著者の所属・活動拠点の国は、中国です。
掲載誌:Foods
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
アーモンドから搾るオイルは、オレイン酸やリノール酸といった不飽和脂肪酸を多く含みます。搾る前に実を焙煎すると、油が出やすくなり、香ばしい香りも生まれます。一方で、焙煎が強すぎると油の酸化が進み、品質を損なうおそれがあります。そのため、どの程度焙煎すれば搾油量、香り、酸化しにくさのバランスが取れるのかが課題になります。
著者らによると、これまでの研究は色、抗酸化性、脂肪酸組成、香り成分などを個別に調べるものが中心でした。また、酸価や過酸化物価といった従来の酸化指標では、油全体の傾向は分かっても、どの脂質分子が変化したのかまでは分かりません。そこで研究チームは、焙煎時間がアーモンドオイルの品質、香りの形成、酸化に伴う脂質の変化にどう影響するかを、複数の分析を組み合わせて調べました。
何をどのように調べたか
研究チームは、アーモンドの実を130℃のオーブンで0分(未焙煎)、5分、10分、20分焙煎し、焙煎直後に圧搾してオイルを得ました。論文では、焙煎時間の順に「冷香」「軽香」「濃香」「醤香」の各グループと呼んでいます。これらは加工条件で付けた区分名で、正式な官能評価で決めた分類ではないと説明されています。
各オイルについて、搾油量、粘度、色、抗酸化に関わる能力、酸化の進み具合を示す指標、脂肪酸組成を測定しました。抗酸化に関わる能力は、ラジカルと呼ばれる反応性の高い分子を消す力などを測る3種類の試験(ABTS、DPPH、FRAP)で評価しました。酸化の指標には、遊離脂肪酸の増加を示す酸価、初期の酸化生成物を示す過酸化物価、さらに分解が進んだ段階の生成物を示すTBARS値を用いました。
香りについては、揮発性成分を短時間で網羅的に捉えるガスクロマトグラフィー–イオン移動度分析(GC-IMS)で59の成分シグナルを検出しました。さらに、香りへの寄与が過去の文献で裏付けられている成分を「陽性」とし、裏付けがない成分を「香りがない」とは決めつけずに「未分類」として扱う機械学習の手法(PU学習)を用い、香りの鍵となりうる候補成分の順位付けを試みました。研究チームは、これはあくまで候補の絞り込みであり、実際の香りへの寄与を直接確かめるものではないとしています。
また、60℃で15日間保管して酸化を速める処理を行い、未焙煎オイルの酸化前後、および未焙煎オイルと10分焙煎オイルを同じ酸化条件で比べました。脂質の分子レベルの変化は、脂質を網羅的に分析する手法(リピドミクス)で調べています。10分焙煎が選ばれたのは、搾油量が大きく増え、20分に延ばしてもそれ以上の増加がほとんど見られなかったためです。
主な結果
搾油量は、未焙煎の45.81%に対し、5分で48.20%、10分で50.00%、20分で50.34%と、焙煎時間が長いほど多くなりました。ただし、10分と20分の間には統計的に意味のある差はありませんでした。焙煎で実の水分はわずかに減りましたが、水分を除いた乾物量を基準にして計算し直しても、傾向は変わりませんでした。著者らは、もともと水分が少なく、条件間の差も小さかったことから、今回の条件では水分の減少による影響はごくわずかだったと見ています。むしろ、熱で実の組織が変化し、油が移動しやすくなったことが主な要因だった可能性を挙げています。
粘度は焙煎時間が長いほどわずかに高くなりました。平均値は、未焙煎で41.62 mPa·s、20分焙煎で44.22 mPa·sでした。ただし、流れ方の性質そのものは大きく変わらず、いずれのオイルも水のように単純な流れ方に近い状態を保っていました。色は焙煎時間とともに暗くなり、黄色みや赤みが強まりました。未焙煎オイルとの色の差は、5分で1.61、10分で2.51、20分で3.04と段階的に大きくなりました。黄色みは10分の段階でほぼ頭打ちになっていました。
抗酸化に関わる能力は、3つの試験すべてで焙煎時間とともに緩やかに低下しました。20分焙煎では未焙煎と比べ、ABTSで8.38%、DPPHで13.01%、FRAPで6.89%低くなりました。5分程度の軽い焙煎では、未焙煎との差は統計的に意味のある水準ではありませんでした。著者らは、熱に弱いトコフェロールやフェノール類などの成分が分解されたり消費されたりした可能性を挙げています。
酸価、過酸化物価、TBARS値はいずれも焙煎時間とともに上昇する傾向を示しました。たとえば酸価は、未焙煎の0.28 mg KOH/gから、10分と20分ではともに0.38 mg KOH/gになりました。ただし研究チームは、どの指標も絶対値は比較的低く、今回の加工条件で明らかな酸化劣化は起きていなかったと報告しています。
研究が示すこと
この研究から、アーモンドを130℃で焙煎すると、焙煎時間に応じて搾油量が増え、色も濃くなることが分かりました。一方で、抗酸化に関わる能力はやや下がり、酸化の指標はやや上がるという変化も同時に起きていました。さらに、搾油量の増加は10分程度で頭打ちになり、それ以上焙煎しても上積みはほとんど得られませんでした。
焙煎時間を延ばすほど良いわけではなく、搾油量、風味の形成、酸化に関わる品質を合わせて考える必要がある。著者らの報告は、このことを具体的な数値で示しています。なお著者らは、今回調べた焙煎温度は1種類だけであり、温度と時間それぞれの影響を完全には切り分けられていないと述べています。
原著論文の著者・所属:Shengjie Ding(College of Food Science and Pharmaceutics, Xinjiang Agricultural University, Urumqi 830002, China)、Liangli Chen(College of Food Science and Pharmaceutics, Xinjiang Agricultural University, Urumqi 830002, China)、Batuer Guliziba(College of Food Science and Pharmaceutics, Xinjiang Agricultural University, Urumqi 830002, China)、Yang Zhao(College of Food Science and Pharmaceutics, Xinjiang Agricultural University, Urumqi 830002, China)、Xingxing Deng(College of Food Science and Pharmaceutics, Xinjiang Agricultural University, Urumqi 830002, China; Xinjiang Tacheng Food and Drug Inspection Institute, Tacheng 834700, China)、Songyi Lin(National Engineering Research Center of Seafood, School of Food Science and Technology, Dalian Polytechnic University, Dalian 116034, China)、Zhiqiang Lu(College of Food Science and Pharmaceutics, Xinjiang Agricultural University, Urumqi 830002, China)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Shengjie Ding, Liangli Chen, Batuer Guliziba, et al. Roasting Time Shapes Quality Attributes, Aroma Formation and Oxidative Lipid Remodeling in Almond Oil. Foods 2026-08-14. DOI: 10.3390/foods15162842. 原著ライセンス:CC BY.