分」として扱いました。なおVOCの比較は、脂肪酸組成の違いが対照区に対して最も大きかった0.75区と対照の0.60区の間で行われています。

報告された主な結果

枝肉の形質(歩留まりや背脂肪の厚さなど)には、飼料のP/L比による有意な影響は認められませんでした。一方、と畜45分後の筋肉pHと赤みの指標(a*値)は、P/L比の上昇に伴って二次的に(直線ではなく山型に)変化し、いずれも0.75区で最も高い値を示しました。著者らは、と畜直後のpHが高いことは、解糖が緩やかで乳酸の蓄積が少ないことを示すと説明しています。ただし保水性の指標であるドリップロスには統計的に有意な差はなく、本試験の条件では保水性への影響は限定的だったと述べられています。

筋肉中の遊離アミノ酸は、P/L比が上がるほど多くの種類が直線的に増加し、特に最も高い1.05区で、甘味・うま味・苦味に関わる多くのアミノ酸が対照区より有意に高くなりました。著者らはこれを、過剰なP/L比がアミノ酸代謝のバランスを乱し、遊離アミノ酸の量が増えた結果と解釈しています。脂肪酸では、P/L比を0.60から0.75に上げると、C8:0、C10:0、C22:6n3(DHA)、C24:1の割合が有意に増加しました。

腸内細菌については、豊かさを表すα多様性の指標(Ace指数、Chao指数)が0.75区で最も高くなりました。一方、群集全体の構成の違い(β多様性)には有意差はありませんでした。0.75区では複数の属の存在量が対照区と異なり、機能予測では脂肪酸代謝やプロピオン酸代謝に関わる経路が、対照区では糖の代謝に関わる経路が多く見られました。揮発性成分は全体で76種類が同定され、そのうち22種類がOAV 1を超えました。0.75区では複素環化合物が対照区より少なく、OAVが1を超える成分のうち2-ペンチルフラン(脂っぽい香り)とデカナール(バターのような香り)が低い値を示しています。

この研究が示すこと

著者らは、飼料のP/L比が去勢雄豚の肉質、遊離アミノ酸の構成、脂肪酸組成の変化と関連していたとまとめています。とくに0.75という比では、腸内細菌の多様性の指標が高まり、一部の脂肪酸が増え、揮発性成分の構成が変化しました。脂肪酸と揮発性成分の間には有意な相関が見られた一方、腸内細菌と香気成分の間に直接の関係は認められておらず、これらはあくまで関連であって因果関係が確かめられたわけではないと論文は注意を促しています。

また本研究の評価は去勢雄豚に限られ、実際に人が食べて評価する官能検査は行われていません。糞便の細菌叢は腸内の状態を間接的に反映するにとどまる点も、著者ら自身が限界として挙げています。それでも、これまでほとんど検討されてこなかったフェニルアラニンという一つのアミノ酸の配合比が、豚肉の性質と腸内細菌の両方に関わりうることを示した点に、この研究の意義があります。

著者:Mingyang Tan(State Key Laboratory of Animal Nutrition and Feeding, College of Animal Science and Technology, China Agricultural University, Beijing, 100193, China)、Zhenglei Shen(State Key Laboratory of Animal Nutrition and Feeding, College of Animal Science and Technology, China Agricultural University, Beijing, 100193, China)、Enfa Yan(State Key Laboratory of Animal Nutrition and Feeding, College of Animal Science and Technology, China Agricultural University, Beijing, 100193, China)、Boyang Wan(State Key Laboratory of Animal Nutrition and Feeding, College of Animal Science and Technology, China Agricultural University, Beijing, 100193, China)、Linjuan He(State Key Laboratory of Animal Nutrition and Feeding, College of Animal Science and Technology, China Agricultural University, Beijing, 100193, China)、Qiuyu Zeng(State Key Laboratory of Animal Nutrition and Feeding, College of Animal Science and Technology, China Agricultural University, Beijing, 100193, China)、Jingdong Yin(Molecular Design Breeding Frontier Science Center of the Ministry of Education (MOE), Beijing, 100193, China. [email protected])

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Mingyang Tan, Zhenglei Shen, Enfa Yan, et al. Effects of phenylalanine supplementation on meat fatty acid composition, gut microbiota, and pork volatile organic compound profile in finishing pigs. Journal of Animal Science and Biotechnology/Journal of animal science and biotechnology 2026-09-11. DOI: 10.1186/s40104-026-01496-7. 原著ライセンス:CC BY.