この研究は、イタリア、ハンガリーの研究機関の研究論文です。
掲載誌:Applied Food Research
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
捨てられてきた熟成肉の外皮を食材として生かせるか
ドライエイジング(乾燥熟成)は、包装しない牛肉を温度・湿度・風量を管理した冷蔵環境に置いて熟成させる伝統的な方法です。うま味が凝縮し、ナッツやローストを思わせる香りが生まれるため、高級品として扱われます。一方で、熟成中に水分が抜けて重量が減るうえ、表面には乾燥と微生物の働きで硬く黒っぽい「外皮(クラスト)」ができます。この外皮は通常、販売前に切り落とされます。研究チームが引用した先行報告によると、水分の減少で売れる量は約6〜15%減り、外皮を除くことでさらに約3〜24%が失われます。これが熟成肉が高価になる一因です。
外皮には、水分が抜けた分だけたんぱく質や脂肪、風味に関わる成分が濃縮されています。そのため、廃棄物ではなく食品素材として活用できるのではないかと期待されてきました。ただし、外皮は空気にさらされた表面であり、微生物も多く含みます。これまでの研究は、少量の配合や豚肉など牛肉以外での検討、風味に絞った評価が中心でした。そこで、イタリアのパドバ大学などの研究チームは、熟成牛肉のパティ(ハンバーグ状に成形した挽き肉)に外皮を40%という高い割合で混ぜ、店頭陳列を想定した7日間の保存中に、品質・微生物・食味がどう変化するかを調べました。
外皮40%のパティと外皮なしのパティを7日間比べる
研究チームは、牛のリブロース4本を約2℃・湿度約75%の熟成庫で35日間ドライエイジングしました。その肉を挽いて、2種類のパティを作りました。1つは熟成肉だけのパティ、もう1つは熟成肉と挽いた外皮を60対40で混ぜたパティです。著者らは、40%という配合はすぐ商品化するための最適なレシピではなく、効果をはっきり見るための試験的な設定だと説明しています。
パティは食品用フィルムで包み、約4℃の照明付き冷蔵環境に置きました。作った当日、3日後、7日後の3時点で、次の項目を調べています。pH、色、保存中に出る肉汁(ドリップ)の量、加熱による重量の減少(加熱損失)、水分・脂肪・たんぱく質などの成分、細菌数です。さらに、訓練を受けた7人の評価者が、生と加熱後のそれぞれについて、見た目、香り、異臭、好ましさを採点しました。
なお、4本の肉はまとめて混ぜてから2種類のパティに分けています。そのため、個々のパティは独立した試料ではなく、同じ仕込みから取った小分けにあたります。著者らはこの点を踏まえ、統計解析を探索的なものと位置づけ、結論は今回の試験的な配合の範囲に限られるとしています。
成分が濃くなり、加熱で縮みにくく、熟成の香りが強まった
外皮を混ぜたパティは、外皮なしのパティより水分が少なく、たんぱく質と脂肪が多い「濃い」パティになりました。作った当日の脂肪は100グラムあたり7.81グラムで、外皮なしの3.87グラムのほぼ2倍でした。エネルギー量も、外皮入りは100グラムあたり161キロカロリーで、外皮なしは121キロカロリーでした。著者らは、これほど配合が多いと成分そのものが大きく変わるため、観察された違いのすべてを外皮の機能だけに帰することはできないと述べています。
技術面で特に目立った利点は加熱損失の少なさです。外皮入りパティは、すべての時点で加熱による重量の減少が小さくなりました。当日は20.7%対25.2%、7日後は13.4%対19.9%で、差は7日後に最も大きくなりました。一方、生の状態で出るドリップの量は両者で大差ありませんでした。このことから著者らは、外皮の働きは冷蔵保存中よりも加熱時に現れたと解釈しています。
見た目と香りも変わりました。作った当日の外皮入りパティは赤みと色の鮮やかさが弱く、pHがやや高めでした(5.90対5.76)。評価者は、外皮入りパティを熟成らしいナッツのような香りが強いと評価しました。ただし見た目は、まだらで焦げ茶色の目立つ不均一なものと受け止められました。加熱後は、新鮮な牛肉らしい香りは外皮なしのほうが強く、熟成香は外皮入りのほうが強いという結果でした。
微生物が多く、日持ちには課題
微生物の結果は、日持ちの観点で特に重要だと著者らは位置づけています。外皮入りパティは、作った当日の時点で一般生菌数と腸内細菌科菌群(衛生状態の目安となる菌のグループ)が多くなっていました。ただ、細菌数はどちらのパティでも最初から高く、陳列中にさらに増えました。7日後には、どちらも一般生菌数が1グラムあたり10の9乗個(約10億個)を超えています。冷蔵の肉を傷ませる代表的な菌であるシュードモナス属も両方で増えましたが、パティの種類による差は見られませんでした。著者らは、作った当日の一般生菌数がすでに挽き肉の腐敗に関連する目安に近かった点を指摘し、熟成肉の表面に多い微生物と挽く工程が重なった結果だろうと考えています。
食味の評価では、加熱後の好ましさが保存とともに両方で下がりました。下がり方は外皮入りのほうが大きく、3日後は外皮なし65.4に対し外皮入り53.4、7日後の外皮入りは45.5で最低になりました。加熱後に「酸化した脂の臭い(油焼け臭)」がした割合は、7日後に外皮なしで62.4%、外皮入りで73.4%でした。腐敗臭は外皮入りの7日後にだけ、9.78%で感じ取られました。
風味を高める素材にはなるが、生のまま長く並べる用途には向きにくい
研究チームは、熟成肉の外皮は香りを強め、加熱時の歩留まりも高める素材として活用できると結論づけています。一方で、40%という高い配合では、細菌数の多さと保存中の劣化の速さが課題になります。このため著者らは、生のパティとして長く店頭に並べるより、すぐ食べる商品や、冷蔵で売る「温めるだけ」の加熱済み商品のほうが向いていると報告しています。これまで捨てられてきた部位に価値を見いだせる一方で、使い方には日持ちという条件が付く。そのことを、品質・微生物・食味を同時に調べて示した研究です。
著者:Yazavinder Singh(Department of Agronomy, Food, Natural Resources, Animals and Environment (DAFNAE), University of Padova, Viale dell'Università 16, Stecca 1, 35020 Legnaro, Padova, Italy)、Silvia Sabbadin(Department of Agronomy, Food, Natural Resources, Animals and Environment (DAFNAE), University of Padova, Viale dell'Università 16, Stecca 1, 35020 Legnaro, Padova, Italy)、Davide Martini(Department of Agronomy, Food, Natural Resources, Animals and Environment (DAFNAE), University of Padova, Viale dell'Università 16, Stecca 1, 35020 Legnaro, Padova, Italy)、Márk Tóth(Department of Feed Safety, Hungarian University of Agriculture and Life Sciences, H-2100, Páter Károly u. 1., Gödöllő, Hungary)、Marta Pozza(Department of Agronomy, Food, Natural Resources, Animals and Environment (DAFNAE), University of Padova, Viale dell'Università 16, Stecca 1, 35020 Legnaro, Padova, Italy)、Riccardo Miotti Scapin(Department of Animal Medicine, Production and Health, University of Padova (MAPS), Agripolis, Viale dell'Università 16, Stecca 1, 35020 Legnaro, Padova, Italy)、Massimo De Marchi(Department of Agronomy, Food, Natural Resources, Animals and Environment (DAFNAE) , University of Padova , Viale dell'Università 16 , Stecca 1 , 35020 Legnaro , Padova , Italy)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Yazavinder Singh, Silvia Sabbadin, Davide Martini, et al. Inclusion of 40% dry-aged beef crust into dry-aged beef patties: effect on physicochemical, microbial, and sensory traits during 7-day retail display. Applied Food Research 2026-09-28. DOI: 10.1016/j.afres.2026.102658. 原著ライセンス:CC BY.