この研究は、ギリシャの研究機関の研究論文です。
掲載誌:Food and Bioprocess Technology
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
なぜこの総説が書かれたのか
牛乳などの乳製品は、味や食感のよさ、発酵による利点から長く親しまれてきました。一方で著者らは、乳製品が温室効果ガスの排出や土地・水の使用といった環境面の負担を伴う点を指摘しています。乳タンパク質はアミノ酸の組成がすぐれ、消化されやすく、加工のうえでも扱いやすい素材ですが、環境面の課題が残ります。逆に植物タンパク質は資源の効率がよい反面、乳製品に求められる加工特性や風味、栄養の一部が足りないことがあるとされています。
そこで注目されているのが「ハイブリッド乳製品」です。これは乳製品を完全に植物由来の原料へ置き換えるのではなく、乳タンパク質の一部を植物タンパク質に置き換えた製品を指します。著者らはこれを二つの食品体系をつなぐ「橋渡し」と位置づけています。
著者らによると、これまでの総説はヨーグルトやチーズといった単一の製品、あるいは単一の植物タンパク質源に焦点を絞ったものが多く、複数の乳製品と複数の植物タンパク質源を同時に見渡した整理が不足していました。この総説の目的は、豆類・穀類・種実類・微細藻類に由来する植物タンパク質を、ヨーグルト・チーズ・アイスクリームへ用いた研究を横断的に見渡し、従来の乳製品と比べて何が変わるのか、その理由として何が考えられるのか、そして利点と課題を整理することだとされています。
何を取り上げ、どう整理したか
著者らが扱った対象は、乳タンパク質を植物タンパク質の「分離物」または「濃縮物」で部分的に置き換えた製品です。ここで分離物とはタンパク質含量をおよそ80〜90%以上まで高めたもの、濃縮物は50〜60%以上のもので、精製をほとんど行わない「粉(フラワー)」はタンパク質含量が最も低いと説明されています。著者らは、この純度の違いが機能性にも関わり、分離物は乳化やゲル化の性質と溶けやすさにすぐれ、濃縮物や粉は糖質や食物繊維が多いためタンパク質が溶けにくく、保水力や食感に影響すると述べています。
整理の軸として選ばれたのは、組成と栄養、食感と微細構造(顕微鏡レベルの組織のつくり)、発酵と微生物のふるまい、色、そして官能(味や見た目の評価)です。植物側の素材としては、エンドウ、ダイズ、リョクトウ、ソラマメ、ヒヨコマメ、コメ、アーモンド、カボチャの種、アサ(ヘンプ)、ルピナスなどに加え、微細藻類のスピルリナ(Arthrospira platensis)とクロレラ(Chlorella vulgaris)が取り上げられています。微細藻類については、乾燥重量あたりのタンパク質含量が23〜63%、報告によっては70%に達し、必須アミノ酸が全体の30〜50%を占め、消化率はクロレラで70〜80%、スピルリナで80〜90%とされています。ただし著者らは、抽出コストの高さが大規模な利用を妨げていると述べています。
報告されている主な変化
ヨーグルトでは、乳タンパク質を植物タンパク質に置き換えると酸度が上がる報告が多い一方、エンドウタンパク質を25%置き換えた例では酸度に変化が見られなかったとされています。著者らはこの違いを、素材ごとの緩衝能(pHの変化に抵抗する力)の差によるものとして説明しています。緩衝能はタンパク質のアミノ酸側鎖やリン酸などのミネラルの量に左右され、素材によって同じようには働きません。緩衝能が低い微細藻類の場合は、乳酸菌の成長を支えるアミノ酸・ビタミン・ミネラルの供給と相まって、発酵中の酸性化が速まり、より低いpHになると報告されています。
保水力(水を保つ力)については、素材と置き換えの割合で方向が分かれます。焙煎ヒヨコマメ粉を増やすと保水力は高まり、著者らはこれを食物繊維やデンプンの存在、とくにデンプンが糊化して水を網目のなかに抱え込む働きによるものと説明しています。一方、エンドウやコメのように高度に精製されたタンパク質では、置き換えの割合が高いと保水力が下がる傾向があり、糖質が少ないこととカゼインのゲル網目のつながりを妨げることが理由として挙げられています。粘度や硬さも素材ごとに異なり、ルピナス粉や焙煎ヒヨコマメ粉、高濃度のスピルリナでは粘度が上がる一方、エンドウタンパク質の25%・50%置き換えやコメタンパク質では粘度や口当たりの濃さが下がったと報告されています。
著者らは、こうした違いの背景として分子レベルでのふるまいの差を挙げています。従来のヨーグルトのゲルは、酸によってカゼインミセルが集まり、熱で変性した乳清タンパク質と結びつくことで形づくられます。ダイズやリョクトウのタンパク質はこの網目に疎水性の結びつきや水素結合を介して組み込まれますが、コメタンパク質は乳清タンパク質とほとんど相互作用せず、網目のつなぎ目を乱して弱くもろい構造になりうるとされています。エンドウタンパク質の集合体は、網目づくりに加わらない「不活性な充填材」のようにふるまうという報告も紹介されています。置き換えの割合が高い場合、ゲルは孔が大きく不均一になる傾向があるとまとめられています。
チーズでは、植物タンパク質を加えると水分含量が下がり、pHや全固形分、歩留まりは低く、離水と酸度は高くなるという報告が紹介されています。硬さは下がる傾向が全体として見られ、保水の増加とカゼインミセルの乱れによる弱いゲルが理由として挙げられます。弾力性、凝集性、咀嚼性、復元性も下がる報告があり、カゼイン含量の低下と水分の増加、カゼイン同士の結合の減少が関わるとされています。ただし置き換えを限られた量にとどめた加工チーズでは硬さや咀嚼性が増す例もあり、素材ごとの差も大きく、リョクトウタンパク質分離物は乳製品に近いふるまいを示し、エンドウタンパク質分離物は構造上の弱さをもたらしたと報告されています。
アイスクリームでは、植物タンパク質の分離物や濃縮物を加えると、それら自体のpHが高いことから製品のpHが上がり酸度が下がる報告があります。凍結時に空気が入る量(オーバーラン)は、多く加えた場合は粘度の高いゲルが空気の取り込みを妨げて減りますが、少量の添加では植物タンパク質の泡立ちの性質によって増えた例もあります。溶けにくさは高まる傾向があり、粘度の上昇、水を抱え込む安定したゲル網目、そして氷の結晶が小さく数多くなって溶けた液の流れをさえぎることが理由として説明されています。
発酵と微生物の面では、置き換えの割合が高いと発酵時間が長くなる報告がある一方、エンドウタンパク質を25%・50%置き換えても乳糖の代謝に影響はなかったとされています。ダイズ飲料を加えた場合は酸性化が速まった報告もあります。安全性と機能性については、通常のヨーグルトとハイブリッドヨーグルトのいずれも冷蔵30日間にわたって乳酸菌が1グラムあたり10の7乗CFUを超える水準を保ち、プロバイオティクスとしての働きが確保されたと紹介されています。スピルリナやクロレラを加えた場合もスターター菌の生存が保たれ、各種のハイブリッド製品は微生物の安全基準の範囲内で病原菌がなく、酵母・カビも基準値を下回ったと報告されています。
色についても明確な変化が報告されています。スピルリナを増やすとヨーグルトは緑がかった褐色に変わり、0.25%の添加でも明度・赤み・黄みの各指標が下がって緑寄りになったとされ、クロロフィルの存在が理由として挙げられています。焙煎ヒヨコマメ粉では明度が下がり赤みと黄みが増しました。チーズでは明度が下がる変化が中心で、リョクトウタンパク質分離物が乳製品の色に最も近く、エンドウタンパク質分離物では差が目立ったと報告されています。アイスクリームでは、植物タンパク質に含まれるアミン化合物が加熱時のメイラード反応を進めることで明度が下がり暗くなるとされていますが、少量の添加では明度に有意な変化は見られなかった例もあります。抗酸化性の評価は主に微細藻類を加えた研究に限られ、スピルリナの添加量が多いほど抗酸化性が高く、チーズでは保存21日後にいっそう強い効果が見られたと紹介されています。
この総説から読み取れること
著者らの整理が示しているのは、乳タンパク質の一部を植物タンパク質に置き換えたとき、変化の方向と大きさが「どの植物タンパク質か」「どれだけ置き換えるか」「どの純度の素材か」「どのスターター菌を使うか」によって決まり、ひとつの答えにまとまらないということです。酸度や保水力、硬さ、色のそれぞれについて、増える報告と減る報告が素材ごとに並び、その背景には緩衝能やゲル網目への組み込まれ方といった分子レベルの違いがあると説明されています。
同時に、どの植物タンパク質がどの製品にどう効くのかという対応関係は、まだ素材と製品ごとに個別の報告が積み重なっている段階です。著者らは、色の知覚とタンパク質組成や加工技術との結びつきについて、さらなる研究が必要だと指摘しています。複数の乳製品と複数の植物タンパク質源を同じ枠組みで見渡したこの整理は、乳と植物という二つの素材を組み合わせるうえで、どこで折り合いをつける必要があるのかを一覧できる形にしたものといえます。
著者:Eleni Sakadani(https://ror.org/01xm4n520 grid.449127.d 0000 0001 1412 7238 Department of Food Science and Technology Ionian University 28100 Argostoli Greece)、Panagiotis Kandylis(https://ror.org/01xm4n520 grid.449127.d 0000 0001 1412 7238 Department of Food Science and Technology Ionian University 28100 Argostoli Greece)、Dimitra Dimitrellou(https://ror.org/01xm4n520 grid.449127.d 0000 0001 1412 7238 Department of Food Science and Technology Ionian University 28100 Argostoli Greece)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Eleni Sakadani, Panagiotis Kandylis, Dimitra Dimitrellou. Effect of Dairy-Plant Protein Combinations on Functional Properties, Microstructure, Nutritional, and Sensory Quality of Hybrid Dairy Products. Food and Bioprocess Technology 2026-09-01. DOI: 10.1007/s11947-026-04547-z. 原著ライセンス:CC BY.